(Prologue Scene1 Scene2 Scene3 Scene4 Scene5 Scene6 Scene7 Scene8 Scene9 キャラ紹介 あとがき)

つぼみたちの輝き 第22話
「花火の光に照らされて」


早坂ひかり
12歳 桜ヶ丘中学校1年3組 135.2cm 30.3kg 67-48-68

(キャラクターイメージイラスト:⑦さん)
 おかっぱの黒髪に小柄な体つきの中学1年生の女の子。おとなしく真面目な性格。
 極めてお腹が弱く、毎日30回近くトイレに駆け込んで水状の下痢便を排泄している。授業や試験は常に下痢との戦いであるが、内気で恥ずかしがりな性格のためトイレに立つことができず、ぎりぎりまで我慢してしまうことが多い。
 兄に支えられつつ敬愛する先輩や仲の良い友人にも恵まれ、大変ではあるが充実した学校生活を送っている。

澄沢百合
14歳 桜ヶ丘中学校2年2組 145.1cm 38.5kg 73-48-72

(キャラクターイメージイラスト:⑦さん)
 野球部のマネージャーを務める中学2年生の女の子。短い水色の髪で、明るく礼儀正しい性格。野球部のエースだった早坂隆に憧れている。
 小柄な体つきの割に排泄の量が人並み外れて多く、ゆるい便を大量に出してしまう。1学期末に行われた野球部の合宿で作った料理で食中毒を起こして激しい下痢になって入院し、退院してからもお腹の調子が悪いままになっている。

白宮純子
15歳 桜ヶ丘中学校3年2組 154.2cm 45.2kg 81-51-83

(キャラクターイメージイラスト:⑦さん)
 中学3年生で、類稀な美しさを備えた長い黒髪のおしとやかな美少女。名家のお嬢様でありながら別け隔てなく優しい性格で、学業も運動も優秀と非の打ち所のない完璧な女の子。
 しかし、我慢する力が極度に弱く、便意をもよおすとほとんど我慢できずに漏らしてしまうという恥ずかしい秘密を抱えており、そのことを周囲に知られないように毎日涙ぐましい努力を重ねている。

もくじ
Prologue
Scene 1. 早坂ひかりの日常
Scene 2. 澄沢百合の苦難
Scene 3. 大切な浴衣
Scene 4. お祭り行列模様
Scene 5. あきらめない強さ
Scene 6. 夜風の再会
Scene 7. 白宮純子の秘密
Scene 8. 明日、進むべき道
Scene 9. 光の滝
Epilogue
キャラクター紹介
あとがき




Prologue

「…………あっ……」
「…………?」
「……あの……あれは…………? 窓の外が、光って……」
「え…………ああ、そうか。見たこと、なかったよな。……今日はこの街の、花火大会なんだ」
「……花火…………あんなに、大きな…………」
「打ち上げ花火……見るの、初めてか?」
「はい。…………きれい…………光が、いくつも輪になって…………」
「……近くで見ると、もっときれいなんだ。空で花火が弾けて、広がって、消えていくところも……それから、光が見えて、少ししてから音が届いて……」
「…………素敵……ですね。……見てみたいです、わたしも……」
「ああ、見に行こう。来年、必ず……。一緒に、来てくれるか?」
「………………はいっ…………」




Scene 1. 早坂ひかりの日常

「ぅうっ…………!!」
  ギュルルギュルーーーーーッ!! ゴロギュルルピーーグギュルッ!
  グギュルルルルルルルピィィィィゴロロロロッ!! グピーーーーーゴログギュルルルルルル!!
 ひかりはお腹を押さえながら台所から廊下に飛び出した。わずかに揺れる黒いおかっぱの髪と折れそうに細い体つきからは、消え入りそうに儚げな印象が伝わってくる。しかしその慌ただしい足音と、お腹の奥から鳴り響く重苦しい水音は、彼女が間もなくその儚げな雰囲気からは想像できないような激しい下痢便を排泄することを物語っていた。

(……洗い物終わるまで、我慢できると思ったのに……!!)
 夏休み最後の土曜日。兄と一緒に昼食を食べ終え、洗い物を始めてすぐにお腹が痛くなり、あっという間に水状の隙間のない便意が肛門に押し寄せてきた。用を足して洗ったばかりの手で食器を扱うのを避けるために、できれば洗い物を終えてからトイレにと思っているうちに我慢できなくなり、たまらずトイレに駆け出していたのだ。

 いつものこと――。早坂ひかりにとっては、普通の女の子が一生に一度も経験しないほどの壮絶な下痢が日常だった。毎日何度も何度も猛烈な便意に襲われて水下痢を噴射してしまう。特に、食後に台所に立って洗い物をしていると必ずと言っていいほど急激にお腹が下ってくる。間に合った経験と間に合わなかった経験を積み上げたヒストグラムが、我慢できる限界点を彼女に教えてくれる。いまトイレに走らないと間に合わない、と。

  グピーーーグルルルルルルピィーッ!
  グギュルルゴロロロロロロロロロロロギュロロロロッ!!
  グギュゥゥゥゴロロロロロギュルルルルルッ!! ゴロロロロロログルルギュリギュルギュルーーーーーーーッ!!
(お願い、間に合って……!!)
 猛烈な勢いで押し寄せてくる下痢便の圧力に負けて膨らみ始める肛門をベージュのキュロットの上から右手で押さえつける。漏らした時の被害を少しでも軽減するためにズボンではなくスカートばかりはいているひかりだが、部屋着としては何枚かキュロットやズボンを持っている。スカートよりはお腹が冷えにくいし、家の和式トイレに長時間しゃがむ時は、落ちてこないように後ろを押さえなければいけないスカートよりもこちらの方が楽で、間違って汚してしまう確率も低い。部屋着なので漏らして汚れが落ちなくなってもそんなに気にならないということもある。

(着いた……おトイレ……!!)
 ひかりの目の前、半分開いた扉の向こうには白い和式便器が見える。便器の内側側面には、昼食の前に使ったときに飛び散った茶色い飛沫が無数に残されている。決してきれいなものとは言えないが、生まれてから何度お腹を抱えて駆け込んだかわからない、そのたびに激しい水状の下痢を受け止めてくれた便器。それがトイレの中でひかりの訪れを待っていた。

「うぁっ…………!!」 
  ゴロピィーーー ギュルルッ! グルルギュルグギュルッ!
  グピィィィィィギュルルルルルルルピィーーーーーッ!!
  グルルピィーーーーーーーーーギュルゴロロロロロロロロロロロロッ!! ゴロピィーーーーーゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ!!
  ビュルッ!! プジュプチュブピピピッ!!
 白い便器を目にした瞬間、お尻の内側で猛烈に便意が膨れ上がる。今すぐにでも出したいと肛門が短い破裂音で叫ぶ。白いパンツに小さな茶色い染みが浮かび、それが呼び水となって大量の水下痢を吐き出させようとしている。今にも漏れそうな感覚に突き飛ばされ、ひかりは一段高い段差を上がって便器をまたいだ。

(だめ……!! もうちょっとだけ、お願いっ!!)
 言うことを聞かない自分の体に必死に願いをかけながら、ひかりは右手でお尻を押さえつつ左手でキュロットとパンツを引きずり下ろす。茶色が染み込んだパンツの内側の布地が肛門に押し付けられている光景が照明に照らされた次の瞬間、震える肛門が押さえを跳ねのけて膨らんだ。同時にひかりは肛門を押さえていた右手を離し、腰まで動かさずにそのままお尻の中央の布地を掴んで最短距離で引き下げる。

「っ!!」
  ビシャァァァァァァァァァァジャアアーーーーーーーッ!! ブシャッビュビチィビシャーーーーーーーーーッ!! ブシャーーーーーーーーーーッ!
  ブシャッビチィィィィィブシャーーーーーーーッ!! ビシャビシャビュルルルルルルルルブビューーーーーーーーーッ!! ブジャッジャアアアッ!
 開いた肛門の隙間から凄まじい勢いで茶色い水下痢が飛び出す。直径2cmの水流は遠ざかろうとするキュロットとパンツを1mmもないほどの隙間でぎりぎり避けてくれた。――ただ、その先はひかりを待っていた便器ではなく、開け放たれたままの扉の手前の一段低い床だった。中腰で斜め後ろに噴射した初速度に30cm分の段差の位置エネルギーを加えて床に叩きつけられた液体は、段差の下一面に飛沫を撒き散らせ、廊下にも茶色の水滴を飛び散らせた。

「あぁ…………」
(…………またやっちゃった…………!! もっと早くおトイレに行けばよかったのに……!!)
 ぎりぎり漏らしはしなかったものの床を盛大に汚してしまった大失敗。それも、ひかりにとってはいつものことであった。常に猛烈な内圧を押し留めるために酷使されている小さな肛門は、トイレを目にした瞬間に排泄できると思い込んで勝手に開き始めてしまう。そのために、あとしゃがむだけの0コンマ数秒を耐えきることができず、便器の後ろを盛大に汚してしまうことが頻繁に起きる。

「くぅっ………………んっ!!」
  ギュルギュルーーーッ!! グギュゥゥゥゥゴロギュリリリリリリリリグルルッ!!
  ビュルッ…………!! ブジュッ…………ジューーーーーッ……!! ブビッブビジュブピッ!
 ひかりは内容物を吐き出して少しだけ圧力に余裕が出た肛門を締め直す。一度水下痢を通過させてしまった粘膜は完全には閉じきってくれず水下痢を少しずつ漏らしてしまうが、今はそれでよかった。全開噴射を便器の後縁に直撃させてしまうと、全方位に反射されて壁まで飛沫で汚してしまう。実際に壁紙の凹凸の奥には落ちなくなっている汚れがいくつも残っている。そうならないために、腰を落とすまでの間だけ、噴射の勢いを半減程度に抑えられればいい。痛むお腹をかばいながら必死に肛門を締め付ける。

「っ、あ、あぁぁ……!!」
  ブシャジャァァァァァァァビチィィィィィィィィィィブビューーーッ!! ブシャッビィーッビシャビシャビシャビシャーーッ!
  ビュッブビッブビビビビビブビューーーーーーーーーーーーーーーッ!! ビシャビシャーーーーッジャァァァァァァァブシャーッ!! ブジュビュジャアアアッ!
  ビュビシャーーーーーービシャァァァァァァァァァァァビシャーーーッ!! ビュビシャジャーーージャーッ!!
  ブシャビチャビシャーーーーーーーーーーービィィィィィィッ!! ブパッビチィーーーーーーーーーッブジュビィィィィーーーーッ!!
 勢いをわずかに弱めた水下痢が便器の後縁を叩き、周囲数cmに飛沫を広げた――しかし、壁や床や靴下の致命的な損害は免れた――その直後、ついに力尽きたひかりの肛門が全開になり、直径3cmにおよぶ水下痢の濁流が便器の最後部に注ぎ込まれた。清浄だった便器内の水は一瞬で未消化物混じりの茶色に染まり、トイレの中を猛烈な刺激臭で満たす。
 便器の中に炸裂して跳ね上げられた飛沫は便器の横縁を越え、ひかりの白い靴下に茶色い点々を塗りつけていく。肉付きの薄い白いお尻にも飛沫の水滴が付着し、重力と表面張力と摩擦力の釣り合いでその場で下向きに膨らんだり、茶色い流跡を残してお尻の下の頂点に向かって流れ落ちたりしていく。

「っくぅぅぅ…………!!」
  グギュゥゥゥゥゥゥゥギュルルルルゴロロロピィーーーーーーーーッ!! グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥグルルルルルッ!!
  ゴロッピィーーーーーグギュルーーーーーーーッ!! ゴロギュルルギュリリリリリリリッ!!
  ブシャビィィビュルブシャーーーーッ!! ビュビィィィィィィブジュブシャーーーーッ!!
  ブシャッビィィィィィビュルーーーーーーッ!! ブシャジャーーーーーーーーーーーーービィーーッ!! ビシャビシャビシャーーッ!
  ブビィィィィビュルビシャァァァァァビューーーーージャアアアアアアアアアアッ!! ビュッビュルビチィジャーーーーーーーーッ!! ブビッブビビビビビビィィィィッ!!
  ビシャビュビュビィーーーーーーーーーーーーーーーッブビューーーーーーーーーーッ!! ビュビシャァァァビューーーブビビビビビビビブジュッ!!
 ひかりはまた襲ってきた猛烈な腹痛に両手でお腹を抱え込み前かがみになる。一瞬後、足を擦りながら前に出て、噴射角が後方に向いて便器から外れそうになった水便の命中点を便器の底に引き戻す。
 お腹を押さえて震えながら、少しでも楽になることを求めて下半身に力を込める。一秒も空けずに始まる水下痢の大量放射。便器の底を埋め尽くした茶色い水下痢を跳ね除けてまた白い陶器が見えるほどに激しい噴出。出しても出しても終わらない水下痢が肛門から迸り続ける。
 幾度目かわからない放出の後、肛門で液体と気体が半々くらいの破裂音が響き、飛沫が直接周囲に飛び散った。

「はぁっ、はぁっ…………うぅぅぅ…………」
  ゴロゴロロロピィーーッ!! ゴロッギュルーーーーーーーーーッ!!
  ギュルルルピィーーーゴロロロギュルーーッ!!
  ギュルルルルルルルルルルゴロロギュルグルルグギュルルルルルルルルルルルッ!!
  ブジュ…………ジュルッ…………ピチャピチャピチャ…………!!
 肛門からの噴射が止まった次の瞬間にはお腹を両手で抱えて痛々しいほどに上体を前に倒す。まだ閉じられない肛門からにじみ出る水下痢がお尻の曲面を伝って流れ落ちていく。彼女の腹痛は、激しい下痢は、まだ終わっていない。お腹が唸るたびに体の中を液体が流れ落ちていくのがわかる。

「!!」
  ビシャビシャブビュブシャーーーーーーーーーーーッ!
  ビュッジャァァブシャーーーーーッ!! ビュルッビチビチビチィーーーッビシャアッ!
  ジャァァァァァァビシャーーーーーッビュルジャーーッ! ブシャビュルーーーーッブシャァァァァァビュルルルルルルルルルルッ!!
   ブシャビシャブビューーーッ!! ビシャーーーーッジャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!ビシャビジャァァブジャーーーーーーーーーーッ!!
  ゴロロロロロロロゴロギュルーーーーーーーッ!! ギュルゴロゴロギュルッ!
  グピィィィィゴロゴロゴロゴロゴロゴログギュルルルッ!! ギュルルルルルルルルギュルギュルルグウーーーーッ!!
 肛門が熱いと思った瞬間にはもう、茶色の水下痢が全力で溢れ出していた。大量の茶色い水で底が見えなくなった便器を高圧洗浄機のように叩き、また白色の陶器面を露出させる。一瞬噴射が途切れるとそこに周囲の水下痢が流れ込み、また次の瞬間には汚水が叩きつけられる。その間、一時たりとも彼女を離さない猛烈な腹痛。終わりの見えない苦しい排泄が続いていた。

「…………ひかり、大丈夫か?」
「えっ…………!! お、お兄ちゃん……あ、あっ……ごめんなさい、ドア……閉めて……!!」
 トイレの外から響いた兄の声に驚いてひかりは慌てて肛門を締める。
「もしかして………」
「う、ううん、ま、間に合ったんだけど、ちょっと汚しちゃって…………自分で片付けるから……」
 明らかにちょっとではない床の汚れを横目に、ひかりは必死に平然を取り繕った。
「あ、ああ…………まあ、それなら良かった…………片付けは気にしないでいいから」
「う、うん、あの……っ……!! ……ご、ごめんなさ…………っ!!」
  グギュゥゥゥゥゥピィィィィィィグルルルルッ!! ゴロッピーーグウーッ! ギュルーッ!
  ビシャビィーーッビシャァァァァビシャビシャアアッ!! ジャーービュルルルッ!!
  ブパッビチッビュビューーービシャーーーーッ!! ビュルッビューーーーーブシャーーーッ!!
  ビュルビチィーーーーーーーーーーーーッビュルーーーーーーッ!! ブシャッジャーーーーービュルビチィーーッ!! ビシャビシャーーッビュビュルルルッ!
  ビュブシャーーッビュルルルルルビシャアアアアアアッ!! ブシャッビィィィィィィィィィィィビシャーーーーーーーーーーーーーージャーーーーーーーーーッ!! ブシャッビシャァァァビチィィブビューッ!!
 ひかりが息を飲むのを見た隆は扉を閉めようとしたが、閉まり切る前にひかりの噴射が始まってしまった。遮るものなく廊下に響き渡る水下痢の破裂音。これもまたこの家で何度も繰り返されてきた光景だった。
(お兄ちゃん、心配してくれるのは嬉しいけど……やっぱり恥ずかしい……)
 ひかりは青ざめた顔の頬を赤く染めて、また肛門を開き始めた。 
「んっ…………くぅぅ……っ………」
  ビィーーーーーーッビュルルルルッ!! ブシャビィッ! ブジュブジュビュルーーッ!
  ビシャブシャーーーーーーーーーッビィーーーーーーーーーッ!! ブシャッビュルルルッビュルルルルルッ!
  ビシャビュルッブビューーーーーーーーッ!! ビシャビシャビシャビチィーーーーーーッブビィィィッ!!
  ビチッビシャビシャブシャッビィィィィィィィィィィィィィィィィッ!! ジャーーーーーーッビシャビシャビュルルルッ!!
 やっと扉が閉められたトイレの中で、ひかりは猛烈な音と汚れをばらまきながら水下痢を出し続けた。


「うぅ…………」
 後始末。
 度重なる水下痢排泄で酷使された肛門をいたわるように拭き、お尻に飛び散った飛沫を拭う。染みが付いてしまった靴下とパンツは軽く拭いた後に脱いで前の方の汚れていない床に置く。便器の中いっぱいに溜まって刺激臭を放つ水下痢から目を背けそうになりながら、便器の後縁と段上の床を拭いていく。ここまでは大したことはないが、床は大惨事だった。タイルの目地の間に染み込んでしまった水下痢は落ちなくなってしまっている――もっとも、床には茶色くなっていないタイルの隙間はほとんどなかった。今までに繰り返し汚してしまったことで色が染み付いており、新しく付いた汚れではなかったのだった。それでも、その色がこれ以上濃くならないようにひかりは紙を巻き取って拭き掃除を続ける。
 5分ほどかけてやっと後始末を終えたひかりが外に出ると、廊下に飛び出していたはずの飛沫はきれいさっぱりなくなっていた。
(…………お兄ちゃん、また掃除してくれたんだ…………)
 ありがとうという気持ちと、こんなことをさせて申し訳ないという気持ちが込み上げてくる。ひかりは兄にお礼を言うために台所へ戻った。

「お兄ちゃん……あの、ありがとう、廊下のお掃除と…………洗い物までやってもらっちゃって……ごめんなさい…………」
 ひかりが途中で投げ出してしまったお昼ごはんの洗い物は隆が片付けてくれていた。いつもひかりが料理を作る係で、隆が片付ける係になっており、今日はひかりが片付けもやると言ったのに、結局いつも通りになってしまった。
「気にするなって。それより、大丈夫か? 調子悪いなら、無理して花火に行かなくても……」
「う、ううん、だいじょうぶ。……いつもと同じくらいだから、早めにおトイレ行っておけばたぶん大丈夫……。それに…………やっと、あの浴衣を着られるようになったから」
 ひかりは少し視線を落として言った。いつもと同じくらい、というのは事実だった。今のトイレで今日11回目。昼までで10回に達しなければ調子が良い方で、具合が悪ければ午前中だけで15回を上回ってしまうし、夜中に何度もトイレに駆け込んだり腹痛で眠れなかったりすることもある。今日はそんなこともなく、特段調子が良いわけではないけれどひどく具合が悪いわけではない、という様子だった。
「そっか。ならいいけど……無理するなよ」
「うん。……じゃあ……わたし、着替えてくる……」
「ああ。じゃあ手伝いが必要な時は呼んでくれ」
 そう言ってひかりは上の階の自室に向かっていった。




Scene 2. 澄沢百合の苦難

「澄沢さん……まだ、下痢が治らないそうですね」
「……は、はい…………」
 夏休み前の野球部の合宿で食中毒に罹り、激しい下痢で入院生活を送った百合は、もう何度も通った病院の診察室で母を伴って初老の男性医師の診察を受けていた。
 水色の短い髪に、ぱっちりした目鼻立ち。明るく礼儀正しくいつも一生懸命だった彼女の表情には、深い陰がかかっていた。小柄ながら発達途上の膨らみが感じられた体つきは、明らかに細くなってしまっている。それは、食中毒に罹ってから1ヶ月近く経っても、まだ毎日下痢が続いているからだった。
「先週採取した検体で、すでに菌は検出されなくなっていますね。食中毒の影響はもうなくなっていると考えられるのですが……」
「でも先生、まだ下痢の症状が続いていて……以前よりトイレに行く回数もずっと多くて、下痢もかなりひどいんです」
 夏休みももう終わろうかという時期になっても、百合は長引く下痢に苦しめられていた。母がその様子を説明する。お腹を壊して何度も下痢していることを知られる恥ずかしさに百合は顔を紅潮させた。
「そうですね…………澄沢さん、いま一日あたりの排便回数は何回くらいですか?」
「え…………うぅ、あの…………5回から……多いと、10回くらいです」
 百合は直接的な質問に顔を赤くしながらも正直に答える。
「そうですか。もともとは1日1回くらいでしたか?」
「え、あ……はい…………うぅ…………あの、2回か3回くらいでした……」
「下痢とのことですが、便の形についてこの7種類の中から以前の形に近いものを指さしてもらえますか?」
「え……………………ええと………………………………これ…………です…………」
「では、今の状態は?」
「うぅっ………………………い、一番下の……………………」
 百合は医師が取り出した紙に描かれた7種類の図を見て、頬を真っ赤にしながら回答した。ブリストルスケールと呼ばれる便性状の指標で、彼女が最初に以前の便性状を問われ、5と6の間で指を迷わせながら結局6番目を指した。「境界がほぐれて、ふにゃふにゃの不定形の小片便、泥状の便」と書かれている。次の質問――今の状態は迷う余地がなかった。「水様で固形物を含まない液状の便」を指さした。
 もともと百合はお腹が緩い体質で、ぎりぎり形を保つかどうかの軟便を一日2,3回、それも大量に排泄するのが常だった。それが今は毎日5回から10回、液状から水状の便を出している。それでいて、1回あたりの排便の量は減っていない。毎回大量の水分を吐き出して脱水症状になりかけながら、苦しい排泄を続ける毎日であった。

「…………………現段階で特定はできませんが、原因はいくつか考えられますね。有力なのは、感染性腸炎の後に下痢が続くようになる症状で、感染後過敏性腸症候群というものです。その他に考えられるのは、膵臓や甲状腺などの全く異なる臓器の疾患。それから、思春期に伴う体質の変化が特定のきっかけで現れる……ということもありますね」
「…………っ……」
「……一体、どれなんですか?」
 深刻そうな内容に体を震わせる百合に代わって、母が不安げに問いかける。
「まだ、どの可能性も否定できません……いずれも専門的な検査や診察が必要ですので、赤十字病院に紹介状を書きます。あそこの小児科には消化器専門の先生がいますから、必ず正しい診断をつけてくれるはずです」
「……わかりました。よろしくお願いします」
「あの…………先生」
「何ですか、澄沢さん?」
「……あ、あの、私の体…………治るんですよね……? もしかして、ずっとこのままなんてことは…………」
「……絶対治る、とは言い切れませんが、少なくとも今よりも改善はできるはずです。ただ、数ヶ月くらいはかかると思いますので、少しずつ良くしていくつもりでがんばってください」
「うぅ…………わかりました」

 百合と母はため息をつきながら病院を後にした。まだ原因がわからないので強い下痢止めは使えず、腸内環境を整える整腸剤を出してもらったが、しばらくこの生活が続くと考えるとどうしても気が沈んでくる。いつ激しい下痢に襲われるかわからない毎日。家にいても落ち着かないのに、学校が始まったら無事に通えるだろうか……。
(こんな状態じゃ…………早坂先輩に会えない…………)
 百合は憧れの先輩のことを思い浮かべて、自分の惨めさを一層強く感じた。
(夏の大会が終わったら……先輩に告白しようって、思ってたのに…………このままじゃ…………)
 毎日ひどい下痢を繰り返して、我慢できず漏らしてしまうこともあるような状態では、とても先輩に告白することを考えられなかった。断られてもいいから気持ちを伝えたい、というささやかな願いすらも叶えられなくなり、百合は唇を噛み締めて目を閉じた。

 車の助手席に座り、女の子らしい飾り襟のついた白のTシャツの下のお腹に手を当てながら、家に着くのをじっと待つ。もし途中でお腹が痛くなったら――。
「……今日、花火に行くの、お休みした方がいいわね」
「え……。そんな…………私、行きたいよ……瑞奈ちゃんたちとも約束してるし……」
「でも、トイレもすごく混むし、我慢できなくなったら大変でしょう?」
「だ、大丈夫だよ……ちゃんと我慢できるから…………っ!!」
  グギュルルギュルルゴロゴロゴロッ! ギュルルギュロロゴロロロロロロッ!
  ゴログルルルルゴロロギュルルルルピィーーーーーーーーーーッ!! グピーーーギュルギュルルルルグウーーーッ!
 百合は突然弾かれるように上体を倒した。シートベルトが一杯に引っ張られる。突然襲ってきた猛烈な腹痛。わずか数秒の後に、肛門に押し寄せてくる大波のような便意。毎日百合を苦しめている、急激な下痢だった。お腹が痛いと思った次の瞬間にはもう漏れそうなほどの圧力が肛門を満たしている。

「百合!? 大丈夫?」
「うぅ…………お腹……痛い…………おトイレ…………」
「大変…………家まで我慢できそう?」
 母は百合の顔を覗き込んで、その青白さに驚いた。病院から家までは車で10分ほどの距離。病院を出て3分が過ぎており、あと7分耐えることができれば家に帰れる。
「う、うん……………うぅっ…………早く…………!!」
  グピィィィィィィィィィィピィィィィィグルルルッ!! ピィーーッ!!
  ゴロピィィィィグギュルーッ!! ゴロピィィィィィィグウーーーーーーッ!! グギュルルギュリリギュリリリグルルルギュロロッ!!
 今にも爆発しそうなお尻の穴を締めながら必死に耐える。右手をお尻の下、水色のスカートの中に差し込み、肛門を下着ごしに押さえつける。
「わかったわ、もう少しだけ我慢してね」
 母は百合を落ち着かせるように優しく言って、強めにアクセルを踏んだ。

(お腹痛い…………トイレ……トイレ……早く…………!)
  ピィーーーーーギュルルルピィーッ! グピィィギュリリリッ!!
  ゴロギュリゴロロロロギュルーーーーーーーーーーッ!! ゴロギュルーッ!!
  ゴロッピーーーーーーーーーーーーグウーーーーーッ!! ゴロッギュルギュルルルルギュリリリリリッ!!
  ブピィッ……ブジュ……!! ブピピピッ……!!
「百合……!? 大丈夫?」
 体を震わせる百合が視界の端に入り、肛門で鳴る空気の音がエンジンの回転音と異なる周波数で聞こえる。母は百合の限界が近いことを悟った。
「…………ま、まだ、だいじょうぶ………………あ……あっ…………!!」
  ピィィゴロゴロゴログギュルーーーッ! ギュルピーーギュルルルルルルーーーッ!!
  ピィィィィギュリリリリリギュルルルルルッ!! ギュルルルルルルピィィィィィグウーーーッ!!
  グピィグルルルギュルグピィーーーッ! グギュゥゥゥゥゥギュルギュルギュルーーーーッゴロロロロロロッ!!
  ブジュッ! ビチッブビジュブビィッ!!
 今度は水気が強い破裂音が響いた。肛門を押さえつけている指に振動が伝わり、一瞬遅れて湿り気に包まれる。
「お、お母さん、もうだめっ、どこかで――」
「うん。……あの公園で止めるから、あそこのトイレに!!」

「着いたわ!」
「……うぅぅっ!!」
  ギュロロロッ!! グギュゥゴロロゴロピィーーッ! グピィィグルッ!
  ゴロロロロロロロロロロロピーーーゴロゴロゴロッ!! ゴロッピィーーギュルルルルルルッ!
  グピーーーーーーーーーーーーーーーギュゥゥゥゥギュルゴロギュルルルッ!! グピーーーーグルギュルルギュルルルッ!!
  ブボボビチビチッ!! ブジュルルッ! ビチビチビチブジューーーーッ!!
 百合は車が完全に止まる前にシートベルトを外し、ドアを開けて転がるように車外へ飛び出した。トイレ以外で聞こえてはならない音が百合の小さなお尻から響き続けている。
 
(早く、早くトイレっ!!)
 百合は公園の敷地に入ってすぐのトイレに飛び込んだ。古い男女共用のトイレで、男子用の小便器はなく壁に向かってする形で、立ちのぼるアンモニアの刺激臭がトイレの中を満たしていた。個室は水洗の和式が2つで、こちらもお世辞にも綺麗とは言えない。しかし、今の百合には便器さえあれば何でもよかった。百合は迷う余地なく手前の個室に駆け込んだ。

「え……」
 扉を閉めながら見た和式便器の中には、はっきりと黄色い透明な液体と、その液体を吸った紙がそのまま残されていた。
  ゴロゴロロギュロロロロロロロロロッ!! ゴロギュルルルギュルゴロロロッ!!
  ゴロロロロロロロロロロギュルギュロロロロロロロッ!! ゴロッギュピィィィィッ!
  ゴボッゴポブブッ! ブジューーッ! ブジュジュボッ!
  ブジュゴボゴポブジュ!! ゴボボッゴポブボッビチビチビチゴボブビィィィッ!!
 恐ろしい音が百合のお腹の奥から響き、同時にショーツの中がはっきりと液体で満たされる。もうちびったと言える状態ではなく、完全に漏らし始めてしまっていた。

(でちゃった!? やだ、早く、はやくぬがなきゃ!!)
 百合は下半身に広がる温かい感覚――お尻の周りだけではなく前から腰のあたりまで、さらに太ももを流れ落ちて広がっていく水下痢の不快感に突き動かされ、慌てて右手でスカートをめくりあげてショーツを片手で下ろした。黄土色に汚れた小ぶりなお尻がスカートの奥に見え、その一番中心にある肛門が震えた次の瞬間――。
「あ、あ、あぁぁぁぁっ!!」
  ビュビュルルルルルルルルルビチィーーーーーーーーーッブビィーーーーーーーーーーーーーッ!! ジャァァァァァァァブビューーーーーーーーーッビチビチビチビチビチビチ!!
  ビュルルルルルビシャブシャーーーーーーーーーッ!! ビィィビュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルブジャァァァァァッブビィーーッ!!
  ビチィーーーーーーーッ!! ビュルッビチィブビューーッ!! ブジャビシャビュルルルビューーーーービシャビシャビシャジャアアアアアアッ!!
  ブパッビィーーーーーーーーーーーーーーーーーーッビュルーーーーーーーーーーッ!! ブピブビッブビビビビビビィィィィィッ!!
  ブジュルルルルルビシャビシャビシャジャアアアアアアアアーーーーーーーーーーッ!! ブシャビィーーーッビシャアアアアアアアアアアアアアッ!!
 いつも信じられないほど大量の下痢便を出してしまう百合。彼女がお腹を完全に下し、漏らし始めるほど限界まで高まった便意を、下着をかろうじて下ろしただけで中腰の状態で解放してしまった。勢いよく噴射された大量の水下痢は、便器どころか後ろの床をも飛び越え、コンクリート製の壁に直撃した。直撃した地上50cmから下は、全て彼女が生み出した黄土色に染まる。細かい飛沫は1mを超えた高さまで飛び散っていた。床も百合が立っているところから後ろは、隅から隅まで完全に水下痢の海と化していた。

「あ、あぁぁぁ…………うそっ…………」
 百合はしゃがむこともできず、立ち尽くしたまま後ろを見た。
 床が、見えない。びしゃびしゃの黄土色の水が、便器の後ろの床を埋め尽くしている。壁にも水下痢が叩きつけられた飛沫が飛び散り、有り余る水分を滴らせて下へと流れ落ちている。まるで事件現場のような恐ろしい光景だった。
  グピィィィィィギュルルルルルルルルギュリリリリッ!! ゴログルギュルーーッ!
  ゴロッゴロゴログギュルルルルルルルッ!! ゴロギュルピーーギュリリリリリッ!! ゴロゴロゴロピィーーッ!
「ひぅっ!?」
 肛門と落着点から轟いていた音が止んで1秒もしないうちに、今度は百合のお腹から凄まじい音が響く。直腸に圧力を感じた瞬間には水流が飛び出し始めたが、それよりも早く流れ込む水便が直腸を膨らませ、肛門の内圧を高めていく。
(だめっ、しゃがまなきゃ!!)
 百合は服を汚さないように必死にスカートを引き上げながら、崩れ落ちるように便器の上にしゃがみ込もうとした。だが、それよりも力尽きた肛門が開く方が一瞬早かった。
「うぅぅぅぅぅ!!」
  ブシャッビュルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッビシャーーーーーーーーーーーーッ!! ビュッブシャーーーッビシャアアアアッ!!
  ブシャビチャビュルーーーーーーーーッ!! ビシャビチビチビチビチッジャーーーーーッ!!
  ブパッビシャァァァァァァァァビチャッビチャビチャビチャビィィィィィィィィィッ!!
   ビシャビュルーーーーーーーーッビシャァァァァァァァビィーーーッ!! ブシャーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ジャーーーーーーーーーーーーッ!!
  ブシャビチャビュルーーーーーーーーッ!! ジョボボボボボビシャビシャビチィビチビチビチジャーーーーーッ!!
 百合はまた中腰のまま水下痢を噴射してしまった。すでに一面の水たまりとなった黄土色の水面に液体が降り注ぎ、さっきとは比べ物にならないほど広い範囲に飛沫を撒き散らす。百合の白いスニーカーの後ろは完全に黄土色に塗りつぶされた。
 噴射しながらしゃがみ込む途中で便器の後ろ縁を水流が直撃し、その曲面で勢いよく反射して床や便器の側面、果ては横の壁や扉までを汚していく。お尻やスカートの内側にもいくつもの黄土色の水滴が飛び散った。
 止まることのない水下痢の水流はやっと便器の中に注ぎ込まれるようになった。しかしそれで便器の外が汚れなくなるわけではなく、凄まじい勢いの噴射が便器の底に溜まった黄土色の飛沫を跳ね上げていく。もともとあった黄色い水はもう見えなくなり、紙も便器の奥に押し流されていた。

「……あ……あぁぁぁぁっ…………」
 百合は個室に入ってから30秒足らずの間に自分が作り上げてしまった惨状を見て言葉を失った。便器の中と床の上と壁と扉と、全てに汚物が叩きつけられている。お尻と靴下と靴が飛沫まみれになっている。靴の後ろ半分は後方から広がってきた黄土色の水たまりに飲み込まれている。漏らしている間に流れ落ちた水便が脚にいくつもの黄色い流跡を残している。膝下までも下ろせていないショーツは後ろ半分が黄土色に染まり、流れ落ちる水下痢が便器の中の汚水の海に注がれている。
 一瞬噴射が途切れた時に後ろを見ないでしゃがみ込んでいれば、便器の縁を直撃することは避けられて辺り一面を汚さずに済んだかもしれない。ただ、それができなかったからと言って責められるべきではないだろう。百合はお腹が弱い方とはいえ、ここまでひどい水下痢の経験は数えるほどしかなく、一瞬を争うようなとっさの判断に慣れているわけではない。むしろそんな判断が瞬時にできてしまう方が異常なのだ。

「っく…………うぅぅぅ…………!!」
  ビュルッビュルビシャーーッジャーーーーーーーーーーッ!! ブジャブシャァァァァァァビューーーーーーービィィィィィビュルルルルルルッ!! ビュルッ!
  ブパッビシャビュルーーーーーーーーーーーッブビューーーーーーッ!! ブシャビュルーーーーッビチビチビチジュビィィィィ!!
  ブジャッビュルルルルルルルルルルルルルルルビチャビィィィィィッドボボボボボボッ!! ビシャビィィィィィィィィィビチビチビチィーーーーーーッ!!
  ブシャァァァァァァァァァビシャーーーーーーーーーーーーーーーーッビシャアアッ!! ドボドボドボッジャァァァァァビチィィィブビューーーーーーッ!!
 これだけの量を出しても百合の排泄はまだまだ収まらず、和式便器の中に水下痢を注ぎ込み続けている。飛び散る飛沫は便器の側面だけでなく前方の金隠しの裏面まで黄土色に染め上げている。
 水が肛門を流れ落ちる音だけが響いていたトイレの中に、もう少し重い水音が響く。和式便器でなく、水深の深い洋式便器に水下痢を注ぎ込んだ時のようなドボドボという音。最初は叩きつけられる水流が黄土色の水たまりの下の便器の白い陶器を露出させていたが、大量の水下痢が便器の中に溜まることで噴射の勢いが便器の底まで届かなくなって、音の高さが変わるとともに黄土色以外の色が見えなくなっていた。

「うぁぁぁぁっ…………!!」
  ビィィィィィィィィィビチィーーーーーーーーーーーーーッドボボボボボッ!! ビュビューーーーーーーブシャーーーーーッ!!
  ジョボボボボボブピッビシャーーーーーーーーーーーーブビューーーーーーーーッ!! ビュッビシャァァブビビビビビビチィーーーーーーーッ!!
  ビシャァァァビィーーッドボボビチャビュルルルルビィーーーーーッ!! ドボドボドボッブシャビチャビチィーーーーーッ!! ブシャッビィィィィィィィィィッ!!
  ビシャーーーーッブシャビシャアアアアッジャーーーーーーーーーーーーーーッ!! ドボボボボボビュルッビチャブビューーッドボドボドボッ!! ブピッビュルビューーーージャーーーーーッ!!
 百合はその後も凄まじい勢いで水下痢を吐き出し続け、体中の水分が失われるかのような衰弱を覚えながらしゃがみ続け、崩れそうになる姿勢を必死に支えた。その間にも水下痢は止まることなく降り注ぎ、便器の中を汚水と飛沫で一杯にしてやっと排泄を終えた。


(ど、どうしよう…………)
 百合は自らが生み出した惨状を見下ろして絶望していた。どうしようもないことが誰の目にも明らかだった。公衆トイレには紙も用意されていない。我慢するのに必死でティッシュを持ってくることもできなかった。掃除用具入れのようなものもなく、汚してしまった個室を片付ける手段はなかった。近くに駐車場がなく、母に助けに来てもらうこともできない。汚れの量も尋常ではなく、床面積の半分は黄土色に塗りつぶされていた。凄まじく大量の水下痢を、便器の後方にぶちまけてしまった百合の大失敗だった。便器の中身はかろうじて流せるかもしれないが――。

「……あ…………!!」
 百合はさらに恐ろしいことに思い当たって、震えながら水洗のレバーに手を伸ばした。押し込む。力を込めて下に倒す。体重をかけて押し込む。
 ……水が流れなかった。
 百合が入ってくる前に便器の中にあった尿と紙は、流さなかったのではなく流せなかったからそこに残されていたのだった。――もっとも、先に気づいていたとしても、百合に奥の個室まで行く余力は残されていなかったから、迷って時間を浪費しなくてよかったのかもしれないが。
 わざとやったのではないとはいえ、個室を信じられないほどに汚し、便器の中の汚物もそのままに残していかなければいけない。百合の前に入った人も恥ずかしく申し訳なかっただろうが、おしっこと水下痢――それも女の子が出したとは思えないくらい大量の――ではその恥ずかしさは桁違いだった。8月の暑さが、百合が出した汚水から凄まじい臭気を立ち上らせる。か細い彼女の体の中にあったとは思えない汚く臭い水下痢が、トイレの中を埋め尽くしていた。

「う…………うぅ…………あぁぁぁぁぁ…………!!」
 百合は泣きながら、大急ぎでショーツの白い部分で汚れたお尻と脚を拭いた。汚いとはいえこのトイレが一応管理されていることを示す汚物入れに文字通りの汚物と化した下着を突っ込み、人が来ないうちに逃げ出すことしか彼女にはできなかった。
 トイレを飛び出した百合は、公園の入口で数人の少年とすれ違った。弟と同じくらいの年代の小学生たち。あと少し出てくるのが遅れていたらトイレから出てくるところを目撃されていた。彼らがトイレに入り、あの惨状が見つかったら大変なことになる――百合はそうならないよう祈りながら、心配そうに待っていた母の車に乗った。ゆっくりと走り出す車の窓から、すれ違った少年の一人がトイレの入口に立ち、大きな声で他の少年を呼び集めているのが見えた。百合ははっと息を飲み、浮かべた絶望的な表情を母に見られないように顔を覆った。その後どうなったか、振り払おうとしても頭に浮かんでくる。彼女は家に着くまで一度も顔を上げることができなかった。

 ……やっとのことで家に帰りついた百合はもう、花火に行きたいとは言わなかった。



Scene 3. 大切な浴衣

「あっ、ひかりちゃーーーーん!!」
「ひかりー! こっちこっちーー!!」
「美奈穂ちゃん、幸華ちゃん……!!」
 花火が打ち上げられるけやき野市中心部は、隆とひかりの家から5kmほど東にあり、最寄りの桜ヶ丘駅から電車で一駅の距離だった。いつもと違い満員になったローカル線の電車に乗り、けやき野市の中心街に降り立ったひかりは、人混みの中で手を振る二人の女の子を見つけた。
 可愛らしい水玉模様が描かれた裾の短い黄色の浴衣に身を包んだ背の低い少女が、遠野美奈穂。いつもと同じ二房に分けた髪を、可愛らしい大きなリボンで結んでいる。
 橙色の鮮やかな浴衣を着て、長い髪をまとめてかんざしを刺した少し大人っぽい印象の少女が、香月幸華。
 見た目は対称的な二人だが、両者とも楽しげな微笑みを浮かべている。ひかりが中学校に入って出会った、親友という言葉がぴったりの大切な友達だった。単に仲が良いだけではなく、ひかりのお腹の弱さもよく知っており、トイレに行きやすいように気遣ってくれる。彼女たちの前で漏らしてしまったこともあるが、それでも汚いなどと言わずに受け入れてくれた。ひかりが安心して学校生活を送れるのは二人のおかげだった。
「よかった、人が多すぎて見つからなかったらどうしようって思ってたの。みなが見つけてくれて助かったわ」
「うん。みなはね、おにーちゃんが見えたからすぐそばにひかりちゃんがいるってわかったの」
「あ、そうだね。……隆さん、お久しぶりですっ」
「ああ、美奈穂ちゃん、幸華ちゃん、この間は応援来てくれてありがとう。……でも、俺が一緒に来て良かったのか? ひかりと3人で楽しんでくればいいんじゃないか?」
 隆は、浴衣を来た3人の美しい少女――妹のことをそう言うのは贔屓目が過ぎる気もしたが、普段の部屋着や制服とは違う浴衣姿のひかりは間違いなく可愛く見えていた――と、特別でもないシャツとジーンズ姿の自分を比べて、思わず数歩引いてしまっていた。
「あのね、ひかりちゃんね、お兄ちゃんといっしょがいいって言ってたの」
「あ、み、美奈穂ちゃんっ……」
「それにね、みなもおにーちゃんといっしょがいいなって思ったの」
「ね、あたしもいろいろお話してみたかったし。あとですね、やっぱり女の子だけだと親が心配しちゃって……隆さんが一緒だから大丈夫、って言ってきたんです! ……まあ、花火が始まる頃にはうちもみなも両親が来るからそっちに戻らないといけないんですけど」
「そうか……よし、それならボディーガードとしてがんばるとするか」
「よろしくお願いします! じゃあひかり、花火が始まるまで屋台巡りでもしようよ!」
「う、うん…………」
 ひかりははにかむような微笑みを浮かべ、幸華と美奈穂に手を引かれて歩き出した。

 けやき野花火大会は、けやき野市の中心を流れる月ヶ瀬川の河川敷で行われる。駅と市街地のある北側が観客席、対岸が花火の打上場となっている。100年近くの伝統がある大規模な花火大会で、市内総人口の3倍を超える50万もの人出が集まる夏の一大風物詩だった。市内の小学生は図画工作の時間に花火大会の絵を書き、市内の公民館やスーパーなどにその絵が飾られて、子供から大人まで誰もが、夏といえば花火、という思いを持っている。
 晩夏の日は短くなってきたとはいえまだ明るい6時台、堤防の上に数え切れないほど並ぶ露店を眺めながら歩く。そのうち美奈穂が、ひかりを見上げて嬉しそうな顔で言った。
「ねえひかりちゃん、ひかりちゃんの浴衣すごく可愛い!」
「本当、すごくよく似合ってるよ。でもいつ買ったの? こないだ一緒に選びに行った時、もうあるからって……」
 ひかりが着ている浴衣は、薄い桜色の生地に鮮やかな紅色の桜の花を描き、白く抜いた花びらが舞う、美しい布地で仕立てられていた。袖はやや長く手の甲までを覆っているが、ひかりの小さく可愛らしい体型ぴったりに仕立てられ、鮮やかな色合いながら上品な風情を漂わせ、おとなしい性格のひかりによく似合うものであった。
「あの、これは………………お母さんが……縫ってくれたの」
「えーっ……すごい……!! こんなきれいな服作れるんだ! いいなあ、みなも作ってほし……あっ」
「……あ……………」
 感動して大きな声を出した美奈穂が、慌てて口を覆う。幸華も、少ししんみりした表情でひかりの方を見た。
 ひかりの母は、2年と少し前――ひかりが小学4年生の時、病で亡くなっていた。幸華と美奈穂はひかりの家に遊びに行った時、その話を聞いて涙していたのだった。
 ひかりが今着ているこの浴衣は、母がひかりのために、大きくなったら着られるようにと作り残してくれていたものだった。
「………………そっか……そうだったの……」
「…………ごめんね……ひかりちゃん……おかあさんのこと…………」
「……ううん、気にしないで。あの、お母さんも言ってたから……とっても仲が良い友達ができて、何でもお話できるようになるといいね、って……。お母さんが作ってくれた浴衣、美奈穂ちゃんが褒めてくれたこと……とっても嬉しいよ」
「ひかりちゃん…………ありがと……!!」
 謝る美奈穂に、ひかりは優しく声をかけた。小学校時代、友達がいないひかりを母はずっと心配し、兄の隆にひかりのことを頼んでいた。大切な友達ができたよと母に伝えたい。この浴衣を着ていると、天国の母にその気持ちが通じているような気がした。
「ひかりのお母さん……素敵な人だったんだね。それじゃあこれ……ひかりのために作ってくれた……大切な浴衣なんだ」
「うん。去年まで大きくて着られなかったけど、やっと着られるようになったから……」
「うん…………似合ってる。すごくきれいだよ、ひかり!」
「うん! ほんとにすごく可愛いし、素敵だよひかりちゃん!」
「あ……ありがとう…………わ、く、くすぐったいよ……」
 美奈穂と幸華がひかりの手を取って、頬を撫でる。とても仲の良い親友たちの、幸せなひとときだった。

「そうだ、暗くなる前に記念写真撮るか。親父のカメラ持ってきたから。幸華ちゃんと美奈穂ちゃんも入って」
 隆が肩掛けの鞄から小型のカメラを取り出し、フィルムが巻かれているのを確認して両手で構えた。
「え、えっ……!?」
「嬉しい! じゃあほら、ひかりが真ん中!」
「わ、わたしは端っこでいいよ……それより、わたしが撮るから幸華ちゃんと美奈穂ちゃんが……」
「だめだよ、ひかりちゃん! 今日はひかりちゃんが一番可愛いんだから、ひかりちゃんが主役!」
「え、ええっ…………」
 恥ずかしがりなひかりは横に引っ込もうとしたが、幸華と美奈穂に捕まえられて真ん中に据えられた。
「そーゆーわけで、はいひかりが真ん中。みな、もうちょっと寄って」
「うん。ぎゅー」
「わ、美奈穂ちゃん近づきすぎ……」
 美奈穂が背伸びして頬と頬を合わせるように顔を近づける。ひかりは毎日ひどい下痢をしているため栄養状態が悪く、体も小さく学年で2番目に小さい身長だったが、美奈穂は小学校低学年に見えるほど小さく、彼女だけからはいつも見上げられたり背伸びされたりしていた。幸華もそれに合わせて腰をかがめて頬を寄せる。
「これくらいでいいの。じゃあ隆さん、お願いしまーす!」
「よし……はい、チーズ!」
 パシャ
「うん、きっとよく撮れてるはずだ。じゃあ……」
 隆がカメラをしまおうとすると、幸華にそれを止められた。
「ちょっとちょっと! 隆さんとひかりちゃん一緒の写真も撮らなきゃ! カメラ貸してください!」
「え、い、いいよ俺は……」
「おにーちゃん、ひかりちゃんと一緒の写真があったら、きっとお母さんも喜ぶよ」
「あ…………」
「…………美奈穂ちゃん……」
 美奈穂が言った言葉に隆とひかりは心を打たれ、そっと頷いた。
「……そうだな、ありがとう、美奈穂ちゃん、幸華ちゃん」
「じゃあ……お願いしますっ……!」

「ごめん遅くなっちゃった! ささ、食べよ食べよ! いただきまーす!」
 屋台を巡って思い思いに好きなものを買ってきた3人は堤防の斜面に腰を下ろした。美奈穂はいちご味のかき氷、ひかりはふわふわのわたあめ、幸華は大粒のたこ焼きを手にしている。
「んー! かき氷冷たくておいしいよ! ひかりちゃんも食べる?」
「え……わ、わたしはその、おなか冷えちゃいそうだから遠慮しておきます……ごめんね」
「みなも食べ過ぎには気をつけなよ。去年おなか壊して大変だったでしょ」
「うー、わかってるよぉ」
 美奈穂が赤いシロップをつけた口を尖らせる。
「くすっ……じゃあ美奈穂ちゃん、一休みでわたあめどうぞ」
「ありがとーひかりちゃん! ぱくっ」
「あたしももらっていい? んー、このふわっとした感覚がたまらないわね。でもひかり、それだけだとおなか空いちゃうでしょ? たこ焼きあげるよ」
「あ、ありがとう…………うん、おいしい……!!」
 爪楊枝に刺したたこ焼きを受け取り、ひかりは少しだけ迷って、半分ずつかじるように口にいれた。ソースの強い味の後に、熱々の中身がとろりと広がる。
「でしょ? ほら、もう一個食べなよ」
「あ……で、でもやっぱり食べすぎるとおなか痛くなりそうだから…………これでやめておくよ。ありがとう幸華ちゃん、とっても美味しかった……」
「うぅ……ひかりちゃんたくさん食べられなくてかわいそう……」
「だいじょうぶ、いつも慣れてるから…………それに、今日は念のためってだけで……普段はちゃんと食べてるから大丈夫だよ」
「ほんとに? ひかり、給食とかちゃんと食べてる?」
「うん。その……わたし、何を食べても同じくらいおなか壊しちゃうから……最近は、できるだけちゃんと食べるようにしてるの」
「ひかりちゃん…………」
 美奈穂はもう可哀想という言葉すら出てこない様子でひかりに同情して涙を浮かべていた。


「そういえば隆さん、女の子と一緒に行こうとか思わなかったんですか?」
「え!? な、なんだ、いきなり……!?」
 女の子3人の微笑ましい話を少し離れて聞いていた隆は急に話を振られて、食べていた焼きそばを吹き出しそうになった。
「淡倉さんとか、小さい頃一緒に行ってたってひかりから聞きましたけど」
「え……ああ、美典は今年家族旅行に出かけてるんだ。高校に入ったら時間が取れなくなるだろうから、今のうちにってさ。海外って言ってたけど、どこだっけ……」
「お兄ちゃん、あの……シンガポールだよ。マーライオンとかがあるところ」
 一緒に話を聞いていたひかりが助け舟を出す。美典は3軒隣の近所に済んでいる隆とひかりの幼なじみで、幼稚園から小学校まで同じ。ひかりにとっては姉のような存在でもあった。
「へえ、いいなあ……でもインタビューとしてはそれじゃ面白くないですね。いつまで一緒に行ってたんですか?」
「ん……小学校6年の時までかな」
「なんで行かなくなっちゃったんですか? 噂されると恥ずかしいからとか?」
「いや、美典はそんなこと言わないけど……まあ、いろいろあってな」
 はっきりとは言わなかったが、美典が一緒に行かなくなったきっかけはなんとなくわかっている。6年生の時、かき氷を食べてお腹を壊した美典が花火大会のトイレ行列で我慢できず漏らしてしまい、トイレの裏に逃げ込んで残りの下痢便を出しているところを心配になって見に来た隆に見られてしまったからだった。今更そのくらいで恥ずかしがらなくてもと思ってはいるが、本人にとっては思い出したくない経験だったのだろう。
「ふーん……いつか淡倉さんに聞いてみよっと。じゃあ、他の人は? 例えば……大穴でうちの姉さんとかは?」
「え、香月……? いや、前に話したけど人混み苦手だから行かないって言ってたぞ」
「確かに今日もお留守番するって言ってましたけど。……ほら、一緒に花火に行きたいなあとか、浴衣姿見てみたいなあ、とか思いませんでした?」
「あいつと……? なんか全然想像できないな」
「……まあ、そう言うと思ってましたけどね。たぶん、姉さんって女の子っていうよりいい友達、って感じなんですよね、きっと」
「ああ、確かに……。それに、友達っていうよりは悪友だな、たぶん」
「あはは、面白い言い方ですね」
 次に幸華が話を出した彼女の姉は、隆のクラスメートである香月叶絵のことだった。幸華と似た長い髪だがそれを無造作にまとめて、あまり女の子らしさを感じさせない彼女は、隆にとって仲の良い友達であった。隣の席にいた時には軽口を叩きあって過ごしていた記憶が強く残っている。
「……それじゃあ、本命のお話に行きましょうか、隆さん。……白宮先輩! なんで一緒に来てないんですか!?」
「な!? なんでって……べ、べつに白宮さんとは……なにも……」
 この街の中高生は誰もが、好きな人と花火を見に行くのを夢見ていると言ってもいい。隆もその例に漏れず、思いを寄せる相手――学年一の美少女である白宮純子と一緒に花火を見に行きたいと思っていた。
「えー、一緒に行こうとか言わなかったんですか?」
「うっ……ほら、白宮さんは何ていうかその、お嬢様だし、きっと、どこかの桟敷席でご家族と一緒にとか……」
「そんなの関係ないですよ! 隆さんから声をかけたらきっと来てくれたと思うんですけど。電話とかしなかったんですか?」
「い、いや、だってさ、電話してご両親とかが出たりしたら、なんて言い出したらいいか……」
「もう…………野球やってる時はあんなに格好いいのに煮え切らないですね全く! もっとこうグイグイ行かなきゃ。あー、白宮先輩すごく浴衣似合うと思うんですよね! あたしも一回見てみたいくらい。なのに隆さんときたら、もう意気地なしなんだから……ね、ひかりもそんなのじゃだめって言ってあげなよ」
「え…………で、でも…………わ、わたしでも同じように考えちゃうと思うし……」
「もう、二人して奥手なんだから……隆さん、あんまりうかうかしてると他の男の子に白宮先輩取られちゃいますよ!」
「うぐ…………」
 隆は言葉に詰まり、年下の女の子にやり込められる恥ずかしさを感じたが、しかし幸華の言っていることは間違いではなかった。夏の大会が終わり、卒業に向けたカウントダウンの半年間。何もしないでいいわけではないことは、隆自身にもわかっていた。もっともそれを行動に移せるかはまた別の問題なのだが。



Scene 4. お祭り行列模様

「あっ……始まった!!」
 地平線に沈んだ太陽が残されたわずかな輝きで空を青紫色に染める中、花火の玉が空中に打ち上がる音が聞こえ、夜空に光の花が咲く。1秒足らずの後にドンと響く音。赤と緑と黄色と青の光がパラパラと音を立てて舞い落ちていく。その余韻が消えた後、次の花火が打ち上がる。
 やがて花火が空中を飛ぶ音が聞こえないほど多数の光弾が空に浮かび、一斉に爆ぜた。空が明るくなるほどの輝きが空中に舞い散り、聴覚を灼くようなババババッという音が響きわたる。
「やっぱり、近くで見る花火はいいな」
「う、うん…………」
 隆は花火の光と音が間近に感じられることを喜んでいた。ひかりも同じ気持ちだったが、少しだけ不安なことがあった。花火が空中で炸裂し、光速と音速の差で0.5秒ほど遅れて届く重低音。それは空気の物理的な振動であることを、ひかりはその体で感じていた。特に大きな花火の重い音は、お腹に響くような感覚を覚える。そして……腸の奥が揺らされる感覚は、下痢の苦しみとよく似ている。その振動が逆に下痢を誘発するのではないかとひかりは心配になっていた。
(おなか…………まだ大丈夫だけど…………)
 屋台を巡る前に、念のためまだ混んでいないトイレに行って水下痢を出してから30分近く経っている。そろそろまた便意に襲われてもおかしくなかった。極度にお腹の弱いひかりは1日に30回近く水下痢を排泄する。起きている時間を18時間としても30分から40分おきくらいにはトイレに行かねばならない。
 花火大会では仮設トイレが設置されるものの、毎年人数に対して数が足りず、特に女子トイレはいつ順番が来るかもわからない長蛇の列になるのが常だった。ひかりが前に花火を見に来たのは小学校1年生の時だったが、案の定トイレに並んでいる間に我慢できなくなって水下痢を漏らしてしまい、泣きながら仮設トイレの裏で母に後始末をしてもらった。それ以来、花火は家の2階から遥か遠くに見ているだけだった。

(今日だけは……絶対我慢しなきゃ…………)
 ひかりはお腹をさすりながらそう自分に言い聞かせた。今日お漏らしをしたら、母が作ってくれた浴衣を汚してしまう。母がひかりのために作ってくれた、世界中に一着しかない服。汚して着られなくなってしまったら、もう二度と作ってもらうことはできない。ひかりは何があっても絶対にこの浴衣だけは汚さないと決意していた。

「ひかりちゃん、隆さん、じゃあそろそろあたしたちは失礼します」
「しつれーしますっ」
「ごめんね、最後まで一緒にいたかったんだけど……」
「ううん、気にしないで。また来年……それか、高校生になったら、みんなで最後まで見ようね」
 名残惜しそうにする幸華と美奈穂を、同じ気持ちのひかりが見送った。
「……その頃にはひかり、あたしたちとじゃなくて彼氏と来てたりして」
「え、ええっ…………そ、そんなこと絶対ないよ…………わ、わたしなんてちっちゃいし、おなか壊してばっかりだし……お兄ちゃん以外の男の人とちゃんと話したことないし……。きっと、最初にお付き合いする人ができるのは幸華ちゃんだよ」
「えー、みなもすてきなかれしとでーとしてみたい! おにーちゃんみなとでーとしてくれる?」
「え、ええっ!? いや、美奈穂ちゃんにはまだ早いかな」
「そうそう。それに、そんなことしたら白宮先輩や姉さんに怒られるわよ」
「な、なんだよ、白宮さんがそんなこと……それになんで香月まで出てくるんだ」
「もう、冗談ですよ。はぁ……あたしも素敵な男の人と付き合いたいなあ。……じゃあ、そろそろ失礼します! ひかり、次は始業式かな。元気でね!」
「うん……。幸華ちゃんも美奈穂ちゃんも、今日は本当にありがとう。またね」

 二人がそれぞれの家族の下へ去って数分、隆とひかりは花火に見入っていたが、やがてひかりが静かに立ち上がった。
「あ、あの……お兄ちゃん、わたし……ちょっとおトイレに…………」
「ああ……大丈夫か? 結構混んでるから、間に合わなそうだったら先に入れてもらうように……」
「う、ううん、今はまだそんなにしたくないから…………今から並べば大丈夫だと思う……時間かかるかもしれないけど、お兄ちゃんはここでゆっくり見てて」
「そうか……わかった。暗いから気を付けてな」
「うん」
 ひかりは小さな体を起こし、人混みを避けながらぱたぱたと小走りにトイレの方角へ向かっていった。
(……まあ、あの様子ならまだ大丈夫そうか)
 ひかりが本当に我慢できなくなっている時はお腹をさすったりお尻を押さえたりして、歩くのも立ち止まりながらになる。今の様子からするとまだ大丈夫というのは事実らしかった。

 花火が打ち上がり、花開き、散っていく。
(……やっぱり、白宮さんに電話すればよかったかなあ…………)
 一人になった隆は、昨日、それ以前にも何度も電話をかけようとして思いとどまってしまったことを思い出し、大きくため息をついた。


(…………結構、並んでる……)
 ひかりが一番近い仮設トイレにたどり着いた時、すでに折り返すほどの列が出来上がっていた。まだ花火は始まったばかりで、始まる直前に着く人が多いからまだ混まないと思っていたが、予想以上の人出でトイレも混み始めているようだった。
(20人で、トイレが4つ…………平均したら5人待ちで……短ければ10分かからないけど……)
 女子用トイレの行列の人数を見ると同時にひかりが無意識に計算を始める。最も早く列が進むケース――全員おしっこでスムーズに進んだ場合の計算結果は数秒で出てきた。1人あたり1分から2分程度とすればそれにトイレ1つあたりの人数をかければいい。
(でも…………)
 自分がそうであるように、大きい方――特に下痢をしている子がいたら、所要時間は大幅に長くなる。平均すれば5分程度だが、便意が収まらなければ10分経っても出られない。学校のトイレではほとんどおしっこの子ばかりだが、お祭りではかき氷でお腹を冷やしたり調子に乗って食べすぎてお腹を壊したりする子もいる。かなりの割合で下痢している子がいてもおかしくない。

「………………」
 ひかりは完全に日が落ちた夜の中で、花火の輝きを頼りに前に並ぶ女性たちを観察した。自分がそうしてしまうように、お腹を壊していることはふとした仕草でわかってしまうことが多い。トイレに並ぶ時に前の人がお腹を壊していないか観察するのは、いつも切迫したタイムリミットを抱えているひかりにとって欠かせないことだった。
 まず目の前にいる短い黒髪の女性が両手でお腹を抱え込むように押さえており、明らかに腹痛に苦しんでいる。顔色も夜空の下でわかるほど青白い。その前に並んでいる小学生二人はお腹が痛そうな感じはないが、一人は前を押さえていておしっこが漏れそうな様子だった。その一人前の子……ひかりと似た黒髪おかっぱの髪型の中学生くらいの子が、やはりしきりにお腹をさすっている。もっと前に視線を送ると、列の真ん中あたりで足踏みをして前押さえをしている低学年の子をなだめているお母さんの方が、ずっと片手でお腹を押さえて震えている。さらに前に行くと、前から5番目にいる、珍しい薄桃色のおかっぱ髪の女の子が前かがみでお腹とお尻を押さえてもう限界近い様子だった。その少し後ろにも、お腹を両手で抱え込んで俯いている子がいる。それから、先頭から2番目にいるのは……。
(弓塚さん……!?)
 間違いない。ひかりの同級生で生徒会役員を務める学年一の優等生、弓塚潤奈だった。お腹をさすったりお尻を押さえたりはしていない。前かがみになったりもせず、下痢をしているようには見えないが……唇を噛み締めてじっと動かない表情は真剣そのもので、それだけの表情を作らねばならない状態なのだろう。もう後二人だから大丈夫だと思うけれど……。
  ギュル…………ゴロ………
「………………っ…………」
(きた…………かも…………)
 ひかりは腸の奥で蠢く水の流れを感じた。まだ切迫した便意はないが、体の中でカウントダウンが始まっている。ひかりは無意識に思考回路の動作速度を上げていた。20人中少なくとも6人が下痢をしている。先程の計算式を鶴亀算のように補正し、15分くらいになるかな、とひかりは1秒もかからずに予想した。順番で言えばひかりの4人前の人が出てくれば入れるわけだから、すぐ前にいる女性の所要時間はひかりの我慢時間には関係ない。待ち時間が15分を超えることはないだろう。それなら授業中に我慢しきったことは何度もある。大丈夫、とひかりは自分に言い聞かせた。

 右から2番目のトイレが空き、黒地の浴衣を着た長い髪の美しい女の人が出てくる。すらりとした長身と凛々しい顔立ちには、どこかで見た覚えがある。もしかして、3年生の――そう考え始めた時、入れ替わりに入ろうとした高校生か大学生くらいの女性が、扉をくぐろうとした瞬間にうっと口元を押さえるのが見えた。個室に入った後、扉を閉めずに何度か開け閉めしている。まるで中の空気を追い出そうとしているかのように――。
(……汲み取り式だから、ひどいにおいになってたのかな……でも、まだそんなにたくさんの人が使ってはいないはずじゃ……)
 そうこうしているうち一番右のトイレが空き、潤奈が素早く中に入った。
「うぅっ…………!!」
  ブジュブジュルーーーーッビチチッ!! ブジュビチャァァァァァッ!!
  ビチビチビチブジューーッドボドボドボドボッ!!
「……!!」
 仮設トイレの壁がよほど薄いのか、ドアが閉まった後の破裂音どころか衣擦れの音や中からの声まではっきりと聞こえた。……やはり、潤奈もお腹を壊していたのだった。
(弓塚さん、大丈夫かな…………)
「あっ!!……や、あぁっ!!」
  ビュルルルルブビッブバァァァァァァッ!!
  ブジュビュルルルルルルルルルルルビチーーーーーブビィィィィッ!!
 そのトイレの中から慌てた声が響き、ガタガタと仮設トイレのボックスが振動する音が続く。それと連続してさらなる破裂音。
(…………うまくしゃがめなかったのかな……。それで、前に出ようとして…………)
 1段高くなっている和式の仮設トイレは、どうしてもしゃがむ位置が後ろに寄りがちであり、その状態で出してしまうと下痢便が便器の後ろを汚してしまう。さらに仮設トイレは建付けが悪いため動くと揺れて、慌てて前に出ると転びそうになってしまう。ひかりも何度も経験があった。小学校5年生の時に下校中に我慢できなくなり住宅工事現場の仮設トイレに飛び込んでしまった時などは、転びそうになって手をついた場所が水下痢をこぼしてしまった便器の縁で……。潤奈がそうなっていないことを祈るしかなかった。

「ね、ねえ沙絵ちゃん史音ちゃん、ボク、トイレ後でいいからちょっと向こう行ってくる」
 列の前の方、折り返してひかりの近くにいた少女たちのうち、一人がそそくさと列を離れた。
「んに? どうしたの急に?」
「あのね、さっきお姉様の後ろ姿が見えた気がして……ちょっと見に行ってくる。ボクのことは気にしないで」
「うん。いいよー」
 列を離れようとしたのは3人組のうち、髪をポニーテールにして活発そうなショートパンツをはいた女の子だった。
「史音ちゃんごめんね、また戻ってくるから」
「は、はい……………………」
 声をかけられた少女は花火を見ることもできず、ぎゅっと目を閉じてお腹を抱えて震えていた。
(あの人達…………もしかして、この前…………?)
 3人のうち残った2人には、幸華と美奈穂と一緒に下校中に3人ともお腹が痛くなり公園のトイレに駆け込んだ時に会ったような気がする。走り去った子も、確か兄の修学旅行の出迎えに行った時に見かけた……というかぶつかりそうになった記憶がある。ひかりはお腹が痛そうにしている少女のことが気になったが、あまりにつらそうな様子に声をかけることができずにいた。並んでいる人が一人減ったのはありがたいが、眼鏡の子のお腹の具合はかなり悪そうで、時間がかかることが予想される。ひかりも無意識にお腹をさすっていた。

 潤奈がトイレに入ってから1分、激しい音が途切れずに続いた。彼女にとっては運の悪いことに、たまたま花火の切れ目の時間帯で、排泄音をかき消してくれる上空の炸裂音が存在しなかったため、下痢便が飛び散る音は並んでいる女性たちにはっきりと聞こえてしまっていた。
 やがて一番左のトイレが空き、7、8歳くらいの女の子が入っていく。一緒に並んでいた母親は外で待っていてただの付き添いのようだった。
 程なく右から2番目の個室が空き、高校生くらいの少女が入っていく。ショートボブの髪型に黒いTシャツとカラフルなレイヤードスカートを身に着け、日焼けした健康そうな少女だった。

「うぐ……っ……!!」
  ブビュルルルルルルビチャーーッ! ビチチブバババブリリリリリッ!
  ブビビブリビチブリィィィィィィビチャァァァァァッ!! ブビュルルルルルルルルルルルルブビビチィィィビチャーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ブバババッ!!
「……!!」
 ひかりだけでなく、列のそこかしこで息を飲む音が聞こえる。それほどに大きな音だった。下痢をしているようには見えなかった少女の激しすぎる排泄音に誰もが驚いていた。壁を2枚貫通しても聞こえたのだろう、潤奈が入っている一番右の個室からの排泄音も途切れていた。
 限界まで我慢するとどうしてもものすごい音が出てしまうことが多い。中学に入って間もないころ、なんとか我慢できそうだからと休み時間にトイレ行列に並んで順番を待っていたものの予想以上に便意が高まってしまい、ぎりぎりの状態で駆け込むことになってしまった。下着や便器の周りを汚さずには済んだものの爆音としか言えないひどい音が鳴ってしまい、おしゃべりが絶えなかったトイレの中を一瞬で沈黙させてしまったことがある。中にいる子が真っ赤になっているだろうことは容易に想像できた。

「姉様、空きましたよ」
「あっ…………あ、ありが、と…………」
 一番左のトイレでおしっこを済ませた女の子が出てきたことに、限界まで下痢を我慢していた先頭の少女は気づいていなかった。もう立っていることすらできず、しゃがみ込んでぎゅっと目を閉じていた。両手をかかとの上に乗せて体重をかけて浴衣姿のお尻を押さえている。ひかりも何度も使ったことがある、限界を超えて我慢するための最後の手段だった。

「うぅ…………っ……!!」
  ブパッビチャビュルビシャアアアアアアッ!! ジャアーーーーーーブビィィィベチャビチャビチャッ!!
  ジャァァァァァブビューーーッ!! ビチャビチャッビュルルルルルビシャビシャビシャーーーーッ! ブパッビシャーーーッジャアアアアアアアアッ!!
  ビューーーーーーーービュルルルッビチャァァッ!! ブシャァァァァビュジャーーーーーーーーービュルルルルルルッ!! ブパッビチャビチャビチャッ!!
「あ…………」
 少女が駆け込んだトイレからは、間髪入れず凄まじい音が響いた。さっきの高校生のような激しい破裂音ではなく、それよりもはるかに水っぽい音。ひかりにはその中の光景が容易に想像できた。ひどい下痢で完全に水状になった便が、便槽の中にものすごい勢いで注がれている。ひかりが毎日、今日も何回も出してしまった水下痢の音だった。
 その音の主――薄桃色の髪をおかっぱに切りそろえた少女は、ひかりと同じくらい背が低かったが、一回り背の高い黒髪の少女に姉と呼ばれていた。姉妹ということも予想外だが、小さい子の方が姉だったことも驚きだった。
  ジャーーーーーーービュルルルルルルルッ!! ビィィッ! ブシャァッ! ビチャビチャビチャ!!
  ビュッビュルルルルルルビチャビチャッビチィィィィィィィィッ!! ブシャッジャァァァァビュルーーーーッ!
  ブピッビーーーッビュルブビューーッ!! ブジャッビシャビィーーーッビシャビシャビシャッ!!
  ブジャッビィーーーーーーーーーーーーッジャアアアッ!! ブピッビシャーーーーーーーーーッビィィィィィッ!
(…………わたし以外にも、こんな下痢しちゃう人いるんだ…………大丈夫かな……あそこまで、我慢してたら……)
 ひかりは水下痢を出し続けるトイレの中の少女を心配していた。同じくらいの背格好に、そうそう経験する人はいないほどの激しい水下痢。他人とは思えない少女の様子に、ひかりは同情的な思いを抱いていた。トイレに駆け込んでから水音が響くまでの間隔の短さ、便槽の中ではなく樹脂に液体が衝突したような音。……昼過ぎに家のトイレでやってしまったのと同じように、段差の下まで水下痢で汚してしまったのではないか、と。
 トイレットペーパーや掃除道具が潤沢にある自宅のトイレでさえ、汚してしまうと掃除は大変なのだ。外のトイレでやってしまった時の恥ずかしさと辛さは筆舌に尽くしがたい。兄と二人で生活するようになってしばらくした頃、自分で作った朝食が傷んでいたのか登校中にひどい腹痛に襲われ、漏らしながら公園のトイレに駆け込んだことがある。しゃがむまで耐えられず壁から床まで汚しきってしまい、紙もなくてお漏らしの処理もままならず、汚れたトイレをそのままにせざるをえなくなったことがある。その時はもう気力が尽きてしまい学校を休んでしまったほどだった。


「あっ、あのっ、お待たせしてすみませんでしたっ! その、ごめんなさい、トイレ、ちょっと汚しちゃって……」
 ひかりが列に並んでからずっと空かなかった左から2番目のトイレがやっと空き、ひかりより少し低いくらいの身長の小柄な女の子が出てくる。黒髪を短く切り、可愛らしいリボン付きのシャツとミニスカートをはいた姿に日焼けした肌は健康的に見えたが、息も乱れており服が汗で肌に張り付いている。さらに、真新しいスニーカーの内側には茶色い汚れが残っており、靴下は身につけていなかった。この子もかなりお腹を壊していて、長時間下痢に苦しんでいたようだった。
「いえ、お気になさらないで……お大事にね」
 姉の後に並んでいた黒髪のお嬢様が優しく声をかけ、入れ替わりにトイレに入る。彼女はその瞬間一歩足を止めたが、表情を変えず中に入った。
(………………あの子、もしかして…………)
 入れ替わる際に見えたトイレの中は、便器の中が一面下痢便まみれになっていただけでなく、一段高いところやその側面の壁にも飛沫が飛び散っていたが、段差の下は汚れていなかった。こういう汚し方をしてしまった経験はひかりにもある。脱ぎかけでしゃがむ前に出してしまうというレベルではなく、立ったまま漏らしてしまい、下着からこぼれたり脱ぐ時に落ちたりした下痢便が段差の上の床や周囲の壁を汚す、というパターンだった。靴下をはいていなかったことも、漏らして汚してしまったことを推測させる。
(あの子が来た頃なら、まだそんなに並んでなかったはずなのに…………本当にひどい下痢だったのかな…………)
 ひかりは少女がスカートの裾を気にしながら去っていく姿を見送った。……汚れきった下着を捨ててしまった時、スカートの中の下半身がすーすーして心もとない感覚を思い起こしながら。

 その後1分間、仮設トイレの扉は4つとも開かなかった。最後に入った子はおしっこのようだったが、他の3人は下痢をしている。早く出たいと思っているだろうが、どうしても時間がかかるのは仕方なかった。潤奈が入ってからは4分経っているが、まだ断続的に液状の破裂音が響いていた。
(思ったより、おなか壊してる人が多いのかな…………時間、かかっちゃうかも……)
  ゴロロロロロロロロロロロロッ!!
  ギュルギュルーーッ! グピィィィギュルーーーーッグルルルルルルッ!
「!!」
 不安が胸の中に広がり始めた次の瞬間、ひかりはびくっと体を強張らせた。さっきまでとは違う、違和感ではない明らかなお腹の痛み。ほぼ同時に、腸の奥で液体が移動する感覚と、直腸が徐々に熱くなる感覚、ついで肛門が内側から押される圧力を感じる。水状の下痢便を出したいという便意があっという間にひかりの精神を満たす。
 我慢、という文字が頭に浮かぶより早くひかりの神経が肛門括約筋に信号を伝達し、水下痢が溢れ出すのをせき止める。肉付きの薄いお尻を緊張させ、脚を寄せあわせて少しでも肛門を閉じやすくした。
(まだ…………まだ、大丈夫。きっと、我慢できるから…………)
 ひかりはお腹の下り具合とお尻の圧力のつりあい、さらには残された精神力を慎重に見極め、順番が来るまで我慢できると判断した。あと14人。当初の予想の進み具合からは若干時間がかかっているが、それでもあと11-12分程度で順番が回ってくるはずだ。それならまだ余裕を持って我慢できる。
「志遠ちゃん、大丈夫? 我慢できそう……?」
「こ、これくらいまだまだ大丈夫ですわ。この程度の行列、コミカの入場待機列に比べたら一瞬に過ぎないのですから」
「……ねえ、よく聞くけどそのコミカって何なの志遠ちゃん」
「!! ふふふふふっ、よくぞ聞いてくれました晴美さん! コミックカーニバルとは人呼んで夢と欲望の祭典! この夏もつい先々週に聖地スーパービッグサイトにて開催され――」
「志遠ちゃん、声大きいって……」
(後ろも……結構並んでる……)
 ひかりが並んでまだ数分だが、後ろにはすでに10人近い女性が列を作っている。もっとも、まだ並んだばかりで余裕がありそうな人が多く、すぐ後ろの小学生二人は内容はよくわからないけどにぎやかな会話を繰り広げている。本格的に便意をもよおす前に列に並んでおいて正解だった。この最後尾からだと、さすがに我慢できるかどうかわからない。

「早くっ…………もう………だめっ…………あっ……!!」
「……!!」
 先頭に立っていた眼鏡の少女が悲鳴のような声を上げ、びくっと体を震わせた。破裂音はしなかったため周囲には気づかれなかったかもしれないが、ひかりには彼女が漏らしてしまったことがわかってしまった。下痢がひどすぎて便が水状になっていると、漏らした時下着を膨らませるのではなく一瞬で染み込んでしまうためかえって音がしない。そんなことを経験として知ってしまっている悲しさを感じつつも、ひかりは彼女が少しでも早くトイレに入れるよう祈った。
(お願い、誰か早く替わってあげて……!!)

「ふみふみ、頑張って! もう少しだから!!」
「あ…………うぅぅっ…………」
「お待たせいたしました……えっ!? だ、大丈夫ですか!?」
 結局最初に出てきたのは下痢している3人ではなく、一番最後に入ったお嬢様だった。彼女は、自分の後ろにいた少女がまだトイレに入れていなかったことに驚き、前かがみでお尻を押さえたあまりにも限界そのものの姿勢に驚愕した。
「――っ!!」
  ビュルーーッビシャビシャビシャーーーーーーーーーッ!
  ブシャァァァァァドビシャビシャビシャッジャーーーーーーーーーービチビチビチビィーーーッ!!
  ビシャビチィーーーーーーーーーーーーーッ!!ブシャァァァァァァァァビュルルルルルルルルルルルルルルルルッ!!
  ビチャチャチャッブジュビシャビシャアッ!!
 少女がトイレに飛び込み、扉を叩き閉め、鍵を掛ける余裕すらなく段差に駆け上がり、水状の下痢便を便槽の中に注ぎ込む音が響き渡る。あと数秒遅かったら水下痢がすべて下着の中に注ぎ込まれて下半身をぐちゃぐちゃにしていたことだろう。漏らし始めて諦めてしまうかどうかで、後始末の大変さが大きく変わってくる。特に出先のトイレで紙や着替えが十分にないときこそそれが重要になってくる。
(だいじょうぶ……だよね…………)
 ひかりは、彼女――名前はまだ知らないが、中学校の先輩にあたる女の子が、破滅的なお漏らしに至らずに済んだことに安堵した。それは後始末にかかる時間――ひかりが我慢しなければいけない時間の長さにも影響するのだった。

  グギュゥゥゥゥギュルルルルルピィーーーーーーーーッ!!
  グピィィギュルーッゴロロピィィィィィィゴロギュルルルルッ!!
   ゴロゴロロロロロロロロロロロロロログピィーーーーーーーッ!!
(あと…………10人……っ…………)
 ひかりは両脚を震わせ、お腹をさすりながら必死に便意に耐えていた。できるだけ我慢していることを気づかれないようにと花火を見上げたりしていたが、便意の波が1分にも満たない間隔で襲ってきて、少しずつ余裕がなくなってきている。
 幸い行列は少しずつ進み、最初にトイレに入った潤奈より早く、ものすごい音で下痢便を出していた高校生が扉を開けて真っ赤な顔でトイレから出てくる。入れ替わりに浴衣を少し着崩した大人の女性が入り、続いてやっと潤奈が一番右の個室から出てきて、小学校入学前くらいの女の子と母親が一緒に入った。

「……はぁっ………」
 一旦便意の波が引き、少しだけ体の緊張を緩める。ずっと最大限の我慢をしていたら、圧力に負けるより先に精神力と筋力が尽き果ててしまう。我慢できる必要十分な力を適切なタイミングに絞って集中させることが下痢に耐え続ける我慢の秘訣であった。
「よ、時間かかってたけど大丈夫だったか?」
「な!? 兄さん、待っててって言ったじゃない、なんでわざわざ見に来るのよっ!」
(あっ………………弓塚さん…………お兄さんがいたんだ……)
 列から少し離れた所で、よく通る潤奈の声が聞こえる。花火とは逆の方向になるが、ひかりはそちらに顔を向けた。
「いやほら、お腹痛そうにしてたから心配になってさ。間に合ったか?」
「だ、大丈夫ですっ! 時間かかったのはトイレが混んでただけだから!」
「ああ、確かに結構並んでたのは見たけど、トイレに入ってからも時間かかってたろ。えーと……6分くらいか?」
「――っ!! な、なんでそんなとこまで見てるのっ! 不審者として通報されるわよ!」
 距離が遠く暗い中でも、潤奈の表情が真っ赤になっているのがわかる。ひかりも、ここまで大っぴらに言われることはないとはいえ、隆に心配されてしまうことは多い。もちろん心配してくれるのはありがたいのだが、下痢していることを気にされるのはそれ自体が恥ずかしく、そっとしておいてほしいと思うこともある。潤奈の気持ちは痛いほど理解できた。
「いや、可愛い妹を思えばこそじゃないか。この前みたいに漏らして泣いてたら助けてやらなきゃいけないしな」
「ちょっと! その言い方だとまるで最近失敗したみたいじゃない! あれはまだ小学校入ったばかりの時でしょ! もうずっと昔のことなんだから……今は絶対あんな失敗しないんだから……!!」
「はいはい。……まあ何はともあれ、何事もなくてよかった。戻るか」
 潤奈と彼女の兄の声は少しずつ遠ざかっていった。
(…………弓塚さんも、小学校1年の時………………うん、聞かなかったことにしよう……)
「っ…………」
  ゴロロロロロロロロギュルゴロギュロロロロッ!! ゴロッギュルギュルグギュルーーッ!
  ギュルルルルルギュリピィーーーギュリリリリリリリリリッ!! ゴロッピィィゴロロロロッ!!
 ひかりは花火の方に向き直ろうとして、また襲ってきた腹痛のために前かがみになった。

「……………………」
 右から2番目のトイレから浴衣姿の女性が出てきて、長いスカートをはいて肩の下くらいまでの髪を三つ編みにした女性が静かに入っていく。
「…………えっ!? うそ!?」
「……どうしたの、ちーちゃん」
「まいちゃん、これ…………その、うんち落ちてる……!!」
「ええっ!? あっ、あそこにも……じゃあ……」
 トイレの直前まで進もうとしたそっくりな小学生の女の子二人――だぶん双子だろう――が驚きの声を上げる。ひかりもその声の方を見ると、花火の閃光が地面を照らす度に、光沢のある茶色い液体が見える。点々とその液体の跡が続く先は、先程女性が入っていった右から2番目のトイレだった。
「…………っ……どうしよう…………どうしようっ…………!!」
  ベチャベチャベチャッ!!
  ビチャブビビビビブビューーーーーーッ! ブビィブビビビブビブジュルーーッ!
  ビュブブブビーーーーーーーーッブバッ!! ビチャビチャベチャッ! ブピピピピピピピピピピッブビィビチビチチチチチチッ!! ブババブピピブビビビーッ!
 少女たちの推論が正しかったことを示すかのように、トイレの中から破裂音が響いた。それに先立って、半液体状のものが落下した音も。漏らした下痢便で一杯になった下着を下ろした時に汚物がこぼれ落ちた音と、まだ残っていた下痢便を全力で噴射した音だった。
(……あの人………………漏らしちゃってたんだ…………全然気づかなかった…………)
 最初に並んで見渡した時にも下痢を我慢している様子には見えなかったが、あれから7分足らずで漏らしてしまうほど激しい便意を抱えていたのだ。おとなしそうな雰囲気だったし、小さい子が多く並んでいたこともあって、漏れそうになっても、漏らしてしまっても、先に入れてとは言えなかったのかもしれない。ひかりも、トイレに並んでいる時に漏らしてしまい、必死に気づかれないようにして個室に入るまで我慢して残りの下痢便を出して涙をこらえながら後始末をすることは時折ある。下痢便を漏らした気持ち悪さと、誰かに気づかれたらどうしようという焦りに同時に満たされる感覚は何度味わっても辛いものだった。つい先月、プールでお腹を冷やしてしまって、同じようにお腹を冷やしてしまった子達の行列の中で耐えきれず漏らしてしまった時、気づかれなかったものの休み時間が終わっても下痢が止まらなくてトイレから出られず、やっと外に出た後にトイレの床に茶色い水滴がいくつかこぼれていたことに気づいた時の胸を震わせるほどの羞恥は忘れようとしても忘れられない。


「あいちゃんもういい? じゃあママと替わって!」
「うんっ」
 少女と母親が入った個室から水音が途切れた後、焦りを隠せない声が聞こえ、ばたばたと足音が響く。
「お願い、早く……あっ……!!」
  ブパッジャァァァァビチィーーーーーッビチャビチャビチャ!! ビュルビシャビシャビィィッ! ビチャビシャブジュビシャアアアッ!
  ブシャッビチィィィィィィィィビシャビシャビシャブビューーーーーーーッ!! ブジャッビシャァァァァァジャーーーーーーーーッ!!
 母親が入れ替わってすぐに猛烈な噴射の音が響いた。ひかりと同じようなひどい下痢。本当に我慢の限界だったのだろう。それなのに、おしっこをするだけの娘に先に使わせてあげていたのだ。
「ねえママ! うんちはみだしちゃってるよ!」
「あ、あとで片付けるからあいちゃんは静かにしててっ……うぅ……!!」
  ブパッビチャビィィィィィィィィィビュルーーーーーーーッ!! ジャアァァァッ!
  ビュッビシャァァァァァァァブシャーーーーーーーーーーッビュルルルルルルルッ!! ビュルーーッビチビチビチッ!
「あーっ、今度は前の方汚しちゃってるよ!」
「お、お願い静かにしてっわかってるから……ぐぅぅ………!!」
  ビシャブシャァァァァァァァァァァブシャッビュルーーーーーッ!! ビュルビシャーーッ! ブピッビシャーーーーーービィィィッ!!
  ブシャビシャーーーーーーーーーーーーーーーーーービチビチビチビチビチャァァッ!! ブジャッビィーーーーーッビュルルルルルルルルルルルルビシャーーーーッ!!
  ビュッブシャァァァァァァァァァァァァブビビビビビィーーッ!! ブピッビチャビチャビチャジャーーービューーーーーービシャァァァァァビチィーーーーーーッ!!
(………………こんなにひどい下痢だったのに、子供に先に使わせてあげてたんだ…………)
 ひかりも幼い頃は、母と一緒にトイレに入っていた。特に汲み取りの和式トイレだと足が疲れて落ちそうになるといけないからと、小学校に上がる直前くらいまで一緒にいて支えてくれていたのだ。二人ともトイレに行きたかった時も、母はいつもひかりに先に使わせてくれた。ただ、ひかりはいつもひどい下痢だったから、あの子みたいにすぐに替わってあげることができなくて――。
「っ……くぅっ…………!!」
  ギュルルルルギュルッピィーーーーーーッ!! グギュルルゴロギュルギュリッ!
  グギュルルルルピィーーーーーグギュルゥゥゥゥッ!! グピィィィピーーーギュルグギュルルルルルッ!!
  ゴロッゴロギュリリリギュルルルルルッ! グギゥゥゥゥゥゥゥギュルーーーッ!! ギュルルルルルギュリリゴロギュルーーーーッ!!
 花火の音の合間に、周りに聞こえるほど大きな音がひかりのお腹から鳴る。弾けそうに高まる便意。ひかりはぎゅっと目を閉じてお腹を抱え、肛門に神経を集中させて締め付けた。
  ギュルルルルルル…………ゴロロ…………グキュゥゥゥゥゥッ……。
「………………ふぅ……っ……」
 永遠にも感じられる数秒間の後、急速に圧力が弱まっていく。腸の中を逆向きに液体が流れていくような形容しがたい感覚。でも、これくらいの不快感で漏らさずに済むのなら安いものだった。
(…………そろそろ…………このままじゃだめかも…………)
 列に並んでから8分。もう力加減をする余裕はなく、肛門を全力で締め付けている。それでも熱い感覚が漏れそうになっている。次に波が来たら耐えきれないかもしれない。まだ耐える手段はあるけれど、それにはいくつかのリスクを伴う。ひかりは息を整えながら、最善の手段は何かのシミュレーションを始めた。

「あっ、ふみふみ大丈夫だった?」
「…………………………う、うん…………」
 眼鏡をかけた中学の先輩がやっとトイレから出てきて、待っていた友達に心配されている。
(あっ…………)
 彼女は持っていた白いビニール袋を体の後ろに隠していたが、友達からは見えなくても逆にひかりからははっきり見えてしまった。たぶん二重になっているだろう袋の中に、半分以上が黄色に染まった布切れが入っている。列の中で限界を迎えた瞬間にはそこまで大量に漏らしたようには見えなかったが、トイレに駆け込んで下着を下ろすまでにかなり出てしまったらしい。限界まで我慢すると肛門の感覚がなくなってしまい、どれくらい漏れたかわからなくなってしまうことはひかりにもある。ちょっとちびっただけだと思ったのに、パンツを下ろしたらこぼれ落ちるくらい出てしまっていたことも――。
(あの人も、洗ってまたはくのかな…………)
 普通の感覚ならこれだけ漏らしてしまったらそのまま捨ててしまうだろうが、度重なる下痢で何度もパンツを汚してその度に捨てていたら、あっという間に手持ちの下着がなくなってしまう。飾り気のない子供用のパンツは高価ではないとはいっても、中学生にとって安いものではない。お腹の弱い女の子にとって、お漏らしパンツを洗って再利用するのは不可欠の技術と言ってもいい。
 ただそのためには、汚したパンツを家まで持ち帰らないといけない。本当はジッパーで密封して黒い袋に入れたいが、かさばるし消耗品としては結構な金額がかかる。結局、スーパーでもらえる白いレジ袋を重ねて不透明度と防水性を上げるのが一番使いやすい手段なのだった。においは密封できないが、下着にべっとりと付着してしまうような軟便や下痢便の便臭とは異なり、一瞬で染み込んでしまうような水下痢はそこまで強烈なにおいにならないことが多い。あの先輩もそれがわかっているから、同じような行動をしているのだろう。
(……もしかして、学校のおトイレとかでまた会ったりするかも…………)
 ひかりは彼女にも少し親近感を覚え、ビニール袋を友達の目から隠しながら戻っていく姿を見送った。

「ねえまいちゃん、わたし先に入っていい? もうおしっこもれちゃいそう」
「えっ…………わ、わたしもでちゃいそうで……できたら、わたし先に……」
「おねがい、すぐでてくるからっ!!」
「あっ、ちーちゃん!! ……約束だよ、すぐかわってね!!」
  シュイィィィィィィィィィィィィィィィィィィ…………!!
 双子のうち一人が左から2番目のトイレに駆け込み、慌ただしい衣擦れの音に連続して清らかな水音が10秒以上にわたって続いた。音を聞くだけで伝わってくる気持ちよさそうな放尿の様子だった。
「う、うぅっ…………もれちゃうよぉ…………」
 残された一人はその音を聞いて余計に尿意が高まったのか、両手で前を押さえながら足踏みを始めた。救いを求めるかのようにそれぞれのトイレのドアを見渡すが、どのドアも開く様子はない。右から2番目はさっき彼女たちが気づいてしまったお漏らしした女性が入って後始末をしているだろうし、一番右は娘と一緒に入った母親がまだ水音と破裂音を無秩序に響かせている。一番左も、かなり前にしゃがみ込むほど限界になっていた少女が駆け込んだきり動きがない。
「ちーちゃんはやく!!もれちゃう!!」
  ドンドンッ!!
「そ、そんなすぐにおわらないよっ!!」
  シュィィィィィィィィィィジョボボボボボボボシャーーーーーーーーーーーーーーーーッ……
 前押さえをしていた少女は双子が入っているトイレを叩くが、まだまだおしっこの音が止まっておらず出てこられそうにない。
「うぅ……あの、まだですかっ!!」
  ドン、ドンドンッ!
 彼女は数秒間体を震わせた後、隣の一番左のトイレのドアを何度も叩いた。個室の中でがたっと音がして、数秒後にぎりぎり外に聞こえるだけの小さな声が、花火にかき消されながら聞こえてきた。
「…………ご、ごめ……なさい…………も……、でま…………」
「おねがい、はやく、はやくっ!!」
 そう言いながら少女はドアを叩き続け、足踏みをしながら浴衣の裾をパンツが見えそうになるまでめくりあげておく。執拗に急かされ、中にいた少女も大慌てで後始末をしたのだろう。ノックが始まってから30秒ほどで、顔中に汗を浮かべてげっそりとした表情の少女がドアを開けた。
「お姉ちゃんありがと! うぅぅ漏れちゃうっもうだめっ!!」
「…………あの…………ご、ごめんなさい……あ…………」
 片手で前を押さえながら少女はトイレに飛び込み、振り向くこともせず、当然扉を開けたままで段差を駆け上り、丸見えのパンツを下ろしてしゃがみこんだ。
  
  プシャッ、シューーーーーーーーシュイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ…………!!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」
 勢いよくおしっこがほとばしる音と、限界を超えて耐えていた我慢から解放された安堵のため息が、少女の後ろ姿から発せられるのが行列からははっきり見えた。
「あ、あのっ……待たせて………その、ごめんなさい…………閉めますねっ……」
  シャアーーーーーーーーーーーーーーープシュィーーーーーーーーーーーーショロロロロロロロピシャーーーーーーーーーーーシュィィィィィィィィィィィ…………!!
「ふぅぅぅぅっ…………間に合ったぁ…………」
 長時間トイレにこもっていた桃色の髪の少女がドアを閉めたことにも気づかない様子で、心の底から安堵した声をもらす。放尿の音は全く途切れず、先に入った子よりも気持ちよさそうな澄んだ音が響き続けていた。
(よかった…………なんとか間に合ったみたい)
 ひかりは水分をほとんど水下痢として出してしまうためかおしっこの回数よりも下痢の回数のほうがはるかに多く、おしっこを限界まで我慢した記憶はあまりなかったが、小さな体で我慢することの辛さはよくわかっている。ひかりも少女たちが間に合ったことに安堵していた。
「姉様、大丈夫でしたか?」
「う、うん…………美春ちゃんごめんなさい、ずっと待っててもらってて…………」
「お気になさらないでください。その……時間がかかっていたので、もしかしたら間に合わなかったのではと……」
「だ、だいじょうぶ、ちょっと……その……床を汚しちゃったから……お掃除………………あと、終わったと思ったのに、何度もしたくなっちゃって…………」
(…………やっぱり、しゃがむ前に出ちゃったのかな……それに、何度も、って……………ノックされて、無理して出てきたんじゃないといいけど……)
 確かこの子は7-8分前からずっとトイレに入っていたはずだった。その間ずっと水下痢が出続けているわけではなく、一度噴射が途切れてしばらく落ち着くことはあるが、拭いたり立ち上がったりしたところでまた便意が再発して出し始めてしまうことも多い。ひかりもやっと終わったと思った瞬間にまたお腹が痛くなって絶望的な気持ちになったことが何度もある。個室の中にいればそんな時もまた排泄を続けることができるが、一度トイレから出てしまってトイレが行列していたり、授業中の教室に戻ってからまたもよおしてしまうと、余裕がない状態でまた我慢しなければならなくなり、高確率でお漏らしに至ってしまう。ひかりは高学年になってからは教室で漏らしてしまうことは減ったが、休み時間に行列していて急いで個室を出たもののまたすぐ再発した便意に襲われて行列に並び直し、我慢できず漏らしてしまう……ということは少なからずあった。
 ひかりは少女がそんな悲劇に見舞われないことを祈っていた――が、次の瞬間にはその祈りは中断された。

「……っ!!」
  ゴログルルギュロロッ!
  グギュルルルピーーグルルルルグルルルルゴロロロロロッ!! ギュルルルグウーッ! ゴロッゴログルルギュリリリリッ!!
  ギュルルルルギュルルルルルルルルピィィィィィグギュルルルルルルッ!! グピィギュリリリリリリギュルーーーーーーーーッ!!
(うぅっ…………だめ、このままじゃ…………!!)
 ひかりのお腹がねじ切られるような腹痛を発した。瞬間的に閉じた肛門を何度目かわからない便意の波がこじ開けようとしている。
(こうするしか……ない…………!!)
 ひかりは右手の人差し指と中指を揃え、肛門に突き刺すように浴衣の上からお尻を押さえた。
「……――――っ!!」
 膨らもうとする肛門を無理やり押さえつける。わずかに負けていた肛門の圧力に右手の外力が大きく加勢し、便意に傾いていた力の均衡が急激に押し戻される。
(…………早く…………収まってっ…………)
  グキュゥゥゥゥ……………グキュルルルルルルルル………………ゴポッ…………!!
 苦しみで意識が飛びそうになりながら10秒近い時間を耐え続けたひかりは、便意の波を撃退することに成功した。一時的に圧力が弱まり、圧迫により血行が阻害されて白くなってきた指先を離す。
(…………うん、まだあと何回かは大丈夫…………)
 猛烈な水下痢を10分近く我慢するだけでも普通の女の子にはできない芸当だが、その程度ではひかりの日常生活はままならない。授業中など、それを超えて我慢しなければならないことは一日に何回もある。そのためのやり方が、指先でお尻を押さえる我慢だった。肛門が膨らむ前に外から押さえつけることで肛門を押しつぶして内側に押し込むことで中身が漏れ出すのを阻止する。ひかりは必死に我慢を続けている間にも指先と肛門に感じる圧力の差を評価し、あと数回はこのやり方で耐えきれると判断した。

「まいちゃんお待たせ! あれ……? そっか、よかった、他のトイレ空いたんだね」
「……紗緒梨、一人で大丈夫?」
「……うん……」
 おしっこをしていた双子の片方が出てきて、母親を伴って並んでいた小学校1年生くらいの女の子が一人でそのトイレに入っていく。直前まで背筋を伸ばして花火の方を見ており、それほど我慢が切迫してはいないようだった。黒髪をおかっぱに切りそろえたおとなしげな少女で、ひかりはまるで小さい頃の自分を見ているような感じがした。落ち着いた様子で中から鍵を閉める音。服は裾の短いミニスカート状の浴衣だったから、めくりあげる手間はない。段差に上がる音がして、水音が響き始める。
  シャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
(この子もおしっこ…………思ったより、早く進むかも…………)
 ひかりは少し気分が軽くなった。個室の中からは重みのない水音が響き続けている。これまでの行列の進み方としては、下痢だと平均で5分くらいかかっているのに対し、おしっこなら1分少々で出てきている。その差は4分近くになり、一人下痢の女性がいれば4個室平均での待ち時間が1分変わることになる。おしっこの子が多ければ多いほど早く順番が回ってくる。ひかりはお腹をさすりながらその時が来るのを待っていた。
「…………っ…………」
  シャァァァァァァァァァジョボボボボボボシャーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
  シャァァァァーーーーーーーーッ!! プシュッシャーーーーーーーッ! シャーーーーーーーーシャァァァァァァァァァァァァッ…………………
(……えっ……? ……これって…………)
 トイレの中からは水音が響き続けている。おしっこの音にしか思えない軽やかな水音が、少しずつ途切れながら続く。ただ、ひかりはその音にかすかな違和感を感じた。おしっこの場合、水流が途切れる直前と再開した直後は勢いが弱くなり、チョロチョロという穏やかな水流音が聞こえるはずだった。だが、このトイレの中から響く音はそういった強弱の変化がなく、最大の勢いのまま止まってわずかの後にそのままの勢いで再開しているように聞こえる。
(もしかして…………おしっこじゃなくて、水みたいな、下痢――)
「うぅっ……!!」
  シャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッブビィィィィッッ!!
  ビュルルルルルルルルジャアアアアアアアアアッビュビィィィィィィブビビビビビビッ!!
  ビシャビュルーーーーーーーーッジャァァァァァァビチャビチャビチャビシャーーーーーッ!!
  ブビューーーーッ!! ブパッビュルーーッビチビチビチブシャーーーーーーーーーーーーーーッ!!
「あ……っ…………」
 ひかりは思わず驚きの声をもらした。行列に並んでいた何人かもはっと顔を上げる。清らかな水音の終わりに響いた猛烈に汚らしい破裂音。直腸内の水下痢を出し切った瞬間に、その上にあったガスが水飛沫とともに一気に噴射されて肛門が激しく振動する、水下痢の断末魔とも言える爆音だった。それが一度では終わらず何度も響く。苦しげな声も個室の中から聞こえてくる。幼くおとなしい少女は、周りの誰にも気づかれずにこれほどのひどい下痢に耐えていたのだ。
 毎日この子と同じように水状の下痢をしているひかり自身も、おしっこの音と間違われた経験は何度もあった。中学に上がったばかりの時には、昼休みのトイレでおしっこの音にしか聞こえない完全な水下痢を出してしまい、しばらくしてガス混じりの破裂音を響かせた時に、個室の外から「なにあの子、おしっこじゃなかったの?」「お尻から水が出てるんじゃない? ひどい下痢ね」と噂されてしまったこともある。そういう事があるのはわかっていたはずなのに、早く順番が回ってきてほしいという願望が優先されて早く出てくれると思い込んでしまっていた。
(ひどい下痢…………これじゃ…………)
 少女の水音はまだまだ止まらない。さっきの桃色の髪の子と同じように、5分どころかもっと長い時間かかってしまうことは確実だった。その分、ひかりが我慢しなければならない時間も延びる。目前に現れた希望が焦りに塗り替えられていく。

  グピィギュルーーッ! ゴロピィーグギュルーーーーッ!!
  ゴロッゴロゴロロロロッ!! ゴロギュルルルグギュゥゥゥゥゥゥギュロロロロロッ!! グピーーギュルルルルルゴロッ!!
  グピィィィィギュルルルグギュルルルルルルルルルルッ!! ピィィィィゴロゴロゴロゴロッ!!
「うぅぅっ……!!」
 追い打ちをかけるようにひかりのお腹が唸り、便意の洪水が肛門に押し寄せる。一瞬の迷いもなく肛門に右手の指先を突き刺し、絶望的な圧力をせき止めようとする。前かがみでお尻を押さえた姿勢は便意を我慢していることが丸わかりな恥ずかしい格好だったが、もうそんな事を気にしている場合ではなかった。
(まだ…………まだ、だいじょうぶ…………)
 腸内の圧力と指先の圧力は拮抗している。気を抜かなければ波が終わるまで耐えきれる。ひかりは神経を指先に集中させて精一杯の力を込めた。
  ギュルルルル…………キュル…………グキュウゥゥゥゥゥゥゴロロロロッ……
(うん……)
 直腸の圧力が薄れていくのを感じながらひかりは心のなかで頷いた。まだ大丈夫。お尻の穴は開いていない。すぐ内側には水状の下痢便が大量に下ってきているが、かろうじて体の中に押し留めることができている。
 ひかりは指をそっと浮かせながらも浴衣のお尻から離さず、次の波が来たら即座に圧力をかけられるように備えている。

「…………」
 ひかりが我慢に集中している間に、漏らした後始末を終えた女性が出てきていた。着衣に汚れはなく表情も乱れておらず、傍目には漏らしたことがわからない様子だったが、足取りは重く去っていく後ろ姿もどこか小さく見えた。おかっぱの少女の母親が娘の入っているトイレを心配そうに見ながらも空いたところに入り、放尿音を立て始める。母の方も水下痢だったらどうしようと思ったが、幸いにも本当におしっこだけのようだった。

「ちーちゃんおまたせ! あー危なかった、本当にもらしちゃうかと思ったよ」
「まいちゃんごめん! 今度はまいちゃん先でいいからね」
「もう、そんなこと言って毎朝先に入っちゃうくせに!」
 双子の少女はすっきりした微笑みを浮かべて仮設トイレを離れていった。
(うぅ…………わたしも早くおトイレ…………)
 ひかりもだんだん周りを観察する余裕がなくなってきた。
「…………あのぉ、真中先輩……先に、入ってください」
「えっ…………で、でもっ…………仁美さんの方が先に……並んで…………」
「わたし、まだよゆーですから。ほら先輩、漏らしちゃったら大変ですからお先にどうぞぉ」
「うぅ…………うん、あ、ありがとう…………」
 先頭に並んでいたデニムパンツをはいた少女が、後ろに並んでいた子に順番を譲った。その子はひかりが列に並んだ時からずっとお腹をさすっていて、腹痛に苦しみ続けていた。ひかりのようにお尻こそ押さえていないが、前かがみになってずっと苦しげな声を上げていた。ひかりと同じように黒髪をおかっぱに切り揃えた少女は、桜ヶ丘中の制服にも近い色合いの紺色のスカートをはいており、おとなしげな印象によく似合っていた。
 ひかりも今日は浴衣だが、普段はこういった紺色やダークグレーのスカートをはくことが多い。確かに、あまり派手な格好が似合わない自分には落ち着いた色の方がいいとも思っているが、ひかりにとっての一番の理由は、下痢を漏らしてしまった時にスカートまで汚してしまったとしても、染みの色が目立ちにくいからだった。ズボンでなくスカートなのも漏らした時の被害を軽減するため……あの子がそんなことを考えて服を選んでいたとは思わないけれど。
「…………うぅぅぅ……!!」
  ブバッビチチビチブジューーーッ!! ブジュブビブビィィィィッ!!
  ブジュブピピピピピブバッ!! ビチャビチャビチャブビビチビィーーーーーッ!!
  ビチャブピーーッブジューーーーーーッ!! ブビチチチチチブジュルルルルルブジューーッ! ブピピブピッビィーーッ!!
  ブビチチチチチチチチチチチチチブバーーッビチーーーーーーーーーッ!! ブバッビチビチブバーーッ!!
(…………音が…………こんなに…………)
 おとなしい雰囲気には似つかわしくない凄まじい音がトイレの外まで響き渡る。きっと、中の少女は真っ赤になっていることだろう。ひかりもトイレに駆け込んで水下痢の音を立てている時に、個室の外から色々なことを言われたことがある。「普段静かなのにすごい音だね」とか、「あんなちっちゃい子がこんなひどい音」とか。一番恥ずかしかったのは、小学校の時に母と一緒に電車でお出かけした時に電車の中のトイレを使ってものすごい音を立ててしまい、「ちょっと外まで聞こえてるわよ、お母さん、女の子なんだからもう少し恥じらいを覚えさせないと」と知らないおばさんに言われた時だった。自分のせいで母が怒られていたことがとてもつらく、何度も何度も母にごめんなさいと謝った。母にはひかりは何も悪いことしてないから気にしないでいいよと慰められたものの、その日は1日中消えてしまいたくなるような気持ちに押しつぶされていた。
 少女がそんな声を聞かずに済むことを祈りながら、ひかりは迫りくる便意に備えていた。

  グピィィィィィゴロピィーーーーッ!!
「ひぅっ…………!!」
  グピーギュルグギュルーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! グピィグウゥゥゥゥッ!!
  グギュルルルルルルルルッ!! ピィィギュルギュリリリリッゴロピィィグピィーーーーッ!!
  グピィィィィィィゴロギュルーーーーーーッ!! ゴロゴロピィィギュリリリリリッ!! ギュルルルギュルギュルゴロロロロロロロッ!!
(だめ…………これ…………もう…………!!)
 一瞬血の気の引くような感覚があり、腸の中を濁流が駆け抜ける。肛門の圧力が限界を超えて高まる。この瞬間に備えて接触距離で待機していた指先を、力いっぱいに押し込む。
  ゴロロギュロロッ!! ギュルルルルギュルーーーーーーーッ!!
  ギュルルルルルルルピィーーーーーーーギュルッ!! グギュルルルルルギュルルーーーーーーッ!!
  グピィィィィグルルルルルルルルギュルギュルギュルーーーーーーッ!! ゴロッギュルギュルピィーーーーーーーーーーギュルルルッ!!
「あ…………あ、あっ…………」
 限界を超えてさらに便意が高まる。指先が押し返される感覚。もう我慢できない。押さえきれない。漏れる。下痢が。水みたいな下痢便が。茶色い水が。肛門をこじ開けて。下着を一杯にして。その外の浴衣まで汚して――。
(だめっ!! 絶対だめっ!!)
 ひかりは心の中で叫んだ。全力で押さえていた指先に、無理やりもう一段階強い力を込める。崩れた均衡を強引に立て直す。
  グギュルルルルピィーーーーギュルグギュルルルルルルルッ!! ギュルルルゴロロロロロギュルーーッ!!
  グギュルルルルルルルルルルルゴロゴロゴロロッ!! ギュルルルゴロギュルルゴロロロロロッ!!
 果てしない腹痛が精神力を奪っていく。何度も勝手に諦めようとする指先を肛門に突き刺して必死の我慢を続ける。
(絶対…………だめっ!!)
 肛門が膨らむ感覚を無理やり押さえつける。1秒、2秒、3秒、4秒、5秒…………
(だめっ……………だめ………………お願い……もう…………)
  ギュルル…………グキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………
「……っ…………」
 もう限界と思った瞬間、腸内を水下痢が逆流していく感覚とともに肛門の圧力が急激に下がっていった。本当にぎりぎりの所で耐えきったのだ。
「はぁっ…………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ…………」
(よ、よかった…………でも、もう限界かも…………)
 ひかりは少しでも便意の高まりを抑えようと、お腹を何度も何度もさすっていた。

(あと……あと3人…………はやくっ…………)
「うぅぅ……………早く早く…………!!」
「あ、あやちゃん…………」
 ひかりが限界と戦っている間に先程譲った少女も順番が回ってきてトイレに入っていた。先頭の少女はひかりと同じくらいの身長、ということは小学校中学年くらいに見える。おしっこをずっと我慢しているようで、足踏みをしたり前押さえをしたりしゃがみ込んだりしていて、今もせわしなく足踏みを…………。
(………………濡れてる…………?)
 夜の暗がりの中で見えにくいが、水色のデニム地のオーバーオールのお尻の部分が黒っぽく変色している。染みはかなりの大きさで、これだと完全に漏らしてしまってパンツの中はびしょびしょなのでは、と思われるほどだった。
「あやちゃん、空いたよ!」
「うんっ!! お願い果歩ちゃんドア閉めてっ!!」
 水下痢を出していた母親が娘と一緒にやっと出てきて、飛び込もうとした少女とぶつかりそうになる。足踏みの状態からそのままトイレに駆け込み、オーバーオールの肩紐をずらして勢いよく引きずり下ろし、便器にしゃがみ込む。
  シャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
 あれだけ漏らしたのにまだ、と思われるほど長いおしっこの音が響き渡った。
「うぅ、あたしもそろそろ漏れそう…………あっ! あいた!」
 さっき先輩に順番を譲った子が出てきて入れ替わり、清らかなおしっこの音が響く。漏らしていない分この子のほうが長く放尿が続いていた。

(あと…………一人…………)
 ひかりは祈るような視線で前に並ぶ女性と、その先にある4つのトイレのドアを見つめていた。
「く…………うっ…………」
 目の前の女性がお腹を抱えてその場にしゃがみ込む。背はそれほど高くなく着ている薄桃色のワンピースの上からは凹凸がほとんど見えない体型だけど、顔立ちや表情は大人っぽく芯の強そうな女性に見えた。でも、今は真っ青な顔でお腹を押さえてしゃがみ込んでいる。ワンピースの裾をお尻とふくらはぎで挟み込んでしまっていて、今漏らしたら人前に出られないほどに汚れてしまうだろう。もうトイレに駆け込むことしか考えられず、本当に限界という様子だった。
 ひかりも次の便意の波がきたら我慢できるかわからない。順番を替わってもらおうと何度も思ったが、自分と同じかそれ以上に苦しんでいる女性を押しのけることはできなかった。この浴衣を汚さないことは何より大事だけど、それで他の人を犠牲にしていいわけではない。
(お願い、早く空いてっ…………)
 ひかりは自分のためにも、眼前で苦しむ女性のためにもそう祈った。

「うぅぅ…………」
  ビシャビシャブビューーーーッビチャビチャビチャ!!
  ビシャァァァァァァジャァァァァァァァビュルーーーーーーーッブビィィィィ!! ブピッビィーーーーーーーーーーーーーーッビシャッビチビチッ!!
  ビシャビシャビュルビシャァァァビィィィィッ!! ブビィィィィィィィィジャァァァァッ!!
  ブシャァァァブジュビィーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ドボビジャッブピッジャーッビチッブビビビビビブジュビチィィィィ!
 一番先にトイレに入っていた6,7歳のおかっぱ髪の少女は、4分近い時間が経ってもまだ凄まじい勢いで水下痢を出し続けていた。さすがに音が途切れることが多くなってきたが、そのために最初はおしっこにしか聞こえなかった水下痢の音はすっかり気体混じりの汚い破裂音に変わっていた。かなり飛沫も飛び散ってしまって便器や床の汚れは凄まじいことになっているだろう。側面まで白い部分が見えなくなるほど汚してしまったことはひかりにもたくさん経験がある。便器に申し訳ないと思ってしまうほどの汚れ具合を思い出してひかりは視線を逸らした。

「はぁっ…………んっ…………痛いっ…………」
 一番左の個室も、少し年上の子が入ったまま出てこない。並んでいる間もずっとお腹を押さえていてかなり我慢していたのだろう。トイレの前で、彼女に順番を譲った後輩の子が心配そうに待っている。
(あの人…………仲原……さん? たしか、隣のクラスの…………じゃあ、中にいるの、うちの先輩だったんだ…………)
 ひかりは遅ればせながら、クラスは違うものの同級生が並んでいたことに気づいた。個室の中で下痢をしている少女はひかりにとっても先輩ということになる。そういえば学校で何度か見かけたことがあり、背は高いけど自分に似た雰囲気だと思ったことがあった。
  ビチャブピーーーーーッブビビビビビブバァッ!! ビチャビチャドボッブピビチチチチッ!
  ビュルルルルビチブビビビビビビブバッ!! ビチャブビィッビチビチビチブジューーーーーーーーーーッ!!
「うぅぅ…………!!」
 その先輩が入っているトイレの中からは激しい音と苦しげな声が聞こえてくる。左側の2つのトイレはしばらく空かないだろうと思われた。おしっこをしている小学生二人が早く出てくることを祈るしかない。気がかりなのはおしっこを漏らしてしまっていた子だ。後始末や着替えにかなり時間がかかるだろうか。ひかりはおしっこだけを漏らした経験がほとんどなく、どれくらいの時間がかかるのか予想できなかった。

「だめっ………………」
 前の女性がしゃがみこんだまま呟く。もう本当に限界のようだ。早く――。
 そう思った瞬間、右から2番目のトイレが空いた。漏らさなかった子は1分足らずで出てきたのだった。
「――――っ!!」
 女性は弾かれるように立ち上がり、トイレに飛び込んだ。ドアを閉める音。鍵を閉める音。段差を――
  ブビビビビビブジュッビチビチブジュビヂゴボボボボボボボッ!!
  ブジュビジュゴポポポポッグボボボボボボゴポッ!! ブビィィィィィブジュゴボゴボゴボッ!!
  ゴポポポポポポッブボボボボブジューーーーッ!! ブジューーーーーーーーブリリリッブジュルルルルルルル!! ベチャベチャベチャブジュブジュブジュビチィィィィ!!
「あっ…………」
 段差を上る足音や、下着を下ろす音がするより早く――下痢便が布地の中に炸裂する音が響いた。何度もくぐもった音が鳴り響き、やがて液体が樹脂にぶつかる――液状の下痢便が下着から溢れ出して脚と床を汚す音が混ざり始めた。
「うっ……………うぅぅぅっ………………あぁぁぁぁ…………」
 トイレの中からは、声にならない悲しみの嗚咽が聞こえてきた。

(…………お漏らし…………しちゃったんだ…………)
 ひかりが並んだ瞬間からずっとお腹を押さえていて、15分以上……おそらくそれ以前から、苦しみに耐えてきた彼女。心が折れそうになる腹痛と、絶え間なく襲い来る便意に耐え続けて、いつ空くかわからないトイレの順番を待つ地獄のような時間だったはず。それに耐えきって、やっと自分の順番が来て、ドアが空いて、トイレに入れた。それなのに、便器にしゃがむまでのわずか数秒、それだけの時間を耐えることができずに漏らしてしまった。あと数秒我慢できていれば便器の中に思う存分出せたはずの下痢便を、下着を身に着けたまま吐き出してしまい、下半身をぐちゃぐちゃに汚してしまった。トイレの外でその悲惨な音を耳にしたひかりの脳裏には、自分が何度も経験した光景と感覚が甦っていた。
 お漏らしのリスクが一番高いのは、実はトイレに入ってから便器にしゃがむまでの時間なのだ。切実に求めていた便器が見えたことで安心し、我慢するための心と体の緊張が失われてしまう。さらに、それまでお腹を押さえたりお尻を押さえたりしていたのに、扉を閉めたり下着を下ろしたりする動作のためには手を離さなければならない。限界を超えた我慢はそれを支えていた外力が失われたらあっという間に決壊してしまう。絶対的な限界でなくても、お腹の痛みで動けなくなったり、うまく鍵を閉めたり下着を下ろしたりできず時間を浪費したためにあと一歩間に合わなくなってしまうこともある。
 そして、漏らしたという事実以上に辛いのが、あと少しだけ我慢できれば間に合ったのにという後悔だった。便器にしゃがんで下痢便を放出する、苦しく恥ずかしいとはいえ解放感に満たされるはずの時間。しかし、お尻全体を濡らした汚水が冷たくなったひんやりとした感覚と、嫌でも目に入る両足の間に渡された汚れきった下着が、その後も長引く排泄の間中ずっと、漏らしてしまった少女を後悔で押しつぶそうとする。あと少し我慢できていれば。あと少し早くトイレに行っていれば。ひかりも何十回何百回とトイレの中で涙を流してきた。その経験の多くは下校中に限界近くなって家に帰り着きながらあと一歩及ばず漏らしてしまったものだったが、特に辛かったのは授業中に下痢に襲われ、勇気を振り絞って手を挙げてトイレに行かせてもらったのに下着を脱ぐ寸前に漏らしてしまった時だった。上履きや靴下だけでなくスカートまで汚してしまい、外に出ることもできず泣いていたのを先生に見つけてもらって助けてもらうまで何もできなかった低学年の頃の記憶。一人で後始末ができるようになってからも、その悲しみが軽減されるわけではなかった。
 だからいま個室の中で涙を流している女性の悲しみは、とても他人事とは思えなかった。まだ中学生で見た目はさらに幼いひかりと違って、大人になってから漏らしてしまった彼女の絶望は更に深いことだろう。



Scene 5. あきらめない強さ

  ゴロギュルグルルルグピィーーーーッ!!ゴロゴロゴロピィーーーーーギュルルルルルッ!!
  ゴロロロロピーーグルルルギュルルルルルルルルルルルルルグギュルーーーーーーーッ!!
「あ…………あっ…………」
 しかし、ひかりには他人のことを考えている余裕はもうなくなってしまった。体に力が入らなくなるほど耐え難い、腸の中を水下痢が駆け下る感覚。それを追いかけるように強烈な痛みが神経を灼き切ろうとする。今までより強烈な圧力が肛門のすぐ側まで迫っていた。
(だめ、だめ、だめっ…………!!)
 今日だけは絶対漏らすわけにいかない。お母さんの大切な浴衣を汚すわけにはいかない。しかし、ひかりの強い意志は、ただの理性的な願望でしかなかった。そんなものを吹き飛ばすほどの強烈な本能が、排泄欲求を満たそうとしている。もうお尻の穴が言うことを聞かない。下腹部に勝手に力が入ってしまい、肛門が膨らんでいく。

「だめ…………っ……!!」
 ひかりはお尻の穴に浴衣の上から指を突き刺して、そのまま崩れ落ちるように座り込んだ。立てた右かかとの上に、右手を挟み込んで押しつぶす勢いでお尻を落とす。
「―――――――っ!!」
 内側と外側から強烈な圧力で押しつぶされた肛門が意識を飛ばすほどの痛みで悲鳴を上げる。お尻の穴は膨らんだまま戻らない。しかし、辛うじて完全に決壊することだけは避けられている。

  ビュ…………ジュッ…………!!
「!!」
(出ちゃってる…………もう…………これ以上は…………)
 感覚がなくなっている肛門ではなく、その周りの肌が感じる湿り気。水下痢を限界まで我慢した時には、どうしてもちびって下着を汚してしまう。普段ならそこまで致命的なことではなく、下着の汚れも水で洗えば落ちる。ちびっただけで済んでよかったと思うことが大半だった。しかし、ちびった汚れがパンツの外側に達したら、無理やり押さえている指先は汚れた下着に浴衣を押し付けることになってしまう。そうしたら浴衣が汚れるのは避けられない。
(もう…………あきらめた方がいいのかな…………)
 それよりも、指を離してすぐに浴衣を跳ね上げてしまえば、浴衣が汚れるのは避けられる。もちろんその場合にはお漏らしを止める手段はなく、行列の先頭、多くの人が見ている前で水下痢を漏らしてしまうことになる。それは幼い頃から何度も味わってきた記憶だった。
 漏らしてしまった体の不快感。お尻を包んだ熱さが生ぬるく変わり少しずつ冷たくなっていく。パンツからあっという間に溢れ出した水下痢が脚にいくつもの水流を作り、靴下に染み込み、靴の中までぐちゃぐちゃにしてしまう。何十回では済まない、何百回も繰り返してきた失敗。その回数が1回増えたところで何も変わることはない。
(でも――)
 漏らす不快感には慣れている。恥ずかしさも受け止めることができる。周りから汚いと責められても耐えることができる。それでも漏らしたくないと思うのは、大切な人たちのためだった。
(お兄ちゃん……)
 ひかりが学校で漏らすたびに後始末や着替えで助けてくれた兄のために。ひかりが学校で何度も漏らしてしまうことで兄が嫌がらせを受けて心が傷ついてしまったことを、ひかりは今でもずっと気にしている。今日も花火に行けるか心配して、トイレに間に合いそうか気にかけてくれていた兄の気持ちを無駄にしたくなかった。
(お母さん…………!!)
 そして、この浴衣を作ってくれた母のために。幼いひかりがお漏らしをするたびに優しく体を拭き、抱きしめて慰めてくれたお母さん。漏らしちゃったことは悪くないといつも言ってくれていたけれど、それはまた漏らしてもいいという意味ではなかったのだと思っている。漏らしてもいいと思っていたのなら、汚したら取り返しがつかないこの浴衣をひかりに残さなかったはずだった。いつか、この浴衣を着られるくらい大きくなったら、お腹を壊してもちゃんとトイレに行けて、順番が来るまで我慢できて、女の子らしいおしゃれもできて、友達と楽しい毎日を過ごせる、そんな子になっていてほしいと願っていたはずだった。

(…………わたし……)
 だから、どれだけお腹が痛くても、耐え難い便意に襲われても、ちゃんとトイレに行けるように。我慢できるように。お漏らししないように。たとえ漏らし始めてしまっても、少しでも長く耐えられるように。最後まであきらめない心の強さが、早坂ひかりの――普通の女の子とは比べ物にならないほど苦難に満ちた毎日を送る少女の――小さな体を支え続ける力だった。

(……まだ……我慢できる…………!!)
 ひかりはお尻を沈み込ませるようにして全体重を肛門が指先を介して接しているかかとに乗せる。同年代の平均よりはるかに軽い30kgの体重でも、一点に集中すれば強力な圧力となる。指先と肛門の痛みは、まだ我慢できている証。直腸が勝手に収縮し、何度も肛門が膨れ上がる。押さえがなければ猛烈な勢いで水便が噴射されているほどの圧力。それを上回る力で無理やり外側から押さえつけ、肛門が閉じなくても水便が飛び出さないようにする。
 このやり方はいわば圧迫止血のようなものだった。当然、流出しようとする体液は圧迫している当て布に染み込んでいく。ただ、その流出量は噴射するのに比べたらはるかに遅い。それで時間を稼ぐ間に、便意が収まれば――。

(お願い…………止まって…………!!)
  グギュルルルルルゴロゴロギュリリリグギュルーーーーーーッ!!
  ギュルルルゴロロログルルルグギュルルルルルルッ!!
  ブジュ……!! ビュルッビュルルルッ!! ジュルルッ!!
 止まない腹痛、弱まらない便意。維持するのが精一杯の均衡。しかも、維持し続けても浴衣まで水下痢が染みたらそこで全て終わってしまう。もう他に打てる手はない。一瞬でも早く便意が収まることを、ひかりは祈るしかできなかった。
(お願いっ…………!!)
 目を閉じて、肛門を必死に押さえて、1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒、7秒…………

  グキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………
「っ…………う…………あっ……!!」
 体の力が抜けるような感覚。行き場を失った水下痢が腸の中で逆向きに荒れ狂う感覚に震えながら、ひかりは便意の波が引いていくのを感じた。膨らみ続けていた肛門を外力が押し返していく。
 ひかりは絶望的な便意に耐えきったのだ。

「はぁっ、はぁっ…………はぁっ…………」
(早く……早く、おトイレ…………!!)
 ひかりはぎゅっと閉じていた目を開けた。逆流した水下痢がまたすぐに肛門に押し寄せてくる。その波を耐えきることはもうできそうにない。ここでトイレが空いてなかったら、もう……。

「ねぇ、大丈夫?」
「立てる?」
「あ…………」
 空いている。一番右のトイレが。おしっこを漏らしてズボンを濡らしていた少女は、濡れたズボンのまま出てきていた。おしっこならにおいも目立たないし、暗がりではほとんど気にならない。パンツをはいているかどうかはわからないが、おもらしの後始末を最短時間で終えて出てきてくれたのだ。
「……だいじょうぶ……です…………ごめんなさいっ!!」
 ひかりは慎重に、しかし可能な限り急いで立ち上がり、左手でお尻を押さえながらドアが空いたトイレに駆け込んだ。振り返らず後ろ手でドアを引き寄せて叩きつけて締める。鍵はともかくこれで閉まることは先客たちの動作で確認してある。取っ手が外から見て右側にあるから、後ろ手で閉めるには右手を空けておく必要がある。それをひかりは瞬時に判断していた。
(あと少し……絶対、漏らしちゃだめ……!!)
 勢いを止めずに段差の上に駆け上がり、右手で大切な浴衣の裾を思い切りめくりあげて、帯のぎりぎりまで持ち上げる。真っ白なお子様用の木綿のパンツが露わになり、肛門に当たる場所に薄い茶色が見える。左手でそのパンツを引きずり下ろす。直径4cmほどの茶色い染みが薄くにじんでいるが、それ以上の被害はない。

(間に合った…………浴衣、汚さなかった…………!!)
  ピィィィィギュルルルルルルルルルルゴロゴロゴロッ!
  グギュルルルルルッグギュルピィーーーーーーーーゴロギュルルルルルッ!!
  ゴロゴロゴロギュルゴロロロロロロロッ!! グギュルルギュルグルルルルルルゴロゴロゴローーッ!!
「あ、あっ…………!!」
  ブピッ!! ジュッ!!
 ひかりの小さなお尻が――そして、肛門に貼り付いた、幾重にも重ねられて中心に茶色い液体が染み込んだトイレットペーパーが、仮設トイレの中の暑さと湿度と悪臭を含んだ空気に触れる。その先にはパンツも浴衣もなく、着衣を汚す心配はない。そう安堵した瞬間、限界をはるかに超えて酷使されてきた肛門がついに力尽き、破裂音とともに内側から押し開かれる。このまま出したら、昼間の家のトイレと同じように便器の後方をぐちゃぐちゃに汚してしまう。
「だめ…………っ……!!」
 ひかりは濡れてお尻に貼り付いているトイレットペーパーを左手の指の付け根で押さえつけた。もう肛門を閉じることも噴射を止めることもできない。でもあふれ出す水下痢を可能な限り紙に吸収させ、0コンマ何秒の時間を稼ぐことはできる。ひかりは膝を折り重力に任せてしゃがみ込もうとした。
  ビュルルルルジューーーーーーーービチッ!!
(お願い……あと少しだけ…………!!)
 1m以上の長さを巻き取って6回折りたたみ、64枚重ねになったトイレットペーパーを、止められない水状便が一瞬で茶色く染める。手のひらには湿り気どころかはっきりと濡れた感覚が伝わった。指の間を水が流れていると感じた瞬間、ふとももの裏とふくらはぎの裏が接した。真っ白になりそうな意識の中で反射的に手を紙から離す。
 その瞬間。しゃがみこんだひかりの肛門が、茶色の光沢を輝かせながら便器の底に向かってすべてを解放した。

「――――っ!!」
  ビチビチビチビシャーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ビシャビシャビシャブジュブシャーーーーーーーーッ!!
  ドボビチャビチャビチャァァァッ!! ジャァァァァァァァァビィィィィブビィィィビシャァーーーーーーーーーッ!! ビュッジャァァァァビシャーーーーーッ!!
  ブピッビィーーーーーーーーーッビチビチビチッビィィィィィィィィィィッ!! ブジュルルルルビチィィィィブジュビィーーーッ!!
  ドボボボボッビュルルルルルビシャァァァァジャアアアアーーーーーーーーーーーーーーッ!! ブシャッジャーーーブビィィィィィビチャッブビビビビビィッ!! ビシャブシャビチビチビチブジュッジャーーブシャーーーーーッ!
 茶色の水が猛烈な勢いでひかりの直腸と肛門を駆け抜け、便器の中、汲み取り式の便槽の底に叩きつけられる。跳ね上がる飛沫がお尻にまで達する。長時間限界を超えて我慢した肛門は赤く充血しており、敏感な粘膜を刺激しながら流れ落ちる水下痢がひかりの神経を焼灼する。
 肛門の両側のお尻に貼り付いていたトイレットペーパーは右側が外れて左側に垂れ下がるようになり、数秒の後にたっぷりと吸い込んだ水下痢の重みに負けて便槽の中へ落下していった。この紙は、さっき混む前に仮設トイレに入った時に巻き取ったトイレットペーパーをパンツの内側に敷き、その紙越しに肛門を押さえることで、漏れ出した水下痢が下着や浴衣に染み込むのを防ぐためだった。トイレットペーパーは何度も水下痢が浸透するのを防ぎ、ひかりの最後の我慢を助けてくれた。この紙がなかったら今頃浴衣のお尻に茶色い染みが浮かんでいただろう。


(わたし…………がまん……できた……)
 体は苦痛を訴えているが、ひかりの心は穏やかだった。ずり落ちないように右手で支えている浴衣を通じて、この浴衣を着られる――それを汚さずにいられるようになったと母に伝えたいと思った。

「…………うぅっ…………!!」
  グギュゥゥゥゥピーーーゴロロロロロッ! グギュルルグルルピィーッ!!
  ゴロロギュルルルルルルグピィーーーーーーーッ!! ピィィィィィグルルルルルルギュルーーッ!
  ビュルッビシャビシャーーーーーッドボドボドボジャーーーーーッ!! ブビビビビビビィーッビュルビュルッ!!
  ブジャッビシャビチャドボボボボビィィィィィィビシャーーーーッ!! ブピッビチィーーーーーーッビチャビチャビチャビシャビシャーーーーッ!!
  ブパッビィィィィィィィィィィィィィィィィィビュルルルルッ!! ビュッビューーーーージャアアッ!! ブジュルルルルビチビチビチブバッ!!
 また始まる激しいお腹の痛み。左手でお腹をさすりたいところだが、さっき無理やり紙の上から押さえた左手は水下痢の水分が滴るほどに汚れている。左手は空中に浮かし、腹痛に耐えながら水下痢を出し続けるしかなかった。肛門では直径2cmほどだった水流が徐々に広がり3cmほどまでその径を増し、やがて自らの分子間力に引かれて細くなり集束点を経てまた広がり、便槽の汚物溜まりに降り注ぐ。
 今日設置されて数時間しか使われていない便槽の中身は水面が均等にせり上がっているわけではなく、中央に積み重ねられた使用済みの紙と固形便と下痢便からなる山が一段高くなっており、その周囲に小便と水状便の混合物が液面を作っている。汚水の海に浮かぶ汚物の島といった光景だった。ひかりは最後まで必死に我慢して便器の真ん中にしゃがんだため、放出する水下痢の大半はその汚物の山を直撃して、紙を崩し溶かしながら表面を茶色で塗りつぶしていく。ただ、時々肛門の汚れに引っ張られて斜めに水下痢が噴射することがあり、その時は水面に直撃してドボドボと重い音を立てている。

「ぅあぁぁ…………!!」
  ゴロロロゴロギュルルルルギュルッ!グギュゥゥゥピィィィグギュルルルルルッ!
  グピーーーーーーーーーーーギュルギュルルルルルルゴロロロロロログギュルルルルルルルルルルルッ!!
  ブシャビシャビュルーーッ!! ビュビュルーーッドボドボッビチィィジャーーーッ!!
  ビュルビュルブビューーーーーーーーッジョボボボボボボボ!! ビシャビュルビュルルルブシャーーッビシャーーッ!!
  ビシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッドボッドボボボボボボビシャビシャビュルッ!!
  ブジャビシャーーーーービジャァァァァァビュルルルルルジャーーーーッ!! ブジャッビチィーーーーーッビシャジャアアアアアアアアアアアッ!!
 勢いが衰えない水下痢。腸を締め付け続ける腹痛。ひかりは苦しみから開放される瞬間を待ち望み、ひたすらに水下痢を体の外に吐き出す。肛門で液体が不規則にはじける音、水流が空気を切り裂く音、便槽の中に汚水が叩きつけられる音。その音がほとんど秘められることなく外の行列にまで筒抜けであったことをひかりは知っていた。しかし、女の子らしくない激しい排泄音に顔を赤らめながらもひかりは噴射の勢いを緩めず、少しでも早く下痢便を出し切ることを選んでいた。

「はぁっ、はぁっ…………はぁっ…………っ!!」
  グギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!
  ピィィィィギュルルルルルルルルルルルッ!! グギュゥゥピィーーギュルルルッ!
  ブピッ…………ビュッビシャーーッビィーーーーーーーッ!! ドボボビュルーッビシャーービチィーッ!!
  ブパッブシャジャァァブビューーーーーーッブジュドボボビチャビチャビチャッ!!
  ビシャブシャァァァァァァァァァァビチィィィィィィィィィィィィィィィィビュルジャアアアアアアッ!! ブシャッビュルーーーーーーーッビチィーーーーーーッ!!
  ブパッビュルルルルルルルルビュルーーーーーーーーーーッブシャァァァァァァァァァァァビィィィィィィッ!! ブパッビチビチビチジャーーーーッ!!
 しゃがんだ直後から30秒近く続いた噴射が、一瞬途切れる。しかし腸の蠕動が新たな水下痢を直腸に送り込み、同時に激烈な痛みをひかりに伝える。ひかりはまた肛門を開き、雫が垂れ落ちようとした瞬間に次の噴射が始まった。

「んっ…………」
  ブビビビビビブジュブジュブジュグジュグジュッ……!!
 水下痢の切れ目で肛門からガスが漏れ出し、肛門に張った水膜を膨らませて泡を形作る。汚らしい音と情けない光景だったが、わずかに腹痛が和らぎ便意から解放された時間はひかりにとって求めていた瞬間だった。

「うぅっ…………」
  ゴロピィーゴロギュルルルッ!! グギュゥグギュルッ!!
  ギュルルルルルルルルルルルルピィーーーーーーーッ!! グギュルッ!!
  ゴロゴロロロロログルルルルルルルピィーーーッ……ゴロギュルルルルゴロロッ…………
 噴射は一度止まったものの、激しい腹痛がまだ続いている。ひかりは、左前方にあるトイレットペーパーを巻きとり、汚れた左手を拭いた。指の股や爪の隙間にまで、茶色い水が入り込んでいる。浴衣は右手の肘元で支えて、右手の指先も使って、触っても茶色がつかないように汚れを紙に吸わせていく。やっときれいになった左手でお腹を痛々しくさすりながら、ひかりはわずかに下半身に力を込めた。
(あれ…………花火の音………止まって…………)
 さっきから断続的に鳴ってお腹に振動を伝えていた花火の音が止まっている。今出したら、ひどい音が周りに聞こえて――。

「っ!!」
  ビシャブシャーーーーーーーーーーッビュルルッジョボボボボボ!
  ブシャーッ! ブジャッビシャビュルビィィィィッ!! ビュビチィーッジャァァァァァビチィーーーーーーーーーーーッ!!
  ビュジャーーーーーーーーーーーーービチャビチャビシャアッ!! ビュビィィィブビビビビビィーーーーーーーッ!!
  ブジャッビュルーーーーーーーーーーーーーーーーーッブシャーーーッ!! ブジャッビシャーーーーービュルビィィィィィィィィィィィィッ!!
 今まで大量に出したにも関わらず、また肛門から凄まじい勢いで噴射が始まる。汚れきった肛門を下痢便が震わせる音。水状便が便槽に注ぎ込まれ汚物と汚物がぶつかる音。仮設トイレの薄い壁は、ひかりの恥ずかしい音をほとんど遮ってはくれなかった。

『けやき野赤十字病院提供のスターマイン、花火師は木崎煙火です』
(…………やっぱり聞こえちゃってる…………)
 外からのアナウンスがはっきり聞こえるということは、中からの音もすべて筒抜けということだった。
「ひっく…………ぐすっ…………」
(…………!!)
 その声に混じって聞こえてきた、悲しげな嗚咽。ほぼ接している隣のトイレには、中に入った瞬間に漏らしてしまった可哀想な女性がまだいるはずだった。
「ん…………っ…………」
  ビュルッビチビチビチビュルーーーーーッ!! ブシャビチィーーーッ!!
  ブシャーーーーーーーッドボボビチャビチャビチャッ!! ブジャッビィーーッビチィィビュビィーーーッ!!
  ビュビシャアアアアアアアアアアアアアッ!! ブピッビチビチビチジャァァビィィィィィィィィィッ!!
 ひかりは外からのアナウンスと隣のトイレからの悲痛な声を聞きながらも、便槽の中に水下痢を注ぎ続けていた。隣の女性も、下着の中に漏らしてしまったものをちゃんと便器の中に出したかったことだろう。
 
『けやき野赤十字病院は、地域医療を支える中核病院として、救急医療の充実を始め、良質で安全な医療の提供に努めてまいります』
「あぁぁ…………どうしよう………私………………うぁぁぁぁ…………!!」
(…………服……汚しちゃったのかな…………)
 ひかりの前に並んでいた女性は、綺麗な薄桃色のワンピースを着ていたはずだった。漏らしてしまうと脱ぐわけにもいかないし、上着で隠すわけにもいかない。汚れた服のままトイレを出て人に見られてしまうのは何度経験しても辛いことだった。もしかすると、漏らした瞬間を見られるよりも恥ずかしいかもしれない。漏らした瞬間はパニック状態で何も考える余裕がないが、後始末を終えた後はどう思われているかなど色々なことを考えてしまう。もし、自分がトイレを出る時まで彼女が泣いていたら声をかけてあげようと、ひかりは思った。
「んっ……く………」
  グピィゴロロロロギュルグルッ!!
  グギュルルルルルルルルギュルピィィィィィィゴログルルルルルルッ!!
  ブピッビィビュルルジャアアアアアッ!! ブピッビシャアアッ!!
  ブシャッジャァァァビシャアアアアアアアアアアアッ!! ビィィブシャーーーッドボボボボボビシャアアアッ!!
  ブシャビュルビィィィィビィーーーーーーーーーーーーーッ!! ビチャァァッビシャビシャビシャーーーーーーーーーーーーービュルルルルルッ!!
  ビシャーーーーーービィーーーーーッジャーーーーーーーーーーーーーッビチビチビチビチビチ!! ビシャーブシャーッビシャーーッブビィィィィィィ!
 トイレから出るためには体の中の下痢便を出しきらなければいけない。ひかりは痛むお腹に力を込めて、何度も何度も茶色い水を便槽の中に注ぎ続けた。噴射の勢いが弱くなると肛門に残った水分に引っ張られて出す度に方向が変わり、大きく右に飛んで便器の側面にかかったかと思えば左側に飛沫を撒き散らし、汲み取り式便器の壁を汚水で汚していく。

 
  ブジュビビッ……!! ブジュブジュグジュグジュブピッ……!! ブジュビジュブビッ!! ブビィィィィィ…………!!
「……………はぁっ…………はぁっ…………」
 肛門を濡らした水下痢がお尻の曲面を垂れ落ちて茶色の流跡を作り、そこから便器の中にぽたぽたと雫が落ちる。
 激しい水下痢を出し終えて息を整えるかのように肛門から流れ出るガスが泡を作っては消し作っては消し、最後の余韻のような茶色い泡が弾けて細かい飛沫を便槽の中に飛び散らせた。
 やっと、ひかりは直腸に押し寄せていた大量の水下痢を出し切ったのだ。
(早く、拭いて出ないと…………)
 まだ雫が垂れ落ち続けている中、ひかりは慌ただしくトイレットペーパーを巻き取り、お尻を拭き始めた。
 漏らしてはいないが、紙で押さえながら出してしまった時に肛門の周りのお尻全体がかなり汚れている。四つ折りにして押し付けたトイレットペーパーをが全面茶色に染まったのを見たひかりは、さらに長く紙を巻き取ってお尻全体をきれいにしようとした。

  ドンドンッ!!
「あのっ、まだですかっ!!」
「……!!」
 ドアがノックどころでなく叩かれる大きな音。並んでいる子がかなり切迫しているようだった。
(…………急がなきゃ…………)
 ひかりは手に取った紙でお尻を何度も拭く。必死の我慢と激しい排泄で充血したお尻の穴は触れるだけでも痛いが、あまりゆっくりしていると後ろに並んでいた子が漏らしてしまうかもしれない。ひかりは痛みに耐えながら肛門のしわの間に染み込んだ水下痢を拭き取っていった。
(うん………あとはおしり全体を拭けば…………)
 跳ね返ってお尻を汚した飛沫を拭く。これを忘れると下着のあらぬところに染みを作ってしまうことになる。これさえ終われば、下着を脱いで、新しいパンツを――
 
  ギュルピィーーーグルルルルルルッ!! ゴロギュルルルルルルルルッ!!
「っ」
 あと少し、というところでお腹の奥から響いた音に、ひかりは手を止めた。
  ギュルルルルピィィィィィィィィグピーーーーゴロゴロギュロロロロロッ!!
  ゴロッギュリリリグギュルルルルルルルルッ!! ゴロロロロピィィゴロギュルーーーッ!!
(うそ…………また…………!!)
 せっかく拭いたのに、と思うより早く直腸内圧が瞬間的に上昇する。出る、と思った瞬間にはもう肛門が開いていた。

「ぅあぁっ…………!!」
  ブパッビシャーーーーーーーーッブシャブシャーーーッ!! ドボボボボボボボジャーーーーーーーブシャーッ!
  ジャァァァァァビシャアアアアッ!! ビュルッビィッブジュッ!! ドボドボッビュジャビチィーーーーーッジャアアアアアアッ!!
  ビシャビチャビィィィィィィィッ!! ブジュルルルルビュブシャーッビュルーーーーーッビチャビチャビチャッ!!
  ビュルビュルブジュルルルルーーーーーーッ!! ドボドボドボドビュルビュルビチビチビチジャーーーーーーーーーーッ!!
 さっきあれだけ大量に出したのが嘘のようにまた猛烈な噴射が始まる。茶色い水状便で覆い尽くされた汚物の山の上に落ちている、ひかりが使ったばかりの相当に汚れているトイレットペーパー。それが降り注ぐ水下痢で一瞬のうちに全面茶色に染め上げられて、山の頂上から押し流されて汚水の海に流れ込んでいく。
 ドンドンドンドンッ!!
「お願い、早くしてください!!」
(ご、ごめんなさい…………わたし…………まだ…………!!)
 ひかりは心の中で何度も何度も謝りながら、お腹に力を込め続けた。
「っぅぅぅ……!!」
  グピィィィィィィィギュルギュロロロロッ!!
   グギュルゴロロロロゴログギュルーーッ!! ギュルルルルルッ!!
  ビシャビチィィィィィィブビューーッ! ドボビシャビシャッ!! ビュルッビチャブシャーーーッ!!
  ビィーーーーッビシャビチャジャーーーーーーーッ!! ビュッビシャァァァァァァァブビジャアアアアアアアッ!!
  ビシャビチィーーーーーーッブビューーーーーーッ!! ビチィィィィィィィブパッビュルーーーーッビチィジャーーーーーッ!!
 ドンドンッ!!
「友達がもう限界なんです、早くっ……!!」
 外の子は友達の代わりにドアを叩いていた。その声は相当に切迫している。ということは、友達は声も出せないほどの限界状態にあるということだった。しかし、ひかりはその苦しみを誰より理解しながらも、冷たい排泄音を響かせて外の子に絶望を与えることしかできなかった。
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ……!!)
  ブシャビチィーッ!! ビュルッブシャビューーッジャァァァァァァドボボボボボッ!! ビュッビチャブシャーーーーッ!!
  ビュルッビチィィィィビュルルルブビィーーッ!! ビチビチビチビチャジャアアアアッ!! ビュビチャブシャーーーーーーーッブビューーーーーッ!!
  ドボボビシャビュルッビチィーッビュルビュルジャーッ!! ビュッビィビュルーーッビシャビシャアアアアアアアッ!!


「…………っ……」
 ひかりは申し訳なく思いながらもその後1分間にわたって水下痢を出し続けた。噴射が終わると同時に、巻き取っておいた紙で肛門を集中的に拭く。少しでも早くこのトイレを明け渡すために。
「………………」
 トイレの中はものすごい状態だった。ひかりが汚してしまった便器の両側面内側は茶色の水下痢を叩きつけられたようになっていて、さらに拭き終えてからの噴射で飛沫を飛び散らせてしまった。便器の後方内側はより粘性の強い液状便がべっとりと付いていて強烈なにおいを放っている。さらに、後ろ縁から一段下の床にかけては拭いた跡があるが黄土色の完全な水状便が飛び散っていた。同じ色の便は便器の中前方の樹脂斜面にも撒き散らされている、慌てて前に出ようとして前に行き過ぎてしまったのかもしれない。その汚れの中央が割れるように洗い流されている。おそらく、直前におしっこを漏らしながら駆け込んだ子がしたものだろう。汚物入れの横に、ぐっしょりと濡れた子供用のパンツが捨て置かれていた。

「…………ご、ごめんなさい…………」
 ひかりは大急ぎで後始末を終え、新しいパンツにはき替えてその内側に折りたたんでおいたトイレットペーパーを敷いた。ちょっとだけ茶色が染みたパンツを丸めて手提げに突っ込み、急いでトイレのドアを開ける。
「志遠ちゃん、空いたよ! 歩ける?」
「う、うう…………だ、大丈夫ですわ、これしきのことで負けるわけには……」
 ひかりの何人か後ろで待っていた小学生たち。限界近い少女が励まされながら立ち上がり、トイレに駆け込む。8分ほど前の自分自身を見ているようだった。
「あ、あっ、もうだめっ!!」
  ブビチチチチブジュルーーーッ! ドボボボビュルルルルルブビィブビーーッブビブバーーーッ!!
  ビチチビチーーブピーッドボドボドボブバァァァッ!! ブビチチチビチィィィィィィィブジューーッ!!
 トイレの中で凄まじい音が響く。間に合わなかったかと思ったが、何とか便器にしゃがむことができたようで、便槽に下痢便が注ぎ込まれる音が聞こえてきた。
「ごめんなさい…………時間……かかっちゃって…………」
「あ、だ、大丈夫だよ、何とか間に合ったみたいだし…………急がせちゃってごめんね。それより、おなかだいじょうぶ? その、すごくおなかこわしてるみたいだったから……」
 何度も謝るひかりに残された連れの少女が答える。肩までのやや長い黒髪に、小さな眼鏡をかけた優しげな印象の少女。おそらく小学校高学年くらいだろうが、ひかりの方が背が低く中学年くらいに見えるため、同年代か年下だと思われているようだった。
「あ、だ、大丈夫です…………その、わたし、おなか弱くて……慣れてますから…………」
「そ、そうなんだ…………お大事にね」

「…………」
 苦笑する少女にうなずいて答えたひかりは、隣のトイレを見た。
 排泄音こそ響いてこないが、まだずっと閉まっている。やがて、その中から涙に包まれた声が響いてきた。
「あの…………ごめんなさい…………………トイレ……すごく混んでて…………我慢、できなくて…………その…………漏らし……ちゃって………………。本当に、本当にごめんなさい……!! あの…………あのっ…………………………服も……汚しちゃって…………出られ……なくて…………ごめんなさいっ………………慎一さんに買っていただいた服なのに……私…………ごめんなさい…………!! あの…………その、荷物の中にタオルがあるから、それを持ってきてもらえませんか……。そこから川寄りの右手の仮設トイレの……右から2番目です…………本当にごめんなさい、ごめんなさい…………ごめんなさい…………!!」
 個室の中から、涙混じりに事情を説明する声が聞こえた。
(…………これって…………携帯電話で、喋ってるのかな……?)
 数年前から普及が始まった携帯電話は、高校生以上ではかなりの割合で持っているという。ひかりは持っておらず知り合いで持っている子もいないため使った経験はないが、どこでも電話をかけられるということはとても便利なことだと聞いていた。
(大切な服…………汚しちゃったんだ…………)
 あの女性は、きっと恋人にプレゼントされた服を着て花火大会に来て……下痢便を漏らしてその服を汚してしまったのだろう。ひかりが思っていたのと同じように、絶対に汚してはいけないと思っていたはず。それなのに、我慢できずに漏らしてしまい、取り返しのつかないほどに汚してしまった。ひかりの母の浴衣と違ってお金を出せば買えるものかもしれないが、大切な服を贈られた時の思い出はお金では決して買えないだろう。ひかりも一歩間違えれば……いや、何も間違えなくても、偶然のサイコロの目が一つ違っただけで同じ結果になっていたかもしれない。
(…………一緒に来た人に、助けてもらえるのかな。…………わたしも、携帯電話持ってたら…………)
 下痢便のお漏らしがおしっこや固形便を漏らしたのとは桁違いに悲劇的なのは、服を再起不能に汚してしまってトイレから出ることすらできなくなってしまうことだった。漏らして服を汚してしまってトイレから出られず途方に暮れた経験は少なくない。兄が探しに来て助けてもらったこともあるが、結局誰にも助けを求めることができず、汚れた服のまま出なければいけないことも何度もあり、泣きながら家に帰って、帰った後にまたひとしきり泣くという経験は数知れなかった。でも、助けてもらえるとしても、一緒に来ている好きな人に漏らしたことを打ち明け、大切な服を汚してしまったことを告白しなければならないというのはとても恥ずかしく辛いことだろうと、ひかりは女性に心から同情した。彼女が好きな人に嫌われずにすみますようにと祈りながら、ひかりはトイレを後にした。
 行列はひかりが並んだ時の2倍近くの長さになっていた。
(……またしたくなったら、もう並んでも無理かも……………その時は…………)
 ひかりはいざという時にどうすればいいか考えながら、様々な音が響き続ける仮設トイレを後にした。



Scene 6. 夜風の再会

「………………」
 臭気と熱気に満たされていた仮設トイレの中とは比べ物にならない涼しい空気が、トイレの列から離れたひかりを包んでいた。夜の静かな風が汗を乾かし、額や頬に貼り付いていた髪が今はその風に流れている。
 ひかりは、穏やかな表情で元いた場所へと歩いていた。いいことがあったわけではなく、お腹を下して激しい水下痢に苦しんだのだが、母が残してくれた浴衣を着て、それを汚さずに過ごせていることはひかりにとっては喜ばしいことだった。普通の女の子にとっては当たり前のことであっても、ひかりにとってはお漏らしをせずに過ごせることは幸せなことなのだ。

(えっ…………)
 ひかりがもともと座っていた場所に戻ると、隆の姿が見えなくなっていた。
 場所を間違えたかと思って辺りを見渡すが、元いた場所で間違いない。薄水色のレジャーシートやペットボトルの飲み物もそのままになっている。
(…………お兄ちゃん、もしかして、わたしを探しに……!?)
 トイレ混んでそうだから時間がかかるかもとは言ったが、ひかりのことになると心配性な兄だけにいてもたってもいられなくなったのかもしれない。
(どうしよう、思ったより時間かかっちゃったから……遠くまで行っちゃう前に、探さないと……!)
 自分がトイレに時間をかけてしまったせいで兄を心配させてしまったことに責任を感じたひかりは、ここで待つのではなく兄を探しに出ることを選んだ。
 
(お兄ちゃん……)
 ひかりは周囲の人の顔や服装に注意を払いながら来た道を戻っていった。兄が探しに最初に行くのはひかりが使ったトイレだろう。ただ、入れ違いになる可能性もあるから途中で見落とさないようにしないといけない。
 しかし、そもそも人が多すぎてその中から特定の人を探すのは極めて難しい。さらにひかりは身長が低いため、視線が周りの人に遮られてしまってほとんど目の前の人の姿しか見ることができない。

(いない…………どこかですれちがっちゃったのかな…………)
 ひかりは元いたトイレに戻ってきたが、兄の姿は見えなかった。男子用のトイレは羨ましいことにほとんど行列しておらず、兄がそこにいないことは自明だった。
(隣のおトイレを見に行ったのかも…………)
 別のトイレは、河川敷の上流側と下流側にそれぞれ1箇所ずつある。仮設トイレの個数は上流側の方が多い。ひかりはそちら側に歩を進めた。
 トイレを目指して歩く途中も周囲に目を配ったが、求める姿はなかった。歩いている人の数も先程より多く、移動にはかなり時間がかかる。

(やっぱり、いない…………一回、戻ったほうがいいかな…………)
 上流側のトイレの行列を確認した後、隆を見つけられなかったひかりは仕方なく、もといた場所に戻ろうとした。くるりと振り向いて、来た道を戻ろうとする。

「わ……!!」
「あっ……!! ご……ごめんなさいっ……!!」
 急に立ち止まって方向転換したひかりは、歩いてきた人影とぶつかりそうになってしまった。うまく避けてもらえたためぶつからずに済んだが、危うく正面衝突するところであった。
「あ、ううん、大丈夫だよ……………………あれ?」
 ぶつかりそうになった相手は、ひかりより一回り背が高い少年だった。その少年が、ひかりの顔をじっと見ている。ひかりは怪我をさせてしまったのではないかと不安になった。
「あっ……ごめんなさいっ、そ、その……怪我はありませんか…………本当にごめんなさいっ…………」
「あ、大丈夫、そうじゃなくて………………その、きみ……確か、前に会ったことが…………」
「……えっ…………?」
 ひかりはそう言われて少年の顔を見た。額で左右二つに分け、短く整った黒髪は、硬い髪質の兄と異なって女の子のように細くさらさらとしている。優しそうな目元と、穏やかそうな口元。確かに、ひかりにもどこかで会った覚えがあった。
「そうだ、この間の地区大会、準決勝の時にスタンドで……確か、桜ヶ丘中の…………」
「え………………あ、あっ……!!」
 そう言われてひかりも記憶に思い当たった。兄の応援に野球の大会を見に行った時に、お腹を下してトイレに駆け込もうとした時に、試合を見に来ていた高峰中――野球の強豪である私立男子校の生徒とぶつかって二人とも転んでしまったのだった。
「あ、あの時…………あの、高峰中の……!?」
「やっぱり、そうだったんだ……! あの時は本当にごめん、ぼく、考え事しててぶつかっちゃって……怪我とかしてなかった?」
 花火に照らされて見えた姿は、グレーの半袖シャツを羽織って膝下までの黒いハーフパンツを身に着けていた。ユニホーム姿と装いこそ異なるが、確かに見覚えがあった。野球選手とは思えない線の細い体と、試合の時に感じたひたむきな姿とは対照的な穏やかな顔つき。ひかりはその顔を見て、その時のことを鮮明に思い出した。
「い、いえっ、大丈夫です……わたしの方こそ、あの時は急いでて周り見てなくて……………あっ……!!」
 ひかりは夜空の下で顔を紅潮させた。球場のスタンドでぶつかった後……ひかりはしりもちをつくように通路に倒れてしまい、スカートの中の下着が丸見えになってしまっていたのだ。しかもその時、完全にお腹を下してぎりぎりまで我慢していたから、下着の中に少なくない量の水状便をちびってしまっていて、その茶色い染みまで見えてしまう状態になっていた。
「? どうしたの?」
「あ、な、な、なんでもないですっ……!!」
 その時、彼は見えそうになったけど見ていないと言っていたし、今の反応を見てもそれは本当のことなのだと思うけど、それでもそんな格好をしてしまったことはやはり恥ずかしかった。ひかりは表情を隠すようにうつむき、夜風が頬の赤らみを冷ましてくれるのを待った。

「そういえば、誰かを探してたみたいだけど、どうしたの?」
「あ、はい……あの……お兄ちゃんと一緒に来てたんですけど…………えっと、その、ちょっとはぐれてしまって……それで、お兄ちゃんを探してて、近くをよく見てなくて……ごめんなさい…………」
 ひかりは途中からまた顔を赤くしながら、トイレに行っていて、ということをぼかしつつ説明した。
「そんな、謝ることじゃないって。……そうだ、この間のおわびに、ぼくも一緒に探すよ」
「えっ…………そ、そんな……わたしのせいなのに、そんなの……申し訳ないです」
「でも、こんなたくさん人がいるのに、一人で探すのは大変だよ。……お兄さんも心配してると思うし、遠慮しないでいいから」
 ほとんど初対面なのに兄を一緒に探してもらうのは申し訳なかったが、一人で探すのが難しそうというのは確かだった。手伝ってもらえたら何とかなるかもしれない。ひかりはうなずいて頭を下げた。
「は、はい…………あの……ありがとう…………ございます。え、ええと…………ほ、穂村さん……ですよね」
「え、ぼくの名前を……?」
「はい……あ、あの、決勝戦、見てましたから……」
 ひかりは、決勝戦のスコアボードで見た彼の名前を覚えていた。どこか自分と似た儚げな雰囲気が気になって探した名前を。
「そうだったんだ。……ごめんね、ああいう結果になっちゃって」
「そ、そんな、謝らないでください…………その、お兄ちゃんが勝てなかったのは残念ですけど、でも……高峰のみなさんもすごく一生懸命だったのは、見てて伝わってきました……。お兄ちゃんも、全力を出して負けたんだから悔いはない……って言ってました」
 普段にもまして体調が悪い――下痢がひどい中で試合を見続け、最後には倒れてしまったひかりだったが、野球にはそれほど詳しくないものの両チームが全力で戦っているのは伝わってきた。兄も、負けたけれど全力で戦ったのだから、と納得していた様子だった。
「……そっか、ありがとう。あっ、ごめん、ちゃんと名前を言ってなかったね。ぼくは高峰中3年の、穂村雄一」
「あっ…………わ、わたしこそごめんなさい…………その、桜ヶ丘中1年の、早坂ひかりです」
 ひかりと少年は自己紹介を交わす。ひかりは彼の下の名前を初めて知ったし、少年はひかりの名前も名字も初めて知ったのだった。――彼が、よく知っている名字のことを。
「早坂……!?」
「え……」
「もしかして、きみのお兄さんって、隆君のこと?」
「え、えっ…………お兄ちゃんのこと……知ってるんですか……!?」

 花火が一つずつ空で輝き、二人の顔を照らす。
 人混みの中で足を止めたひかりと雄一は、お互いの顔を見合わせたまま、これまでにない驚きの表情を浮かべている。

 向き合う二人を涼やかな夜風がふわりと包み、ひかりの短い黒髪がかすかに揺れた。


「…………まさか、きみが隆君の妹だったなんて…………」
「……あの……ご、ごめんなさい…………穂村さんがお兄ちゃんと、小学校の頃からの友達だって……全然知らなくて…………」
 雄一が、隆と同じ少年野球チームで仲の良い友達だったことを聞き、ひかりは何も知らなかったことを謝った。偶然会っただけだと思っていたが、隆を通じた間接的な知り合いであったのだ。
「ううん、そんな気にしないで。知らなくて当然だよ。ぼくの方こそごめん。隆君にこんな可愛い妹さんがいるなんて知らなかったんだ」
「……えっ……あ…………あの、可愛いなんてそんなことないですっ……わたしちっちゃくて地味で……その……」
 男子に可愛いと言われた経験が全くないひかりは、反射的に可愛いという評価を否定してしまった。見た目についても思っているが、何よりいつもお腹を壊してトイレに駆け込んだり漏らしたりしている女の子が可愛いと言われる資格なんてないと思い込んでいるのだった。
「あっ、ごめん。変な意味じゃないんだ。その、かわいらしいっていうか、隆くんから見て、可愛い妹さんなんだろうなって」
「あ…………ご、ごめんなさいっ……わたし、変なこと考えてしまって…………あの、ありがとうございます。お兄ちゃん、その通りで……いつも、優しくしてくれてます」
 ひかりは早とちりしてしまったことを恥ずかしく思いながらも、兄を通しての評価を教えてもらって、嬉しそうに微笑んだ。
「そっか。きみにとっても、いいお兄さんなんだね…………あっ、ごめん隆君を探さなきゃ。どこか、いそうな場所はわかる?」
「それが…………あまり見当がつかなくて…………一回、元いた場所に戻ってみようと思って……」
「うん、すれ違いになっただけかもしれないから、それがいいかもね……。じゃあ行こうか…………えっと……ひかりちゃん」
「っ…………あっ…………はいっ……」
 ひかりは名前を呼ばれて少し緊張したが、少年の優しげな表情を見て友達の妹に向ける裏表のない親愛の情を感じとり、彼を案内しつつ目指す場所へと歩き始めた。

「……隆君は、元気?」
「あっ、はい……その、大会が終わって、しばらくはぼーっとしてましたけど……今はまたトレーニングとかも始めて……あと、高校受験があるから勉強しないとって、がんばってます」
 並んで歩く間の話題は、とにかく共通の話題である隆のことだった。
「そっか、良かった……隆君、本当に野球に打ち込むタイプだから、3年で引退したら燃え尽きちゃうんじゃないかって心配してたんだ」
「はい……えっと……最初は本当に、野球もやめようかって言ってて燃え尽きちゃってた感じでしたけど……また高校で野球をやるためにがんばるって、今は生き生きしてます」
「そうか……教えてくれてありがとう、ひかりちゃん」
 小柄なひかりはどうしても歩幅が短く、並んで歩くには少し早足にしないといけない。兄と歩く時よりは少しだけ遅い速さで、ひかりは元いた場所を目指した。時折斜め上を見上げると、花火に照らされた雄一の顔が見える。右に左にと視線を巡らし、隆のことを真剣に探していてくれるのがわかる。時折視線が合ってしまい、ひかりは気恥ずかしくなって下を向いた。

「……っ!! ひかりちゃん、危ない!!」
「えっ…………あ…………」
「わ、ああっ!! どいてっ!!」
 視線を落としていたひかりが顔を上げると、歩いてくる人の陰から女の子が飛び出してくるのが見えた。それよりも早く、ひかりの左手が引っ張られる。その方向に体を逸らした瞬間、ひかりがいた場所を青色の短い髪の女の子が駆け抜けていった。
「りっちゃん!! 人がたくさんいるんだから走らないで!! ごめんなさい、お怪我はありませんでしたか?」
 その後ろから駆けてきた母親らしき人が、立ち止まった二人に声を掛ける。
「え…………あ、はい、大丈夫です」
「よかった……りっちゃん、待って、ぶつかったら危ないんだから!!」
「だって!! おなか痛くてもうがまんできないのっ!!」
 ひかりの返事を聞いて、母親はりっちゃんと呼ばれた子を追いかけていった。
「うぅ……もうだめ、早くトイレっ!!」
 女の子はお腹を押さえてひかりたちが歩いてきた方向へ走っており、トイレに駆け込もうとする最中だったのだ。
「…………あの子、大丈夫かな……あっ、ひかりちゃん、急に引っ張っちゃってごめん。大丈夫だった?」
「あ…………はい。大丈夫です。あのっ、ありがとうございます…………あのままだったら、きっとぶつかって……そうしたらあの子も……」
 ひかりが走り去った少女を見やる間に、雄一が握っていた手が離れる。感じていた温かさが消えた左手を、ひかりは膨らみのない胸に当てて上から右手で押さえた。初めて会った時に助け起こしてもらった時の感触とその時の感情が浮かんできて、ひかりは顔を赤くした。
「よかった、役に立てて。……やっぱり、今年は特に人が多いみたいだね。ぼくが少し前を歩いたほうがいいかな……」
「あっ……い、いいえ、大丈夫……です…………ちゃんと、気を付けますから……」
 ひかりはそっと前に出て雄一に並んだ。何度も助けられてばかりで申し訳ないと思ったこともその理由だが、いつも不注意で転んだりぶつかったりしているように思われたくないという意識もあった。

「えっ……と…………」
「隆君と一緒にいたのは、この辺り?」
 元いた場所に着いたひかりは辺りを見回すが、やはり兄の姿は見つからなかった。
「……はい…………このシートのところで……飲み物も置いてあるから……戻ってくるつもりだと思うんですけど…………」
「いないね……隆君、背が高いから近くにいればわかりそうだけど……ごめんね、ぼくがもっと背が高ければすぐ見つけられるかもしれないのに」
「……あ、あの……そんなことないです……わたしはもっとちっちゃいから……全然見えなくて……」
 雄一は中学3年の男子としては身長が低めで、隆と比べたら10cmくらい低いだろうか。ひかりの身長は彼の肩を越えるかどうか、というところで、この人混みで遠くを見渡すことはできそうになかった。
「どうしようか……。他に行きそうな所があれば探しに行ってみてもいいけど、あてがなかったらここで待っていた方が会える可能性は高そうだね」
「……は、はい。……ちょっとここで待ってようかなと思います」
「うん。じゃあぼくはお暇したほうがいいかな。せっかく二人で来たのを、邪魔しちゃうと悪いし」
 そう行って、雄一は一歩下がってこの場を離れようとした。
「え…………あ、あのっ……お、お兄ちゃんも穂村さんに会えたら話したいことがあると思いますから、その…………も、もしよかったら、い、一緒に待っててくれませんか……!」
「え……いいの? ……ありがとう、じゃあそうするよ。ぼくも、隆君にいろいろ話したいことがあるから」
「あ……は、はいっ……ありがとうございます」
 ひかりは、去っていこうとする雄一を引き止めていた。これまで聞いた話だけでも、隆と仲が良かったことが伝わってくるし、その彼となら兄も話したいことがたくさんあるだろうと思い、何とか会わせてあげたいと思ったからだった。……そしてひかり自身も、もう少し彼と話をしていたいと思い始めていた。

 二人はレジャーシートの上に腰を下ろして、隆を見つけたらすぐ立ち上がれるように靴とサンダルはそのままはいて、軽く膝を抱えるようにして座っていた。
「……あの、穂村さんって、弟か妹がいるんですか?」
「えっ?」
「あ、あの…………さっき助けてもらった時、何だか……お兄ちゃんみたいだなって」
 ひかりはさっき手を引いて助けてもらった時、温かい安心感を感じていた。それが兄と一緒にいる時と同じような気持ちだったと気づいて、こういうことに慣れているのかなと思ったのだった。
「そう見えるかな……? でも、残念だけど一人っ子なんだ。本当は、弟か妹がいたらいいなって思ってるんだけど」
「……そうなんですか?」
「うん。ぼく、あんまり体が大きくなくて、学校でも弟みたいな扱いばっかりだから。たまにはお兄ちゃんみたいな立場で、頼られるようになりたいって……だから、変かもしれないけど、ひかりちゃんにそう言ってもらえて嬉しかったよ」
 そう言って雄一は口に手を当ててくすっと笑ってみせた。
「あっ……ぜ、全然変じゃないです……! あの……わたしも、いつもお世話されてばっかりだから……弟か妹がいたらよかったな、って……そうしたら、もっとしっかりできたのかなって…………と、時々ですけど……」
「そっか、ぼくと同じだね。……そうしたらひかりちゃん、きっといいお姉ちゃんになれたと思うよ」
「で、でもわたし、全然しっかりしてなくて……さっきもぶつかりそうになったり……」
「でも、ひかりちゃんはさっきの女の子のことも心配してたし、学校でも他の人を助けてあげたことがあるんじゃないかな。うまくいったかはともかく、誰かのために、って思うことはすごくいいことだと思うよ」
「あ……」
 ひかりはそう言われて、いくつかの記憶を思い出した。バレーの試合中に純子が限界になってしまった時に交代して助けようとしたこと。下校中にお腹を壊してしまった幸華と美奈穂にトイレを譲ろうとしたこと。結局それで自分は漏らしてしまったから、うまく助けられたとは言えないのだけど、それでも助けたいと思ったことは確かだった。
「ありがとう……ございます……」
 ひかりは過去の自分を認めてもらえたことが嬉しく、詳細を説明するわけにはいかなかったものの、感謝の言葉でその気持ちを伝えた。

 それから、5分ほどの時間が経過したがまだ隆の姿は見えなかった。
「……隆君って、家ではどんな感じなの? やっぱり、寝る間も惜しんで自主トレとかしてるのかな」
「そ、そんなことないですよ。朝は走り込みとかしてますけど、夜は普通にご飯食べて、あと宿題とかやって寝てるだけで……今年は、夏休みの宿題とか結構大変そうでした」
 最近のこと、学校でのこと、家でのこと……。二人は隆の話をしながら次々と打ち上がる花火を眺めている。
「そっか……たしかに大変そうだね。……そうだ、食事とかってどうしてるの? 確か、隆君のお母さん、ぼくらが小学校を卒業する頃に…………」
「…………はい。普段は……わたしが作ってます。お兄ちゃんもたまには作るよって言うんですけど、……わたし、少しでも早く、お母さんみたいにお料理がうまくできるようになりたいんです」
「そんなに上手だったんだ……確かに、隆君が持ってきてたお弁当、いつも美味しそうだったね。それに……お母さん、すごく優しそうで、きれいな人だったな」
「え……!! ……お母さんのこと、知ってたんですか……?」
「うん。あんまり、ちゃんと話したことはなかったけど……穏やかで優しそうで、隆君もお母さんのことが大好きだったんだなって思ってた。……ひかりちゃんも、きっとお母さんみたいになれるよ」
「…………あ、ありがとうございます……」
 雄一は、隆とひかりの母が2年前に亡くなったことを知っていた。それだけでなく、母のことを覚えていてくれたのだ。学校で仲の良い友達や先輩はできたが、大好きだった母との思い出を共有できるのは兄と父しかいなかった。その思い出を知っている人に会えたことに、ひかりは深く感謝した。
「そうだ、いつだったかな……一度、お母さんが試合を見に来てくれた時に、女の子を連れてたような気がするんだ。……途中で帰っちゃったみたいで、話したりはできなかったんだけど……もしかしたら、ひかりちゃんともずっと前に一度会っていたのかもしれないね」
「あ…………は、はい……。たぶん、そうです……ごめんなさい、わたしその時は、穂村さんのこと全然知らなくて……。それとその時、お母さんが帰っちゃったの、私のせいなんです……私がその……体調が悪くなっちゃって……それで先に…………」
「そうだったんだ……謝ることなんてないよ。……いつも、ひかりちゃんのことを考えてくれる、優しいお母さんだったんだね。……ありがとう、ひかりちゃんに会えて、隆君やお母さんの話ができて良かった」
「わ、わたしも…………嬉しかったです……。穂村さんが、お兄ちゃんのことだけじゃなくて、お母さんのことも覚えててくれて……」
 思い出を語り合えた嬉しさと、その思い出にもう手が届かない寂しさを感じ、二人は穏やかな表情で言葉を止めた。
 
 花火が次々と打ち上がる。光と音の華やかな競演。しかし、それらは数秒の余韻を残して夜空の闇に消える。
 一瞬ゆえの美しさであることに気づきながら、ひかりと雄一は夜空の輝きを眺めていた。

 上空で爆ぜた花火の煙が、月ヶ瀬川の流れに沿うかのように東へ、二人から見て左へと流れていく。
 同じ向きに吹くかすかな夜風を頬に受けながら、その風に促されるようにひかりは視線を雄一の方に向けた。

「……あの…………花火……好きなんですか?」
「うん。小さい頃からこの花火が……一瞬だけ光って消えちゃうけど、しばらく目に焼き付いてる感じが好きで……だから、毎年ここに見に来てるんだ。……高峰中の野球部って、寮生活で厳しいから勝手に外に出たりできないんだけど、毎年花火の時だけは自由に外出していいことになってるから。…………ひかりちゃんも毎年、隆君と一緒に見に来てるの?」
「え……あ……あの…………わたし、しばらく来てなくて…………前に来たのは小学校1年の時で……でも、来てよかったです、花火、すごくきれいで……明るいうちは学校の友達とも一緒で、いろいろお話して…………」
「……」
「この……浴衣も、お母さんが作ってくれたんです。大きくなったら着られるようにって。だから、これを着て、花火を見に来られたことが嬉しくて……」
「そうか、お母さんが…………どうりで、すごくぴったりだと思ったんだ。……ひかりちゃんのために、作ってくれた浴衣なんだね。……すごくよく似合ってるよ」
「……あ…………ありがとうございます……!」
 母が残してくれた浴衣のことを、雄一は称賛してくれた。ほぼ初対面の人に話すことではなかったかもしれないが、思い出をまた一つ共有できたことはとても嬉しかった。

「あっ、ひかりちゃん、……あそこにいるの、隆君じゃないかな…………それと……」
「え…………あっ!?」
 顔を上げたひかりは、遠くに兄の顔と、もう一人よく知った顔を見つけた。
「白宮せんぱい………!」



Scene 7.白宮純子の秘密

(ひかり……大丈夫かな。かなり並んでるし、間に合ってればいいんだけど)
 トイレに行ったきりなかなか戻ってこないひかりが心配になり、隆は様子を見にトイレにやってきた。仮設トイレには長蛇の列ができている。隆は行列を見回して桜色の浴衣を着た小さな姿がいないか探した。

(列の中にはいない……トイレに入ってるのか……?)
 トイレからひかりが出てこないか見ていたが、そうすると前を押さえたりお腹を押さえたりお尻を押さえたりしながらトイレに駆け込む女性や少女たちの姿が目に飛び込んでくる。隆は小さい頃から妹が下痢でトイレに駆け込むのを見慣れており、後始末をしてあげたことも少なくない。そのためか、女の子のトイレでの排泄を汚いと思うことはなかった。むしろ、見たいという興味を持ってしまうこともあり、その度にそれはまずいと理性を奮い立たせていた。

(…………さすがに、あんまりじろじろ見てると良くないか……いったん戻ったほうがいいかもな)
 列とトイレを見始めてから3分程度で、調子が悪い時のひかりは10分以上出てこないこともあるからまだ中にいる可能性はあるが、隆は一度戻ることにした。しかしその直後、トイレから少し離れたところに桟敷席用の資材が置いてあり、物陰ができているのが見えた。

(もしかして…………………念のため確認しておくか)
 隆は、ひかりがその物陰に駆け込んだのかもしれない、と思ってそちらに近づいた。しかし、もう少しでその物陰を見通せるところに来た時、一人の人影を見つけた。
 
(…………あれ……? まさか……うそだろ、でも、あの姿は…………間違いない……!!)
 浴衣に身を包んだ後ろ姿。腰まである黒髪を揺らし、何かを探すように辺りを見回している。その度にのぞく横顔には、確かに見覚えがあった。いや、一度見たら忘れられない顔だった。

「…………白宮さん……!!」
「えっ……………あ……っ……」
 一瞬かすかに体を震わせ、人影が振り向いた。
 上まぶたをわずかに見開いて口元を少しだけ緩め、驚きと喜びを半分ずつ湛えて頬を染めた表情。白地にすみれ色の花柄と水色の波模様が描かれた涼やかな浴衣が、彼女の肌を包んでいる。右前に合わせた襟をそっと握る右手と、小さな巾着を提げた左手の白さが花火に照らされて輝く。振り向いた動作で流れる髪がふわりと顔と背中に触れるその数秒が、コマ送りに見えるかのようにゆっくりと経過する。まるで彼女の美しさに、時間までもが足を止めているようだった。あれだけ大きく響いていた花火の音や人混みの喧騒が、遥か遠くに感じられる。
 周りと同じ制服を着ていてもきらめくほどに美しい彼女の姿は、和の趣を振り撒く浴衣に包まれ、大和撫子という言葉を具現化したかのように慎ましくもあでやかに佇んでいた。

 白宮純子。学校で文句無しに一番の美少女であり、おしとやかで分け隔てなく優しい性格。学業も運動もトップクラスの実力を持ち、さらには古くからの名家のお嬢様。その魅力を十二分に引き出す浴衣姿の彼女は、夜空の花火を脇役にしてしまうほどにまぶしく見えた。

「……は、早坂くんっ!?」
 隆の顔を見た純子は、驚きながらも声を出した。こんな所で会えたのが信じられないという表情だった。
「あ…………ご、ごめん、驚かせちゃって」
「え……あ、ううん。ご、ごめんなさい……早坂くんに会えると思ってなかったから、びっくりして……」
 純子は顔を赤らめて視線を落とし、両手を体の後ろに回した。
「い、いや、俺の方こそ……こんなところで白宮さんに会えるなんて思わなかった。てっきり、向こうの桟敷席にいるって……」
「あっ……うん、そうだったのだけど……その、ちょっと外に出てみようと思って。あの、早坂くんは……ひかりちゃんと一緒に来ていたの?」
「あ、ああ……実は、ひかりがさ……トイレに行くって言ってからしばらく戻ってこなくて……心配になって探しに来たんだ」
「えっ、そうなの……た、確かに結構混んでいるし……心配ね」
「……そういえば、白宮さんはなんでこんなところに?」
「……!! えっ、あ…………あ、あのっ、私は……その……」
 桟敷席からも離れて人気が少なくなった場所。そんなところにいた理由を問われ、純子は顔を赤くして口ごもった。
「……白宮さん?」
「あ、あの…………その…………」

(…………だめ……! 本当のことなんて、言えない……!)

 本当のこと――。
 それは純子が何としても隠さなければならない、秘密だった。


 数十分前。
「白宮会長、お招きいただきありがとうございます。いや、何年ぶりでしょうな」
「これは神崎社長……わざわざお越しいただきありがとうございます。ささ、ぜひご一献」
「どうぞお料理も召し上がってくださいな。純子、手伝ってくれるかしら?」
「はい、お母様」
 桟敷席。河川敷に鉄パイプと渡し板で組まれた一回り高い台の上にござが敷かれた観覧席のことである。花火大会の有料観覧席として一般販売もされているが、特に眺めの良い特等席は、大会のスポンサーに割り振られ、地元の名士の社交場となっていた。そのうちの一社、さくら織物工業の創業家が、古くからの名家である白宮家であった。
 
「あの子、純子ちゃんですか? いつの間にこんな綺麗になって……この間見た時はこんな小さかったのに……」
「いやいや、まだ子供ですよ。そう言えば若葉ちゃんはいくつになりました?」
「今年で11ですが、まだまだちっちゃくてね」
「可愛い盛りじゃあないですか」
「あなた、若葉ちゃんこの間陸上の全国大会でテレビに映っていたのよ」
「そうなのか? いや、すごいじゃないですか。新作の靴の広告塔にもなりますね」
「ええ、それは親孝行なのですが……普段からお転婆で困ってしまいますよ。今日だって屋台でいろいろ食べすぎてお腹壊してしまってね。本当はここにも連れてきて、純子ちゃんを見習わせたかったですよ」
 父が旧知の仲である神崎化学工業の社長と仲よさげに話している。お酒と料理を運び終えて母と純子は一息ついていた。
「ありがとうね純子、今年もお手伝いしてもらって。でも、本当は学校のお友達と花火を見たかったのでしょう?」
「え…………ううん、その、別に…………」
(早坂くんと、一緒に見られたらって思ったけど…………でも…………)
「疲れたら気分転換に出かけていらっしゃい」
「うん。じゃあもうしばらくしたら――」

  ギュルルルッ……!!
(…………!?)
 背筋が冷たくなるような感覚を覚え、純子はびくっと体を震わせた。

(うそ、どうして…………お腹が…………!!)
 一瞬だけ、お腹が締め付けられる感覚があった。その後はすぐに消えたが……差し込むようなお腹の痛み。それは、下痢をして便意に襲われる前兆だった。
 
(ど、どうしよう、こんな時に…………こ、このままじゃ……)
  ギュルル…………グルル……………ゴロロロ…………
 今はお腹の違和感を感じただけだが、その違和感は消え去らずにだんだん強くなってくる。このままだと間もなく激しい腹痛に襲われ、猛烈な便意が押し寄せてくる。そうしたら――。
(と、とにかく今のうちにお手洗いに行かなきゃ……!!)
「あっ、えっと、ちょうど手が空いたところだし、今のうちに少し出かけてきます」
「ええ、いいわ。気をつけてね」
「はいっ」
 純子は手荷物を入れた巾着を拾うと急いで下駄を履き、お腹を刺激しないように慎重に桟敷席の階段を降りた。

(一番近いお手洗いは……あそこまでなら、なんとか……!!)
 近くに見える仮設トイレに向かうおうとする純子。本当は今のうちに走ってトイレに駆け込みたい。才色兼備、文武両道の純子は運動も得意で、全力で走ればすぐに着くだろう。だが、浴衣に下駄という格好ではそんなに早く走ることができず、小走りが限度であった。
(どうして、こんなにお腹が…………ちゃんと、お薬飲んでおいたのに…………)
  グギュルルゴロゴログルルルッ!! ギュルルギュルゴロロロロッ!
  グピーーーーーーギュルグギュルルルルルルルッ!! ゴロピィィィィゴロゴロギュルッ!!
 さらに純子を苦しめるのは下痢の強烈な腹痛であった。足を止めたくなる強烈な痛み。純子はその痛みに耐えながら急いだ。痛みが強いということは下痢の酷さも相当なものであるということ。時間の余裕は全くない。

(…………お手洗いに…………早くしないと……!!)
 有料観覧席の入口をくぐると一気に歩いている人の数が増え、ぶつからないように走るのは更に難しくなった。
(だめ、このままじゃ、早く…………)
 純子が焦りを感じたその瞬間だった。

「……っ……!」
  ギュルッ! グギュルルルゴロゴロゴロゴロッ!! ピーーギュルルルルルッ!!
  ゴログピィーーーーーーッ!! ゴログルルルゴロゴロゴログギュルーッ!!
 純子の全身を猛烈な痛みが貫いた。その痛みが下腹部に集束していく。腸の中を下痢便が駆け抜ける圧力がもたらすお腹の痛み。熱さと冷たさが同時に降り掛かってくる、下痢の腹痛だった。

(だめ…………こんな、急に…………もう…………!!)
 一瞬お腹を押さえて立ちすくんだ純子だったが、次の瞬間顔色を変えて再び歩き出した。もう一刻の猶予もないという表情だった。

(お手洗い…………すぐ入れれば、なんとか…………でも…………)
「…………あ…………」
 純子はあと少しのところまで来たトイレを見て嘆息した。
 女子用の仮設トイレが4つ。すでに多くの人が使い、純子のようなお嬢様とは縁がないほどの汚さとにおいに溢れているだろうが、純子にとってはトイレでさえあれば何でも良かった。しかし、そのトイレの前には、4回も5回も折り返して数十人になった行列ができあがっていた。この列の最後尾に並んでトイレに入れるのは何分後になるだろう。
 
(…………あそこまで、行くしかない…………お願い、間に合って…………)
 純子は絶望に足を止めることなく、そのままトイレの列を横目に歩き続けた。トイレに来る人と戻っていく人が交差して進みが遅い。
 
「……ごめんなさい、通してくださいっ……あの…………っ…………」
  ゴログルルルルギュルルルルッ!! グルルピーーーゴロゴロゴロッ!!
  ゴロロロロロロロッ!! グピィィィギュルルルルルルルグギュルーーーーーーーッ!!
 純子が人波に足を止めたその瞬間、またも彼女を強烈な腹痛が襲った。
(あ……………だ、だめ………………!!)
 そして次の瞬間、純子は強烈な便意を感じた。お尻の穴に下痢便が押し寄せてくる。普通の女の子なら、反射的に肛門を閉じて、苦しい我慢の始まりとなる便意。
(だめ…………がまん、しなきゃ…………)
 純子は懸命に便意を我慢しようと、すべての意識を肛門に集中させ、それを閉じるイメージをする。それだけでなく体を緊張させて少しでも肛門を締め付けられるように補助する。
 それでも。

(だめ……………出る………………)
  ブビッブジュブジュルルルビチブジュゴポッ!!

 あまりにもあっさりとに、純子の肛門は決壊した。
 真っ白なジュニアショーツの中に、どろどろの下痢便が吐き出される。
 肛門から何の抵抗も受けずに飛び出した下痢便は布地に遮られて下着の中で広がる。水状というほどではないが泥状の茶色い下痢便は、下着を膨らませながら前後に広がっていく。後ろはお尻の割れ目の終端の尾てい骨の辺りまで達し、前は誰も触れたことのない彼女の秘密の場所を無慈悲に塗りつぶしていた。
 純子は、人混みの真ん中で、下痢便を漏らしてしまっていた。
 
 便意をもよおすと我慢できずにすぐ漏らしてしまう。
 それが、白宮純子の秘密だった。もともとは我慢強い体質だったが、小学生の頃に熱病にかかった後から、肛門を締め付けることがほとんどできなくなっていた。その結果として、便意をもよおすたびに高確率で漏らしてしまう。おそらく、トイレに間に合った回数よりも漏らしてしまった回数の方が多いだろう。
 
(出ちゃった…………だめ、見つかる前に…………行かなきゃ…………!!)
 普通の女の子なら一生に一度経験するかどうかという下痢便のおもらし。その恥ずかしさと気持ち悪さは表現することすら難しい。しかし、純子は漏らしてしまったことに放心することなく、人波をかき分けて歩き出した。

 純子にとって、便意との戦いとはいかに出さないように我慢するかではなかった。漏らしてしまうことを前提として、漏らす量を少しでも減らし、被害を下着の中に留めて周囲を汚さないようにし、気づかれる前に人目のない所に逃げ込むことができるか、ということだった。一度でも人に気づかれてしまえばそこですべてが終わる。気が狂いそうなほどの羞恥と気持ち悪さの中で、冷静に負け戦を戦い抜かねばならない。それを、毎日のように。

(大丈夫…………まだ、気づかれてない…………!! 今のうちに…………早くしないと……!!)
  ブジュブリュルルビチチチチチゴボッ!!
  ゴボボビチビチビチゴプッブリリリゴポポポポポッ!!
 純子は人混みの混雑地点を抜け、人気のない方向へ歩いていく。その間にも彼女の力なき肛門からは下痢便が漏れ続け、下着を茶色に染めあげていく。
 
(おしり…………気持ち悪い…………もう、ぐちゃぐちゃになってる…………でも、これならまだ……)
  ゴポポポポッブボブーーーッ!! ブボブジュッッ!!
  ゴポッビチブボッグポポポポポポッ!!
 純子は肛門とお尻を生暖かく包む感覚が少しずつ広がって汚れていない部分を侵食していくのに震えながら、現在の被害状況を分析していた。ショーツは後ろ半分が汚れてしまっているが、まだあふれ出す気配はない。漏らした下痢便をこぼさないためには脚を開き気味にして歩くのがベストだが、純子はまだ下着の内容量に余裕があることを考慮し、すれ違う人に気づかれないように、普段と同じようにおしとやかな女の子らしく内股で歩いた。その姿は、大量の下痢便を漏らしているとは思えないような気品を感じさせるものであった。
 

「…………はぁっ…………うぅっ……くっ……………」
(きっと、この物陰なら、誰も――)
 自らが生み出してしまったお尻の不快感に耐えながら歩き続けた純子は、人影が少なくなった所で通路から脇に逸れていく。その先には、桟敷席の組み立てに使った鉄パイプや鉄板、ブルーシートなどの余りが置かれており、ちょうど通路からは身を隠せる場所があった。まだ明るいうちに、純子は、いざという時に駆け込んで身を隠せる場所を探しておき、そこに最短距離で歩いてきたのだ。それなのに、すでに腸内の下痢便の大半を漏らしてしまっていた、その事実が彼女の胸を締め付ける。
 
(…………かなり出てしまったけど、まだ脚は汚れてない……これなら、急いで後始末をすれば…………)
  グギュゥゥゥゥゥゥゥゴロゴロゴロロロロロッ!! ゴロッピィーグギュルルッ!!
  ゴロギュルルルルルルルルルグピィーーーーーーッ!! グルルルルピィィィィギュロロロロッ!!
  グギュルギュルピィィィィィィゴロロロロロロッ!! グギュルルルルルルルピィーーーーーゴロゴロゴロゴロゴロッ!!
「あ……っ…………!!」
 純子がゴール地点を意識してその後のことを考え始めた時、彼女のお腹が一段激しい音を立てた。花火の音にもかき消されずに聞こえるその音は、強烈な腹痛と熱く押し寄せる便意を伴っていた。それも、今までより一回り液体に近い圧力――。
 
(……だめっ…………これ……今までと、違う…………すごく水っぽい…………だめ、こんなの、出してしまったら……!!)
 純子は下痢便を漏らし続ける肛門を締めようとして体に裏切られながら、あと10歩ほどの距離にある物陰まで急ごうとした。
  ギュルルルルルルルルルルルルピィーーピィグウーーーーーーーッ!! グギュルルッ!
  ゴログルルルルルゴロゴロゴロゴロッ!! グギュゥゥゥゥギュルルルピィーーグギュルッ!!
  ブジュビチブジュルブジュボボッ!! ゴポポポッブリビチビチビチッ!!
  ブジューーーーッゴボボボボボッジュルルルルブビブビビビビィッ!!
(だめ…………あと……ちょっと…………なのに…………)
 強まり続ける腹痛。漏れ続ける下痢便。その感覚が急速に水っぽくなっていく。このままでは、ショーツから溢れ出した下痢便が脚に流れ落ちてしまう。浴衣も汚れてしまうだろう。そうなったら人前に出ることはできない。家に帰ることすらできない。

「あ…………ぁ…………」
  ゴロピィーーーーッ!! グピィグルルピィーギュルルッ!!
  グギュゥゥゥグルルルグルピィィィィィィィィィッ!! ゴロゴロゴロゴロロロロロロッ!!
  グギュゥゥゥゥピィィィィグルルルルギュルーーーーッ!! ギュルルルルルゴロゴロロロロローーーッ!!
 あと数歩で完全に身を隠せるというところで、純子の下腹部を猛烈な腹痛が貫いた。両手でお腹を抱え込み前かがみになってしまう。何年か経験していなかったほどの激しい下痢と強烈な痛みに、純子は耐えきれず足を止めてしまった。腸を締め付けるような痛みが下痢便を絞り出そうとする。機能しない肛門はその圧力に抗うことができなかった。
 
「だめっ……!!」
 純子は真っ白になりそうな意識を引き戻し、膝を曲げて足首を振り、下駄を地面に脱ぎ捨てた。足袋ごしに感じる地面の砂と小石の感覚が足の裏に伝わる。左手に持っていた巾着を地面に捨て、浴衣の後ろ側を汚れている下着から離す。膝をすり合わせるようにふとももを閉じ、激烈に痛むお腹を右手で押さえる。
 それが、純子の最後の抵抗だった。
 
「あぁぁ……………っ……………」
  ブパッビチビチビチビチビブビビビビィーーーーーーーッ!! ブジューーーーーッブジュルルルルル!!
  ブジュブビィィィィィィィビチチチチチチゴボボボボボブピピブジューーッビィーーーーーッ!
  ブバッブピピブビィィブジュルルルルルビチーーーッ!! ブビッビチゴボゴボゴボブジュルーーーーーーーーーーーーーッ!!
  ボタッビチャビチャビチャッ!! ブピブビィィッゴボボボボボブジューーーーーーーーッビチャビチャビチャァァァァァァッ!!
 純子の肛門が水っぽくなった液状便を噴射する。その外側は僅かな隙間すらなくどろどろの下痢便に覆い尽くされている。その中を掘り進むように侵食した液便は、しかしすぐに下着とその内側にある下痢便によって勢いを止められ、お尻と下着……ではなく、お尻と下痢便の境界面に広がっていく。それはすぐに下着の端まで達し、限界まで広がっていた下着はそれ以上液体を受け止めることができなくなった。
 両脚を茶色い液状便が大量に流れ落ちる。完全な水状ではないが、僅かな粘性を残すだけの液状便は肌に引っかかりながらも閉じた両脚の間を埋め尽くすように流れ落ちていき、その外側にも一つ二つ三つと、次々と新たな流れを作っていく。それだけではとどまらず、ショーツの後ろ寄りの脇からこぼれた液状便は空中を落下し、純子のふくらはぎや足袋に覆われたかかとや地面に降り注いだ。浴衣の裏側の布地にも、いくつかの茶色い線が浮かんで染みを作っていく。

「うぅぅぅぅっ…………!!」
  ブジュルーーーーーーーーーーッゴボボボボボブビィィィッ!! ブビビビチィィィィブジュビチビビチビチゴボボボッビチャァッ!
  ブジュビチチチチチブビビビビィーーーーーッグボボゴボッ!! ブビチチチチブジューーーッビチチビュルルルルルルルルッ!!
  ビチャブビーーーーーーーーーーーーーッブジューーーーーーーーーーッゴボゴボゴボッ!! ビュブブブッブビブピーーーッブバァァァッゴボッビチャビチャビチャ!!
  ビュルルルルルビチビチビチブビブビブビィィィィィィッ!! ビチーーーーーーッゴボボボボボッ!! ビチビチッブジュルルルルルブジューーーーーゴボボボッ!! ビチャビチャビチビチビチャビチャビチャッ!!!
 これ以上出してはいけないとわかっているのに、あまりのお腹の痛みに耐えきれず前かがみになりお腹に力が入ってしまう。抵抗力が全くない肛門はその圧力をそのまま下着の中に叩きつけた。その勢いが下着から弾け出る勢いとなって脚を汚し、足に降り注いだ。白い浴衣に誂えた白い足袋は、脚を流れ落ちた水流と下着の裾から降り注いだ液滴で無惨な汚れ具合になっていた。
 
「あ………………うぅ…………」
(どうしよう、このままじゃ…………でも、脱ごうとして浴衣を汚してしまったら、もう…………)
 激しい噴射によって意識を押し流すほどの便意の奔流が少しだけ収まり、純子は少しずつ理性を取り戻した。……しかし、この状態でできることは何もなかった。下着を脱ごうとすればそれによって余計に浴衣が汚れてしまう。しゃがんで身を隠そうとすれば、浴衣を折りたたむことになり表面にまで下痢の茶色が染みてしまう。
(このままの姿勢なら、浴衣は汚さないですむ…………気持ち悪いけど…………このまま、漏らし切ってしまった方が…………)
 最後の一線――漏らしたことを、誰にも知られないようにすること――を守るために、純子はこの姿勢のまま漏らし続けることを選択するしかなかった。自らの体を汚してでも、着衣の被害を最小化する。そんな悲しい選択をしなければ守ってこられなかった尊厳。普通の人の辞書にはない「漏らし切る」という言葉を純子は頭に浮かべた。

  ギュルグルルルルルゴロゴロゴロッ!! グギュルゥゥゥゥゥッ!!
  ビチチチチチチブピッブジュルルルルルルルッ!ビチャビチャビチャッ!!
  ビチブビーーーーーーーッゴボゴボゴボブジューーーーーーーッ!! ビチビチビチビチッ!!
  ブジュルルルルルルルルルルルルブジュッ!! ゴボジュルブジューーーーーーーッビィィィィィッ!!
「っ………………うぅぅぅっ…………」
 また襲ってきた腹痛に逆らわず下腹部にわずかに力を入れると、全く抵抗を受けずに液体が肛門を駆け抜けていく。汚れきった下着の中に下痢便を吐き出し続けるおぞましい感覚。汚れを塗りたくるように肌に触れる液体の感覚。ショーツの脇から流れ落ちる茶色い液体が白磁のような脚を無惨に塗りつぶしていく。地面に直接こぼれ落ちようとする液体が浴衣に付かないように、制御できない噴出の勢いにあわせて浴衣の裾を後ろに引っ張るささやかな抵抗。純子は目から大粒の涙を流しながら、下着の中に液体を注ぎ込み続けた。

(私……………綺麗なんかじゃない…………こんなに、汚くて……臭くて…………)
 下半身から広がる強烈な悪臭が純子の嗅覚を満たす。周りからは見えないが、純子には下半身の感覚でどのくらい汚れているかはわかる。下着の後ろ側、腰のあたりまで液状便が上がってきてそこからも流れ落ちている。
「うぅぅ……………あぁっ………………うぁぁぁぁぁ………………」
  ビュルルルビチーーブピブピピピビィィィッ!! ゴボボボボボビュルブピブジューーーーーーーッ!!
  ブビビビビビビビビビビビビブバァァァァァァァァッゴボッ!! ビュルルゴボゴボッブビビビビビビチャァァッ!!
  ブビーーーーーーーーーーーーッブジュルルルルルブビィィィッ!! ビュルルルルルブジュルルルルルゴボビィィィィィィィィィッ!! ビチビチビチブビビビビッ!
  ビチャブビーーーーーーッブピピピピピピブバーーーーーーーーッゴボゴボゴボゴボゴボッ!! ブバッブビビチビチビチビチャァァァッ!!
  ビュルルルルルビチーーーーーッゴボボボボブピピピピピピピピッブバーーーーーーーッ!! ビチビチビチゴボボブビビビビビブジュルーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ブバッブピピブジュルルルビィーーーーーーーッ!!
 純子の悲しい嗚咽と、彼女の体から発せられたとは思えない凄まじい音が、人通りのない物陰にこだまする。お腹を押さえて、足元に液状便の水たまりと飛沫を広げながら立ち尽くす彼女の姿が、数秒おきに上空で炸裂する閃光に照らされて夜闇の中に映し出されていた。


「………………………………………」
  ブピッ……………ビチュ……………ブジュブピピィィーーッ……………ゴポッ………………
 猛烈な勢いでの排泄が終わり、情けないガス混じりの破裂音が数度響いた。
 純子は、そのまま数十秒にわたって硬直し、沈黙していた。
 完全にやってしまった。
 誰に見られるかもわからない、花火大会の会場の一角で、大量の下痢便と液状便を漏らしてしまった。

(………………後始末、しないと…………)
 純子は悲しみに押しつぶされた意識を立て直し、絶望的なおもらしの後始末を始めた。
 取り返しのつかないほどのお漏らしを何度もしてしまっている純子。彼女にとってお漏らしは終わりではなく始まりだった。汚れきった下半身を、何十回も何百回も綺麗にしてきた。
 
(…………大丈夫、浴衣の表までは汚れてないはずだから…………)
 漏らす寸前にとっさに浴衣の後ろを離したことで、大量の下痢便が直撃するのは避けられた。下着からこぼれた液状便が膝下の布地に茶色い染みを付けているが、これは表地の下にある居敷き当てと呼ばれる当て布だった。下着や脚が透けることを防ぐためのものであるが、純子にとっては漏らした下痢便が浴衣の表の生地に染みてしまうのを防いでくれる強力な防御手段であった。あと汚してはいけないものは、履いていた下駄。桐の木でできたそれは簡単に下痢便の色素を吸着してしまうし、鼻緒も汚れたら目立ってしまう。とっさに脱ぎ捨てることで汚れるのを防いでいた。
 純子はかろうじて、人に見つからないように、気づかれないようにという守るべき一線を守り抜いていた。何百回も繰り返したお漏らしの経験が、彼女に最も被害の小さい漏らし方を教えてくれている。純子は予想外に水気の多い下痢に襲われてもなお、ぎりぎりの所で漏らし方を制御することができていた。
 
「……………………」
 純子は浴衣の後ろ裾を右から前に回して内側を確認した。必死に姿勢を保とうとしたことは無駄ではなく、下着の脇からこぼれた液状便は大半が地面か脚の上に落ち、浴衣の当て布に着いていた汚れは10箇所程度だった。右手で浴衣が汚物につかないように押さえながら、地面に投げ捨てた巾着をとって左手だけで器用に紐を引いて中身を出す。ティッシュ、ウェットティッシュ、タオル、黒いビニール袋、密封可能なジッパーバッグ、そして替えの下着……。お漏らしした時に必要なもののすべてがその中にある。これを花火大会に持っていく巾着に詰める時の悲しさは耐え難いものがあったが、純子はその悲しみに耐えながら準備をし、今も忘れずに手に提げてここまで来たのだ。その苦心は確かに報われていた。

「………………っ……」
 純子はティッシュではなくタオルを手に取った。今回、体の汚れはかなり広範囲に及んでいる。しかも、いつ誰が通りかかるかわからない。純子と同じ判断をした女の子が駆け込んでくる可能性もある。紙を何度も取って少しずつ拭いていくよりは、タオルを使い捨てるつもりでごしごしと拭いて汚れを落としてからウェットティッシュで拭くことで緊急時の後始末を少しでも早く終えようとしている。
 
(……………これで…………浴衣の汚れは、全部…………)
 花火の輝きが純子の足元を照らす。瞬間瞬間のわずかな灯りだが、悲しいことに当て布の汚れははっきりと色づいて見えており、視認性に不自由することはなかった。タオルで表面にまだ残っている水分を含んだ下痢便を吸い取る。これなら、めくりあげても表の生地の表面まで汚れが浸透することはないはずだ。
 
「………………うぅっ………………」
 純子は一度ウェットティッシュで手を拭くと、周りから少しでも見えにくい位置に身を隠し、浴衣の裾を帯の上までめくりあげた。瞬間、上空で花火が輝き…………純子の、汚れた下半身が明るく照らされる。ショーツは前の方まで液状便で満たされ、後ろは一番上のゴムまで達してそこから流れ出した汚物が直接ショーツの表面を流れ落ちている。両足の内側は完全に液状便で汚し尽くされ、どろどろの未消化物が残り強烈なにおいを発しながら少しずつずり落ちて汚れを塗りたくっていっている。足袋は半分以上が茶色に染まり、足の裏も完全に茶色い水たまりに沈んでいたため同じ色に染まってしまっていた。
 液状の下痢便を漏らしてしまった哀れな少女の姿だった。すれ違った人が振り向くほど可愛く美しい少女。その整った顔と美しい黒髪は全く色褪せていないが、一度視線を落とせばそこに広がっているのは彼女が生み出したとは思えない地獄絵図でしかなかった。
 浴衣の裾を帯に挟んで落ちてこないようにし、袖も大きくまくりあげてやっと着衣の安全を確保した後、純子は下痢便を大量に受け止めて重くなった下着を下ろした。細い腕に感じるその重みが、やってしまったことの重大さを否応なしに認識させる。

(私…………また……こんなに…………漏らして………………)
 下着に覆われていた純子の下腹部は、完全に茶色に塗りつぶされていた。前も腰骨の高さまで茶色く染まり、尿道や秘所を包む割れ目はその形状すら見えない。お尻も丸みの頂点より外側まで茶色くなり、腰の上までせり上がった下痢便が彼女の肌を汚していた。下着も直接下痢便が溜まっている部分だけでなく、そこから染み出した茶色い色素でほぼ全面が汚物の色に変わっていた。

 タオルで肌に残る汚物の感触を感じながら汚れを拭っていく。漏らし始めはまだ泥状で粘性が強かったため、拭くよりは擦るようにして汚れを落としていく。汚れていない部分はあっという間になくなり、脚に到達する前にお尻の汚れだけでタオルは茶色い布になってしまった。
 ただ、幸い脚に流れ落ちた汚物は液状で流動性が高く、こびりつく力が弱くなっていた。ティッシュを2,3枚重ね、上からすべらせるように拭くと見た目の上では汚れを落とすことができた。もっとも、気持ち悪い感覚はまだ残っており、皮膚の上には汚れが残っているのだろう。足袋も脱ぎ捨てる。最悪の場合これは汚れてもいいと思っていた。
 仕上げにウェットティッシュを取り、汚れを拭う。下腹部の、本来清潔に保たねばいけない部分を念入りに綺麗にする。お尻の上まで広がった汚れも。そして、我慢するのに何の役にも立たなかったお尻の穴も。言うことを聞いてくれないくせに、ウェットティッシュが触れた冷たい感覚だけは脳に伝えてくれる。これを拭き終えて、脚を拭いたらすぐ……。
 
「……!!」
  グギュゥゴロロロロギュルギュルルルルルッ!!
  グギュルルルルルルルルルギュルギュルグピィーーーーーッ!! ゴロゴロギュルルルグギュルーーーッ!
 後始末に集中していた純子を、再び腹痛が貫いた。お腹の奥が冷たくなり肛門が熱くなる。
(だめ!! 出る……!!)
  ビュルルルブピッビチィィィィィッ! ブジュルルルルルルルビチビチビチーッ!!
  ビチチビィーーーッ! ブバッビブビビビビビチチチチビュルルルルルルルルルルッ!!
  ブジュブビィィィィィィィィィッ! ビチビチブバババババブジューーーーーーーーーッ!! ビュルルルビチチチビチャァァァァァッ!
「あ……ぁ…………」
 出る、と思った瞬間には漏らしてしまっていた。肛門を拭いていたウェットティッシュを避ける余裕さえなく、気化熱の冷たさを感じていた指先が体温と同じ温かい液体に包まれた。手を離して倒れるようにしゃがみ込む途中にも液状便は出続け、背にしていた資材置き場のパイプに汚物をぶちまけてしまう。
 
「うぅっ…………!!」
  ビュルルルルルブバーーッブビブブビビビビィッ!! ブジューーーーッジュビビビビビビブジュッ!
  ブピピピピビチビチビチーーーーッ!! ブジュブピブバブビィーーーーーーーーーッ! ブジュブジュブジュッ!!
  ビチャブビブビビビビビビビブバッブジューーーーーッ!! ビチィィィィィブバブジューーーーーーーーーーッブジュルーーーーッ!!
  ブジュブビビビビビビビビビブーーーーッ!! ビュルルルルブバッブジュルビチビチビチッ!! ブジュブジュグジュッ!! ブビィィィィィィブピブピブピィィィ……!! 
 肛門が全力で液状便を吐き出す轟音と、その中身を出し切った後の情けない気体混じりの音が物陰に響き渡る。
 漏らしきった後にまた訪れた便意は、数十秒の噴射で終わりを告げた。

(ど、どうしよう…………こんなに……お腹を壊してしまうなんて…………)
 一度では終わらない噴射。純子も過去に経験したことのあるひどい下痢の症状だった。この様子だといつまた強烈な便意が襲ってくるかわからない。そして、純子にとってはそれはお漏らしと同義であった。
(こんなことにならないように、ちゃんと下痢止めを飲んでおいたのに、どうして…………でも、この間の大会の時も……)
 夏休み前のバレー部の大会の日、もちろん忘れずに下痢止めを飲んだにも関わらず、試合中に急な下痢に襲われ、コートの中で漏らし始めてしまった。ひかりが交代してくれたため周りの人には気づかれずに済んだが、ひどい下痢をしているひかりを身代わりにするような形になってしまい、結局ひかりにもお漏らしをさせてしまったのは純子の苦い記憶だった。
(もしかして、下痢止めが効きにくくなっているの……? ……そんな……もし、昔みたいに…………毎日……下痢してしまうようになったら…………)
 下痢でさえなければ――固形と言わないまでもいくらか形のある便であれば、手で押さえるなどして数分間くらいは耐えることができる。しかし、純子はもともと胃腸が繊細で、小学生の頃は一日数回泥状の下痢便をするような体質であった。その頃はまともに我慢できる体で、精神力も非常に強かったため下痢をしても漏らすようなことはなかった。
 だが、今の我慢できない体で下痢をしたら確実に漏らしてしまう。それは今日やこの間の事実で証明されている。……純子はそうならないように予め下痢止めを飲んでおくことで、下痢にならないよう必死に気をつけているのだった。このことは、秘密を共有したひかりや潤奈にも言うことができていなかった。二人とも下痢止めを飲んでも全然効かずに下痢してしまうと悲しんでいて、自分だけが下痢止めで楽をしているようで申し訳なく思ってしまったからだった。
 便意をほとんど我慢できず頻繁に漏らしてしまうこと。そして、下痢しやすい体質を無理やり薬で抑えていること。それが純子の秘密だった。
(と、とにかくもう一度お薬を飲んでおかないと…………着替えた後で、またやってしまったら…………)
 純子は同じ巾着に入れてあった錠剤を4つ取り出して飲み込んだ。少しでも早く効いてくれることを祈りながら。
 

 彼女はまた汚れてしまったお尻をティッシュで拭いた。地面から跳ね返ってきた飛沫がお尻に何箇所か飛んではいるが、拭くのがお尻だけでいいというのはありがたいことだった。中断した後始末を再開し、足の液状便の流れの痕跡をウェットティッシュで拭い、足の指の間や爪の隙間に染み込んだ便液を拭い取っていく。10枚ではきかない量のウェットティッシュを使い、純子は素早く後始末を終えた。漏らす前に履いていたのと同じ替えのショーツを取り出して身につける。汚してしまった資材のパイプは足袋の白い部分で拭いた。最後に、汚れ物一式――下痢便でぐちゃぐちゃになったショーツ、降り注ぐ液状便が染み込んだ足袋、汚物を拭いてその汚れを一身に集めたタオル。こんなところに捨てられてはいけないウェットティッシュ。それを、大きい密封可能なジッパーバッグに押し込み、空気を抜いて封をする。
「うっ…………く…………」
 その空気を押し出した瞬間、鼻が曲がるどころか意識が吹き飛びそうになる悪臭が純子の顔に吹き付けられた。
 でもこれは、純子の体の中にあったものなのだ。本当は壁と扉で仕切られたトイレの中で、誰にも見られずに便器の中に出して、すぐに流さなければいけないものを、純子は夜空の下で下着の中に出し放ってしまった。美しく可憐な美少女が出したものとは思えない汚物の強烈なにおいが、夏の夜のぬるい大気に広がり、そして周囲へと拡散していった。 
「………………これで…………」
 純子は気を取り直して帯に挟んでいた浴衣を下ろし、裾と身ごろを整える。汗をかいてやや憔悴した印象はあるものの、数十分前と変わらぬ美しい姿が花火に照らされていた。
 しかし、まさか浴衣の内側の当て布に茶色い染みが残っており、手に持った巾着の膨らみの中に黒いビニール袋をかぶせたジッパーバッグに包まれた汚物そのものの下着やタオルが収められているとは、誰も思わないだろう。一度漏らし終わってから、また下痢便を出した時間も含めておよそ5分。熟練しきった後始末の技術であった。彼女が悲しげな表情で見下ろす地面には、下着から降り注いだ液状便が叩きつけられて飛沫を散らした直径30cmほどの池があり、さらに少し離れたところにはしゃがみながら出した液状便が波打つ線を描き、さらに直径20cmほどの池ができあがっている。
 
「…………」
 純子は悲しげな表情で小さく頷き、彼女の危機を覆い隠してくれた物陰を後にした。彼女はまた、社会的生命を賭けた負け戦をかろうじて生き延びることができたのだった。
(これ…………早くごみ箱に捨てないと…………)
 純子は再び通路に出ると、左右を見回してごみ箱を探す。桟敷席の周りにはたくさんあったはずだが、なかなか見つからない。ここまで来る途中でどこにあるか見ておけばよかったが、漏らしながらの道中にそんな余裕はまったくなかった。

 そうして、髪を揺らしながら左右を見てごみ箱を探していた時だった。
 彼女が心の奥で想う少年、今日、花火を一緒に見たいと思いながら、その勇気が出せず声をかけられなかった早坂隆に出会ったのは。


「……そういえば、白宮さんはなんでこんなところに?」
「……!! えっ、あ…………あ、あのっ、私は……その……」
 純子がここにいた理由。それは、お腹を壊して、便意をもよおして、我慢できずに漏らしてしまい、トイレに間に合わないと判断して物陰に駆け込んで、大量に漏らしてその後始末をして戻る途中で、汚してしまった着衣やタオルを捨てるためのごみ箱を探すためだった。
(だめ……! 本当のことなんて、言えない……! どうしたら……何て言えばいいの……!?)
 純子は真っ赤になりながら言い訳を考えた。
「あっ、あのっ…………ええと…………その、両親と一緒にお客様の話し相手とかしていたんだけど…………その、ちょっと気疲れしてしまって、すこし、静かな所で気分転換でもと思って…………その…………」
 純子は必死に考えた言い訳を説明するしかなかった。汚れ物が入った巾着包みは、体の後ろに隠している。
(…………ど、どうしよう、もし、においとか、気づかれちゃったら…………)
 体の汚れはしっかり拭いたし、汚れ物はしっかり密封してあるからそこからにおいが漏れることはないはず。しかし、長い間排泄の苦しみに悩まされた純子は、体に汚物のにおいが染み付いているように思ってしまっていた。
「そうか…………やっぱり白宮さん、大変なんだな……」
「あ、あの、それより……ひかりちゃんとはぐれちゃったんでしょう? 心配だから、私も探すわ」
 真実に気づくそぶりのない隆の様子を見てほっとしながら、純子は話をそらすように先程聞いたひかりの話題を振った。
「えっ……で、でもいいのか? 親御さんが心配するんじゃ……それに……」
「私なら大丈夫よ。お母様も少し外に出てくるといいと言っていたし……そ、その、迷惑だったかしら……?」
「い、いやそんなことないって!…………じゃ、じゃあ頼むよ」
「う、うん……それじゃ、どこから探したらいいかしら?」
 純子はそう言って隆に少し近づこうとして、やはり足を止めた。体と荷物のにおいがどうしても気になってしまったのだ。
(どうしよう…………せめて、この袋だけでも捨ててしまわないと…………)
「あ、ああ……トイレに行くって言ってたから、あそこのトイレ辺りかなと思ったけど、いなくてさ……」
「そうなの……じゃあ、もう一度そこを見てみたほうがいいかもしれないわ。時間がかかっているだけかもしれないし」
「ああ、そうしよう。あっ、でもその前に…………」
「どうしたの、早坂くん……?」
「いや、もしかしたら行列待ちきれなくて、この辺りでとか……念のため見てくるよ」
 そう言って、隆は純子がさっきまでいた物陰の方に踏み出していた。
「あ、あっ……だめ!! そっちには行かないでっ!!」
「っ!! ど、どうしたんだ?」
 普段のおしとやかな純子からは想像できない剣幕で叫ぶように引き止められた隆は思わず目を見開いた。
 
「あ…………ご、ごめんなさい…………。そ、その、ひかりちゃんじゃないと思うけど、さっきその……女の子がこっちに行くの見えたから、その、今誰かいたら…………ええと、見に行くなら私の方がいいかもと思って。早坂くんはここで待っててもらえるかしら」
「あ、ああ…………そういうことか。わかった。じゃあごめん、頼むよ」
 もし女の子がトイレを我慢できずこの物陰に駆け込んでいたのだとしたら、隆が踏み込んだらパニックになるだろう、というロジックで純子は隆があの物陰に行くのを阻止した。
 そこには純子が漏らして地面にこぼした下痢便が広がってまだ猛烈なにおいを放っている。それを隆に見られるわけにはいかなかった。

「…………」
 純子は先程まで用を足していた物陰に戻り、左手に持った巾着を気にしながら佇んでいた。
(……やっぱり………早坂くんと一緒に歩くのに、こんなものを持ち歩くわけにはいかないわ……)
 純子は巾着の中身を取り出した。黒い袋に入った、もう体温が失われた下着とタオルとそれらを覆い尽くす下痢便。密封されてにおいは漏れていないものの、その中身は想像することすら汚らしいものだった。純子はそれを資材のそばで花火の光も届かない場所に隠した。
(こんなところに置いていってしまってごめんなさい……必ず後で片付けますから…………)
 純子は心の中で詫びながら小走りにその場を後にした。


「ごめんなさい、遅くなって…………。誰もいなかったわ」
「そうか……ありがとう、わざわざ見てきてくれて」
 少しして戻ってきた純子を出迎えた隆は済まなそうな声で答えた。
「その、気にしないで。ひかりちゃんのためだもの」
「ああ……ありがとう。……白宮さん、部活でひかりのこと気にかけてくれてたんだよな。白宮さんはひかりにとって、憧れの先輩なんだよ」
「そ、そうかしら……?」
「いや、本当に……その、ひかりはさ、中学に入ってからすごく明るくなったんだ」
「そうなの……?」
 意外そうな表情を見せる純子に、隆は最近ひかりに感じる変化のことを話した。
「ああ。小学生の頃は毎日びくびくしながら学校に行ってた感じだったけど、今は……同級生の友達ができたのもあるけど、白宮さんに憧れて少しでも近づきたいって目標ができて、毎日頑張ってる感じがするんだ」
「そう…………よかった、ひかりちゃんの役に立てて嬉しいわ。……でも、ひかりちゃんはきっと、すごく心が強い子なのよ」
「強い……? ひかりが?」
 隆から見るといつも守ってあげる対象だと思っていたひかりに「強い」という言葉は意外に思えた。
「早坂くんはいつも近くにいたから、気づいてないかもしれないけど……ひかりちゃんは、毎日あんな大変な思いをしてもくじけないで、それで、他の子を助けてあげたりもしてたのよ。私も試合の時にその、助けてもらったし」
 バレー部の試合の時に、ひかりがお腹の調子が悪いにも関わらず、下痢を漏らしてしまった純子を助けて、戻って来るまで試合を戦い抜いてくれたこともある。……もちろんその詳細を言うわけにはいかなかったが。
「そうか…………そうだな。俺もずっと励ましてもらってた」
「だから、きっと私がいなくても、ひかりちゃんは毎日頑張ってたと思うわ」
「確かにそうかもな。でも、憧れの先輩にそう思ってもらえると知ったらもっと喜ぶよ、ひかりは」
「ありがとう…………じゃあ、早くひかりちゃんを見つけなくちゃね」

 当初目指していたトイレにはすぐ着いてしまい、出入りの様子を純子が見ていたが、結局ひかりの姿は見えなかった。
 その間、隆と純子は二人並んで花火の方向を見ていることになる。
(これじゃまるで、白宮さんと一緒に花火を見に来たみたいだ…………)
(…………こ、これって…………早坂くんと一緒に…………)
「あのさ」
「あのっ……」
「…………」
「…………」
 二人が同時に言葉を出して、二人とも次の言葉が継げなくなってしまった。花火の音だけが二人の間に響く。気を取り直して隆が声をかけた。
「ひかりのこと一緒に探してくれてありがたいけど……いいのか? ……俺と一緒にいたら、その……変な風に思われたりしたら迷惑じゃ……」
「えっ…………ううん、そんな、迷惑なんてことないわ」
「それに白宮さん、俺なんかと歩いてたら釣り合わないんじゃ……その、浴衣…………す、すごくきれいだし…………」
「え…………ぁ…………」
 隆は、今日純子を見た瞬間に時間が止まるほど美しいと思ったことを口にした。もっとも、純子本人がきれいだとは言えず浴衣を褒めるだけになってしまったのが自分でも情けないと思ったが。
 純子はその言葉を聞いて、もともと赤かった頬を夜空の下でもわかるほど紅潮させた。
(…………は、早坂くんが、きれいだって言ってくれた…………本当に……!?)

「……あっ、ご、ごめん、白宮さん、俺、変なこと言って……」
「あの……早坂くん、ありがとう……」
「…………」
「……あの…………ほ、本当は私…………早坂くんと、一緒に花火見られたらいいなって……思ってたの」
 純子も、隆に言えずにいたことを口にした。
「え…………!?」
「ごめんなさい、何度か、電話しようって思ってたんだけど…………だから、迷惑なんかじゃなくて……その……よかった、って……」
「……そう……だったのか…………ごめん、俺も何度か……いや、何度も電話しようって思ったんだ。けど、親御さんが出たらどうしようとか考えちゃって…………」
「そんな、気にしないでいいのに……」
「…………」
 隆は横に並ぶ純子の顔を見た。隆よりも一回り背が低い純子は、隆の顔を少し見上げる角度になる。花火の色とりどりの光に照らされるなか、艷やかな黒髪をかすかな風に揺らして頬を染めた純子の顔は、夜空のきらめきよりもきれいだと思った。
「あ、あのごめんなさい、その、ゆっくり話し込んじゃって……!! ひかりちゃん、やっぱりいないみたいね……一度戻ってみたほうがいいんじゃないかしら」
「……あ、ああ……ごめん、俺も夢中になってて……そうだな、一度戻ってみよう」
 隆はすこしぎこちない動作でトイレに背を向けて歩き出した。一瞬遅れて純子も歩き出し、その横に並ぶ。

 ひかりを心配に思う気持ちと、もう少しだけ二人でいたいという気持ちの間で揺らぎながら歩いた、数分の時間。
 歩く途中で言葉は交わせなかった。心拍が高まるその沈黙は心地よいものではなかったかもしれないが、この時間を一緒に過ごせることを二人は嬉しく思っていた。
 そして――。
 


Scene 8. 明日、進むべき道

「……早坂くん、いたわ!」
「よかった、すれ違っただけだったんだな…………あれ?」
 もともといた場所を教えるより早く、純子がひかりの姿を見つけた。隆もその姿を見てほっと息をつく。が、その横にいる少年の姿を見て驚きを覚えた。
「お兄ちゃん……白宮せんぱいも……!!」
「……よかったね、無事に会えて。……久しぶりだね、隆君」
「……え、なんで雄一がひかりと一緒にいるんだ!?」
 隆は、その少年の姿――夏休み前に、野球部の大会、決勝戦で投げあった相手、穂村雄一の姿を見て驚いた。彼は、小学校時代の少年野球のチームメイトであり、その中でも特に仲がよい親友であったのだ。
 その雄一にこの場で会ったことも驚きだったが、彼がひかりと一緒にいたということはさらなる驚きだった。
「ひかりちゃん……穂村くんと一緒だったの?」
「えっ…………白宮さん、雄一のこと知ってるのか?」
「ええ。その、生徒会の仕事で何度か打ち合わせをして……高峰中にもお邪魔したことがあるから」
 さらに、純子も雄一の事を知っていることも驚きであった。ひかりと一緒にいたことを驚いてはいるが不安視してはいないあたり、彼の優しげな人となりを知っているようだった。雄一は純子とほぼ同じ程度の身長で、男子としては小柄であることもそ優しげに見える理由かもしれない。
「白宮さん、お久しぶりです。今日は隆君と一緒だったんだね」
「え……え、あ、あのっ、こ、これはその……」
「い、いや、これはだな……その、ひかりを探しに行ったら偶然会って……だ、だからその、最初から一緒にいたわけじゃ……それよりなんで雄一がひかりと一緒にいるんだ?」
「僕達も同じだよ。ひかりちゃんがきみを探してたから、一緒に探してあげようと思って」
「…………」
 雄一の説明にひかりもうなずいて同意する。偶然にも似たような経緯で隆と純子、ひかりと雄一はこの会場で出会っていたのだった。
「そうだったのか。じゃあ俺達がすれ違いになったせいか……悪い、世話になったな。でもさ……ひかりのこと、前から知ってたのか?」
「あ、あのね、お兄ちゃん……穂村さんには、この間野球の応援に行った時に、ちょっとだけ会ったことがあって……」
「準決勝……隆君が完全試合をやった時だよ。ぼくはスタンドで見てて……その時、ひかりちゃんと会ったんだ。その時は名前も知らなくて、一言二言話しただけだったけどね」
「そうなの? 私も見に行っていたけど……そんなことがあったのね」
「なんだ、見てたんなら声かけてくれればよかったのに」
「ごめんごめん、秘密の偵察任務だったからね」
「あの……実はその時、私急いでて曲がり角でぶつかっちゃって……そ、それで今日も……その、わたし不注意でまたぶつかりそうになってしまって……」
「ううん、ぼくの方こそよく見てなかったから……それで、あの時の、って気づいたんだけど……隆君の妹だって知ったのは今日初めてなんだ」
「それで、穂村さんがお兄ちゃんの友達だってわかって、その、いろいろお話してて……」
 赤くなりながら説明するひかりを、純子は微笑ましく見守った。
「あら、そんなことがあったのね……ふふ、なんだか、運命の出会いっていう感じみたい」
「え、えっ…………!?」
「……白宮さん、そんなこと言ったらひかりちゃん困っちゃうよ。でも、ひかりちゃんといろいろ話ができてよかった。隆君のことや、お母さんの話も聞くことができたから」
「母さんの…………そうか」
 隆は小さくうなずいた。ひかりが雄一といろいろ話していたというのは普段の様子からはなかなか想像しにくかったが、母が何度か野球の練習や、一度だけではあるが試合を見に来てくれた時の話をしていたというのはよく理解できた。
「お兄ちゃん、あの……勝手に色々話しちゃってごめんなさい。でも、聞いてもらえてすごく嬉しくて……」
「ああ、ひかりが気にすることないって。雄一になら何を話しても大丈夫だ。本当は俺が話しておかなきゃいけなかったくらいだから」
「……早坂くんと穂村くん、すごく仲が良いのね。お互いのことを信頼してる、と言えばいいのかしら」
「そうだな……まあ、長いこと同じチームでやってたし、俺は後から入ったけど、雄一には一番仲良くしてもらったから」
「でも、中学は別々だったからね。最近の話を色々聞けて楽しかったよ。そういえば、隆君と白宮さんはどんな話をしてたの?」
「……!!」
「…………ぁ……!!」
 二人の顔が目に見えて赤くなった。恋人未満ではあるが、友達以上の等号が消えたような会話を思い出して、どう説明しようかと悩みつつも結局何も言えずにいた。
「……そ、そうだ、ひかりが心配だなって、な、白宮さん」
「え、ええ……そうだったわ」
「ふふっ、じゃあそういうことにしておこうか。……これだとぼく、完全にお邪魔虫みたいだね。そろそろお暇しようかな」
「えっ、あ、そ、そんなことないですっ……あの…………その…………」
「そ、そうよ…………ねえ、せっかくだから穂村くんも一緒に見ていったらどうかしら。……早坂くんと、いろいろ話したいこともあるでしょう? それに、ひかりちゃんとももう少しお話したらいいんじゃない?」
「え、え、えっ………」
「ああ、いいよ。雄一ならいつでも大歓迎だ」

 こうして、4人は隆とひかりが用意したレジャーシートの上に座り、そろそろクライマックスになろうかという花火を一緒に眺めることになった。純子は両親が心配しないようにと一度桟敷席に戻り最後まで向こうで見てくると伝えてすぐに戻ってきた。小走りに戻って来る途中が、彼女が今日一番嬉しそうな顔をしていたかもしれない。
 ひかりと純子が中央に座り、純子の横に隆が、ひかりの横に雄一が座る。もともと2人用だった場所は狭く、体が触れ合いそうなほどに距離が近かった。

「白宮さんごめん、こんな狭い所で……一応シートはきれいなつもりだけど、浴衣汚さないようにしないと……」
「っ……! …………い、いえ、気にしないで。桟敷席よりこちらの方が落ち着くから」
 汚れる、という言葉に反応してしまった純子はびくっと体を震わせた。
「そ、それに私よりも……ひかりちゃん、浴衣とってもよく似合ってるわ。きれいな桜色で……まるで、ひかりちゃんのために作られたみたい」
「あ…………ありがとう……ございます……」
「……よかったね、ひかりちゃん」
「ひかり……もしかして、その浴衣の話も?」
「うん……」
「えっ……この浴衣、何か、特別なものなの……?」

 ひかりの浴衣を褒めた純子は、その浴衣の来歴を聞いて目を潤ませた。

「………………そうだったの。早坂くんとひかりちゃんの、お母様の……」
「……ごめん、しんみりする話になっちゃって」
「でも、きっとお母様も喜んでいると思うわ。この浴衣を着られるくらい大きくなって。私も……来年また見たいわ」
「は、はい……! じゃあ、ぜひ来年も一緒に…………あっ、でもそうしたらわたし……お邪魔かも……」
「え、そ、そんなことないわ、ひかりちゃん……!」
「でも、お兄ちゃんと……」
「い、いや、またみんなで来ればいいじゃないか、うん」
「…………」
 隆と純子が見合わせた表情を見てくすっと笑うひかり。
 静かな雰囲気が解け、和やかな空気が4人の間に訪れた。

「そういえば雄一、全国大会惜しかったな、あと一歩だったのに」
「ううん、あれが精一杯だったよ。準決勝まで行けたのが不思議なくらいだから」
「えっ……全国大会……!?」
「準決勝って……すごいじゃない」
 桜ヶ丘中を地区大会決勝で破った高峰中はそのままの勢いで県大会を制し、全国大会に出場したのだった。雄一はそのチームのエースとして投げぬき、ベスト4に入る活躍を見せていた。
「……でも、勝ってももう決勝を戦う力は残ってなかったかな。ぼく、完全にスタミナが切れて打ち込まれてたし。昇君が一生懸命打ってくれたんだけど……」
「昇君?」
「あ、ごめん。うちの4番の渡井昇君のことだよ。小学校時代は隆君とも同じチームだったんだ」
「あいつとはいつもケンカばかりしてたけどな」

「穂村くん、全国大会で活躍したのだから、またファンレターが増えるんじゃないかしら?」
「え……うん、応援してくれるのは嬉しいけど……でも、ぼくがそんなのもらっていいのかなって」
「ファンレターって……雄一、そんなのもらってるのか?」
「高峰の穂村くんって格好いい男の子がいるって、桜ヶ丘中の女子の間でも有名なのよ。美典ちゃんも香月さんもたしか知ってたと思うけど」
「へぇ……美典は小学校の頃から知ってるからわかるけど……香月も知ってるってことは本当に有名なんだな」
 隆の頭に、どういう意味よ、と怒る叶絵の姿が思い浮かんだ。
(ファンレター……そうだよね、野球部のエースで全国大会に出て、優しくて、格好良くて…………)
 ひかりは、さっきまで一緒に話していた雄一が雲の上の存在のような気がして、少し気後れしてしまっていた。
「あの、ファンレターって……全部読んでるんですか?」
「えっ、あ、うん。知らない人だけど、心を込めて書いてくれたものだしね。大会前は忙しくてできないけど、ちゃんと返事も書くよ」
「相変わらずまめなんだな」
「そんなことないって、普通だよ」
(お手紙……お返事もらえたら嬉しいよね、きっと…………)


 話題が途切れ、ちょうど花火の音も止んだ時、4人の間に沈黙が訪れた。

「……ねえ、隆君」
 その沈黙を破ったのは、雄一だった。
「なんだ?」
「……大切な話があるんだ」

「……!」
「…………」
「大切な、話…………?」
 大切な話という言葉と、真剣そうな表情に、皆の視線が集中する。

「高峰高校に、特待生として来てくれないかな?」

「……な……」
「…………」
「……俺を……高峰に……?」
「うん」
「え……」
「あっ…………」
 意を決しての言葉だということがはっきりとわかる、真剣な眼差し。それを見て、ひかりと純子も息が止まるような驚きを感じた。
 雄一の話とは、隆に高校から同じ学校に来てほしいと勧誘することだった。

「全国大会で負けて、はっきりわかったんだ……僕達の力だけじゃ、一番にはなれない。でも隆君と一緒なら、全国制覇だって目指せると思うんだ」
「……待てよ。……そんなの、できるわけないだろ。俺、前に高峰中に特待生で行く約束を破ったんだぜ。監督、今でも怒ってるだろ」
 隆は、そんなことができるわけがないと断ろうとした。もともと、隆も雄一たちと一緒に高峰中に入るはずだったのだ。その直前、病に倒れた母からひかりの事を託され、隆はひかりと一緒に暮らし、ひかりと向き合うために高峰中への入学を辞退したのだった。
「ううん、家庭の事情だから仕方ないって、わかってくれてるよ。この話は、監督から隆くんに伝えてと言われてきたんだ」
「…………」
「それにね…………ぼくの夢なんだ。もう一度、隆君と同じチームで野球をやりたいって」
「俺と……?」
「うん。少年野球で初めて隆君が投げた試合、今でも覚えてるよ。あの試合に勝った時、ぼくは一番嬉しかったんだ。自分が投げた時よりずっと」
 雄一の声が一層の緊張を帯びる。監督の意向よりも重要なことだと、その声が語っていた。
「…………」
「ぼくは、また隆君と一緒に野球をしたい。……お願いだよ、隆君。うちに来てほしい。僕達と一緒に、甲子園に行こう」
「………………」

「……お兄ちゃん…………」
(…………その方がいいのかな。穂村さん、とてもいい人だし。お兄ちゃんも強いチームに入った方がいいし…………でも、わたしは…………)
「早坂くん…………」
(…………早坂くんが、高峰高校に…………穂村くんと力を合わせたら、きっと甲子園にも行けるはず。……でも、そうしたら、もう毎日会えなくなる…………応援、したいけど…………でも…………)
 ひかりと純子が、それぞれの思いを巡らせ、隆の言葉を待つ。

 花火が十数回輝いて消えた後、隆はふっと息をついて口を開いた。

「悪いな、雄一。……甲子園に行くのは、先約があるんだ」
「…………えっ」
「俺、今まで野球ばっかりで好き勝手やってて、ひかりに大変な思いばっかりさせてたからさ。こないだの大会の後に言ったんだよ。正直、野球も中学まででやめるつもりでいたから、欲しいものや行きたい場所があったら何でも言ってくれって。そしたら…………甲子園に連れてってほしい、ってさ」
 隆は夏休み前、大会で負けた翌日、ひかりに今まで野球ばっかりやらせてくれてありがとうと言った。そして、これからはひかりのために何でもしてやりたいと。その言葉に驚いたひかりは、少し困った顔をした後に、小さく微笑んで言ったのだった。甲子園に連れてってほしい。つまり、兄が大好きな野球をやめないでほしいと。
「……お、お兄ちゃんあのっ、それは野球やめないでってことで……わたしのことは別に……せっかくのお誘いなんだから、強いチームの高峰に入った方が……」
「高峰に入って甲子園に行っても、何ていうか俺が連れてってもらうみたいで格好悪いだろ」
「で、でも…………」
「それに、俺が高峰に行ったら、ひかりは…………」
「……そうね、高峰は寮生活だから……ひかりちゃんが一人になっちゃうわね」
 純子も少し考えてうなずいた。生活どうこうではなく、ひかりが寂しがるだろうと。
「え、えっ……そ、そんなこと……わ、わたしなら大丈夫だからっ……」

「というわけで、誘いはありがたいけど、俺は高峰には行かないよ。このまま桜ヶ丘高校に行って、そこで甲子園を目指すつもりだ」
「……お兄ちゃん……」
「早坂くん…………」
 ひかりと純子は、喜んでいいかわからないと思ったが、しかし心の中の押さえきれない喜びが声色に出ていた。
 そして、雄一もふっと肩を落として微笑んだ。
「…………そっか。うん……ひかりちゃん相手じゃ、勝ち目はなさそうだね」
「……………え、えっ……」
「ごめん隆君、ひかりちゃん、困らせるようなこと言っちゃって。……ぼくね、今日まで隆君に妹がいるって知らなかったんだ。ひかりちゃんのことがこんなに大切なんだって知ってたら、監督に勧誘してこいって言われた時点で断ってたよ」
「…………いや、謝らないでくれ。俺の方こそ悪かったな。ひかりのこと、前は全然話してなかったから」
「別に、隆君は悪くないよ。こんな可愛い妹さんがいたら、ぼくだって一番に考えるもの」
「そうね。私でも同じように考えるわ」
「あ、あの……あぅぅ…………そ、そう言えば白宮せんぱいも、桜ヶ丘高に行くんですか?」
「……」
「……ええ、そうよ」
「あ……」
 純子の答えを聞いて隆はほっとしたようなどきどきするような思いを感じた。高校でも同じ学校に通うことができたらと思ってはいたが、純子もそう思ってくれているかどうかはわからなかったのだ。
「その……家から通える方がいいと思うし……父も母も桜ヶ丘高の出身だから、同じところにって期待もあるみたい。進学実績もしっかりしてるしね」
「そうなんですね。……‥‥わたしも、桜ヶ丘高に行きたいです……」
 ひかりも嬉しそうに答えた。そしてそれを、少し寂しそうな表情の雄一が見守っていた。
「いいな、みんな同じ学校で」
「……あ、あのっ、その、穂村さんが、桜ヶ丘高校に来るわけにはいかないんですか……?」
「えっ……ああ…………それはいい考えだね。……でも、さすがに無理かな。チームのみんなに迷惑もかかるし……それに、特待生を途中でやめると、それまでの学費とかを返さないといけないんだ。ぼくの勝手で、そこまではできないよ」
「あ…………そ、そうだったんですね…………ご、ごめんなさい……」
「いや、いいんだ。……できたら本当にそうしたいくらいだから」
 慌てて頭を下げたひかりに、雄一は微笑んで、少し遠い目をして言葉を返した。
「よし。それじゃあ雄一……来年、県大会の決勝で会おう。今度こそ俺達が勝つからな」
「うん。……手加減はしないからね」
「おう、望むところだ!」
 手を伸ばして握手する隆と雄一。その姿を、二人の少女が微笑みながら見守っていた。


「あの…………お兄ちゃん、写真、撮ろうよ……みんなで」
 話が落ち着き、ひかりは少し前から考えていたことを口にした。
「えっ……あ、それはいいな……し、白宮さん、どう……かな?」
「あ…………ええ、もちろんいいわ。穂村くんもいいわよね?」
「うん。じゃあ僕が撮ろうか」
「あら、写真? みんなで写りたいでしょ、私が撮ってあげるわ」
 すぐ近くに座っていた若い女性が立ち上がって手を差し出す。
「あ…………じゃ、じゃあ、お願いします」
「すみません、わざわざ……」
「いいのいいの、気にしないで。はい、笑って笑って……」
 少し緊張した面持ちの隆、胸に手を当てて微笑む純子、頬を赤くしてはにかむひかり、温かい眼差しで見守る雄一。
 4人で過ごした時間はそれほど長くなかったが、もっと長く続いてほしいと思う、とても大切な時間になっていた。
 その時間の一瞬の輝きを、カメラのレンズが一点に集め、フィルムに焼き付けた。



Scene 9. 光の滝

『お楽しみいただきましたけやき野花火大会も、フィナーレの時間となりました。フィナーレは、ナイアガラとスターマインの共演です。提供はさくら織物工業、花火師は矢澤煙火です。それでは、お楽しみください』

 花火大会の終了まで10分を残すのみとなり、最後の花火が点火された。
 打ち上げ場の河岸に並ぶ高さ6mほどの柱。その間に渡された導火線の上を、遠く離れた上流と下流の両端から炎が走る。その炎が駆け抜けた線の上から、火花が流れ落ちるように地面に降り注いでいく。流れ落ちる輝きは、両端から幕を引くように導火線の間に伸びていき、ついに二つの火花が中央で合流し、見渡す限りが黄白色の輝く流れで満たされた。
 けやき野花火大会の最後を飾る、大ナイアガラ花火。
 それは、幅400mにもおよぶ雄大な光の滝であった。
 その光の滝を背景に、夜空に次々と大玉の花火が打ち上がる。白い光、青い光、緑の光……様々な色と大きさの輝きが、輪になって夜空を彩っていく。
 年に一度の、街を挙げてのお祭りのフィナーレに相応しい盛大な打ち上げ花火が、夜の月ヶ瀬川と、そこに集う人々を明るく照らし続けていた。

「やっぱり、きれいだな…………。白宮さん、今日は一緒に見てくれてありがとう。俺は……………………あれ?」
「どうしたの隆君? あれ……? 白宮さんとひかりちゃんは?」
 ナイアガラの点火に見入っていた隆と雄一は、横を見て初めてひかりと純子の姿が見えないことに気づいた。
「いない……二人とも……?」
「どうしたのかな。何も言わないでいなくなっちゃうなんて。……また、探しに行こうか?」
「ああ。……待てよ…………今は行かないほうがいいかもしれない。もうちょっと待って、戻ってこなかったらにしよう」
「えっ、いいけど……ちょっと心配かな……どうしたんだろう」
「……まあ、女の子同士の話もあるんだろうさ」
 そう言って隆は立ち上がろうとする雄一を制止し、未だ輝きの衰えないナイアガラを見渡した。
(白宮さん、ひかりについてってあげたんだろうな……)


「はぁっ……はぁっ…………」
「ひかりちゃん大丈夫? ほら、ここなら周りからは見えないから……」
「は、はいっ…………ありがとう……ございます……っ……!!」
  ゴロゴロロロロロロロロロギュルルルルルルルッ!!
  ゴロピィーーーーギュロロロロロロッ!! ギュルルギュリゴロロギュルルーーーーッ!
  グギュゥゥゥゥゥゥピーーーーグルルルルルルルルルルギュルギュルギュルッ!! ギュルルルグルルグギュルーーッ!!
 ひかりは桜色の浴衣のお腹とお尻を押さえて真っ青な顔で物陰に駆け込んでいた。
 隆が予想した通り、またお腹を下してしまったひかりは純子に窮状を訴え、ここに連れてきてもらったのだ。仮設トイレの列はさらに長くなっており、純子とひかりはその列には目もくれずにまっすぐにこの場所――野外で排泄しても見つからない場所を目指したのだった。

「人が来ないように私が見張ってるから安心して。……あっ、ごめんなさい、その辺りは通らないで!!……その、汚れてるから……」
「えっ……あっ……………は、はい、ごめんなさいっ」
 ひかりは純子の大きな声に驚いて足下を見て、その理由に気づいた。地面に下痢便が残されている。……純子がしてしまったものなのだと、その表情で気づいた。
「ひかりちゃん、ごめんなさい……見つからずに済みそうな場所が、ここしか…………」
「あっ、いいえ、ありがとうございます…………一人で探してたら、間に合わなくなってたかもしれませんから…………うぅっ……」
  ゴロッギュルピーーーーーーーーーギュルルルルルッ!! ゴロロロロゴログルルグウーーーッ!!
  グピーーーゴロロピィィィィィィィィィィィィィグギュルーッ!! グピィィィゴロゴロロロロロッ!!
「あっ、もうだめっ………………ごめんなさいっ……!!」
 ひかりはお腹の痛みに突き飛ばされるように浴衣をめくり上げ、下着を下ろしながらしゃがみ込んだ。鉄パイプやメッシュ板などの資材に背を向けていたが、はっと気づいたように体をひねり、むき出しになった肛門の向く方向から資材を避け、花火に背を向ける格好になった。そしてその瞬間、しゃがみ切る前にひかりの肛門が決壊した。
 
「あ、あっ…………!!」
  ゴロゴロゴログルルルルルルルルグルルルルルッ!! ゴロギュルギュロロロロロロロロロロログルルルルッ!!
  ビュビシャーーーーーーーーッビチビチビチブシャーーーーーッ!!
  ブシャッビシャーーーーーーーーーーーービィィィィィビシャアアアアアアアッ!! ビシャビシャビチィーーッジャアアッ!!
  ビュビュルビィィィィィィィィィィィィィビシャーーーーーーーッ!! ビュルッ! ビチッビシャーーーッ!! ビュルルブビューーッ!!
  ブシャビチャビシャーーーーーーーービュルビュルルルルルルルッジャーーーーーーーーッ!! ビュッブシャァブシャァァァァビュルルルルッ!!
 ひかりは中腰のまま斜め後ろに水下痢を噴射してしまった。体をひねるのが1秒遅かったら資材に直撃した水便が跳ね返って浴衣を汚してしまっていたことだろう。
 
「ひかりちゃん……!! だいじょうぶ……っ…………」
 余裕のないひかりの声と激しい音に、反対を向いて見張りをしていた純子は思わず振り向いてしまった。

「うぅぅっ……………ぐぅっ…………」
  ギュルルルルルゴロロロロログピィーーーーーーーーーーッ!!
  グピィゴロロロロロロロロロロロロロギュルグウーーーーッ!! ゴロゴロロギュルギュルギュルピィーーッ!!
  ビシャジャアアアアッ! ビシャビチィーーーッビチャブシャーーーッ!
  ブシャッビィィィィィィッ!! ビュビュビシャァァァァァァァァァジャーーッ!! ビュルルルルルッ!
  ビシャーッビュルーーーーーッジャァァビシャアアッ!! ブシャッビチャビィーーーーーーーーーーーーーーッ!!
  ビシャブシャァビシャーーーーーーーーッジャアアアッ!! ブシャビシャーーービチビチビチブジューーーーーッ!!

 途切れることなく川の対岸で輝き続けるナイアガラの花火の光と、途切れ途切れに激しい閃光を放つ打ち上げ花火の光。
 その光に明るく照らされ、ひかりの小さな姿が夜の物陰にくっきりと浮かび上がる。
 おかっぱの黒髪を汗で額に張り付かせ、青白い顔で痛むお腹を押さえながら、必死に浴衣がずり落ちないよう片手で支える。膝まで下ろしたパンツは真っ白なままだったが、折りたたんだトイレットペーパーの中心が茶色く染まったものが下着の下の地面に落ちている。
 そして、むき出しになったお尻の穴からは、怒涛のような勢いで水下痢が迸り、地面に叩きつけられている。水便の茶色い池が広がっていく。ゴム製のサンダル――おそらく、こうなって汚してもいいように履いてきたものなのだろう――を飲み込み、下着と浴衣を最後の一線で守っていたトイレットペーパーを飲み込み、さらにまだ広がっていた。土の地面に吸収されるよりも早く広がる茶色の海。
「うぅぅぅぅぅ…………!!」
  ブシャァァブシャーッビィーッ! ジャーーーーーーーーーッブピビシャブビューーッ! ブビビブジュビビビビチッ!!
  ブピッビチィィィィィビシャァァァァァァァビュルルルルルルルーーーッ!! ビュルッビィーーーーッ!! ブシャッジャァァァァァァァビチィィィィィィィッ!!
  ブジャッビチャブビューーーーーーッ!! ビュルーーッビチビチビチビシャーーッ!! ブジュブジュブジュブビューーッ!!
  ジャァァァァァァァビュルルルルルルルーーーッ!! ビシャッジャーーーーーーービュルーーーーーーーーーーーーッブビュッ! ブパッビィィィィィッ!! ビチビチビチビチャビシャジャアァァッ!!
 そして、その上に途切れることなく注がれる茶色の滝。
 ひかりを背中から照らすナイアガラの光が途切れないように、ひかりの腸内から吐き出される水下痢も途切れることを知らなかった。
 
「あ……っ………」
(ごめんなさい………ひかりちゃん、見ちゃって……。…………ひどい下痢……水みたいで……こんなの我慢するの、苦しかったでしょうに…………)
 純子はひかりの恥ずかしい姿を凝視してしまった事を心の中で謝り、再び反対側を向いた。
(もし……私が、こんなにひどい下痢をしてしまったら……絶対に…………)
 こんな水のような下痢が肛門に押し寄せたら純子の力ではひとたまりもないだろう。一瞬で下着からもあふれ出して大変なことになるのは容易に想像できた。
(…………大丈夫、お腹は落ち着いている。お薬はちゃんと効いているわ……。たぶん、慣れないところでちょっと緊張したせいだったんだわ。……大丈夫よ、きっと……)
 純子はなんとか落ち着きを保っているお腹に手を当て、自分に言い聞かせるように大丈夫と心の中で繰り返した。


「んっ……………くふっ……………うぅぅ…………!!」
  ゴロゴログルピィィグギュルーーーーッ!! ゴロロロロピィーーーギュロロロロロロロロッ!!
  グピィィィィゴロロピィーーゴロロロロロロッ! グギュゥゥゥゥゥゥゥゴロロゴロロロロロログルルルルルルルルルッ!!
  ビュルルルッビチィーーッビシャーーーッジャーーーーッ!! ビチィーーッビチャビチャビチャァァッ!!
  ブシャビチャビチャビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーービシャアアアアアアッ!! ブピッブシャーーーーーッビュルーーーッジャーーーーッ!
  ブシャッジャァァァァビュビシャァァァァァビィィィビュルルルッ!! ビュルッビィィビシャーーーーーッジャーーーーーーッ!! ブパッビシャーッブシャァァビュルッ!
  ブピッビシャァァブシャーーーーーッビュルルルルルブシャーーーーーーーーーッ!! ブシャッビュルルルルルルルルルルルルルブビューーーッ!!
 ひかりの後ろ姿と、純子の長い黒髪を、ナイアガラの光が照らし続ける。そして、しゃがみ込んだひかりのお尻の中心から流れ続ける、肛門を押し広げて吐き出される茶色い滝も。
「ぅあぁぁ…………んっ……くぅ…………」
  ジャーーーーーーーーッブジャッビシャビィィィィブビィーーーーッ!!
  ビィーーッジャアアアッビシャァビューーーーブシャーーーーーーーーーーーーッ!!
  ビチビチビチブパッビュビシャーーーーーーッ! ブシャッビシャーーッビチビチビチビチィーーーッ!!
  ビィーーッビュルブビブビィィィッ!! ビュルッビュブシャーーッ!! ブジュブジュブジュゥゥゥッ!!
  ビュルッビィィィィィィィィィィィィビュルビューーーーーーーービシャーーーーーーーーーーッ!! ビチビチビチビチィーーーーーーーーーーーーッ!! ビィーーーーーーーッビチャジャアアアアッブビッブビビビビビブジューーーーーーーーッ!!
  ブジュビィィィィィィブビビブビブジューーーーーーーーッ!!

 ナイアガラの光の滝が燃え尽きていく。
 それに合わせたかのように、ひかりの滝も途切れ途切れになったがまだ腹痛は治まらず、お腹に力を入れる度に水下痢が吐き出される。
「っ……!! うぅぅ…………っ!!」
  ブジュビジュブビビビビビブジュビチッブジューーーーーーーーッ!! ブピッブビビビッブピッブビビビッ……!!
  ブジュルルル…………ビチビチッ…………ブジュブジュブジューーーーーーッ…………!!
 最後の花火が夜空に打ち上がり、大きな光の円環をいくつも描いた瞬間、ひかりは肛門を気体と液体の混合物で激しく振動させながら茶色い飛沫を撒き散らした。


「あ、あのっ…………もう大丈夫です。……ごめんなさい、わたしのせいで……花火……終わっちゃって…………」
 手持ちのティッシュでお尻を拭き終えたひかりは、今度は汚さなかったパンツの中に4重に重ねたティッシュを敷いて引き上げ、浴衣を整えた。汚れたティッシュは持ってきたビニール袋に入れた。翌朝にはボランティアの清掃活動が行われる。直径1m近くに広がってしまった水下痢の海はもうどうしようもないが、拭いた紙をそこに残しておいて回収されるのは恥ずかしかったからだ。
「いいのよ。困った時は助け合うって、約束だから、ね?」
 純子は迷わずにうなずいた。純子が度々漏らしてしまうことがひかりと潤奈の知るところとなり、秘密を共有しあった彼女たちは、困った時――下痢で我慢できない時や我慢できなかった時――に、助け合うことを約束していたのだった。
「…………本当に、ありがとうございます。この浴衣、絶対に汚したくなかったから…………」
 母が作ってくれた浴衣は、汚れずにひかりの小さな体を包み、花火の輝きが消えた夜闇の中でもその身を可愛らしく彩っている。
「あの、白宮せんぱいは、大丈夫でしたか……?」
「………………ええ、なんとか大丈夫よ」
「でも、せんぱい…………あの黒い袋………………」
「……っ……………………」
 純子は言葉を詰まらせた。視力の良いひかりは、資材に隠すように置かれた黒い袋を見つけてしまっていた。その膨らんだ袋は、純子が漏らしてしまったことと、ひかりと違って浴衣の内側を汚してしまっていることを示していた。
「あ、あのっ、ごめんなさい大丈夫ですっ、誰にも言いませんから……あの、な、なにか手伝えることは…………」
「…………ありがとう、ひかりちゃん。………………戻る前に、一緒にごみ箱を探してくれるかしら…………」

 花火の余韻に浸る人。帰る家路を急ぐ人。花火の間より増した人の流れの中を、ひかりと純子は元の席に戻っていった。
 ……一杯になったごみ箱に、黒いビニール袋と、茶色くなった紙がうっすらと見える白いビニール袋を押し込みながら。


 夏の終わりの花火。
 たくさんの人が集い、美しい輝きの中でその絆を確かめ、また新たな出会いが生まれた。
 人混みの中ではちょっと恥ずかしい出来事もあり、良いことばかりではないけれど、それでも人々はその輝きを見るために集う。
 それは、子供たちの、若者たちの、大人たちの、親たちの――人々の幸せの光だから。



Epilogue

「……………………」
 純子や雄一と別れて帰りの電車に乗って桜ヶ丘駅を出た後。ひかりは、家路に踏み出す前に振り向いて東の夜空を眺めた。
 1時間ほど前まで、あの空にいくつもの花火が輝いていた。華やかで、それでいて儚い、一瞬だけの輝き。今はもう影も形も見えないけれど、その美しさは心に刻まれている。ただの映像ではなく、その時間を過ごした思い出として。
 兄と一緒に過ごした時間。大切な友達と歩いたお祭りの賑やかさ。憧れの先輩と話せた喜び。大切な浴衣を着て、汚さずにいられた嬉しさ。そして、今日知り合ったばかりだけど、とても優しくしてくれた人――。
「どうした?」
「え……あ、ううん、なんでも……」
「……もう一度トイレ行っておくか?」
「あっ、だ、大丈夫……今は落ち着いてるし、家まではそんなにかからないから」
「そうか。じゃあ、帰るか」
「うん……」

「良かったな、母さんの浴衣着て花火に行けて」
「うん……お兄ちゃん、一緒に来てくれてありがとう」
「ああ。……来年もまた来ような」
「うん」
「……そうだ、大事なこと言うの忘れてた」
「……?」
「ひかりによく似合ってるよ、その浴衣。……母さん、きっと空から見て喜んでるよ」
「あ……………」
「…………」
「……うん…………ありがとう、お兄ちゃん……!」
 気恥ずかしげに鼻を掻く隆を見て、ひかりは顔中に喜びを浮かべて微笑んだ。兄の手を取ると、優しく握り返してくれた。数時間前に触れた手よりも一回り大きい。心臓の鼓動を速くするのではなく、落ち着かせてくれる温もり。
 兄と手をつないで、家へと歩き始める。
 歩幅の大きい兄に遅れないように、少しだけ早足で。
 
 
 夏の終わり。
 もうすぐ、2学期が始まる。
 小学生の頃は、毎日学校に行くのが怖かった。激しい下痢に苦しみ、静かな教室で必死に我慢する、お漏らしの恐怖と隣り合わせの毎日。夏休みの終わりの日は、明日が来なければいいと思ったこともある。
 でも今は、明日が来るのが楽しみだった。友達と一緒の時間を過ごして、先輩とお話をして……。お腹の悩みは絶えないけれど、明日への希望がその苦しみに耐える力になる。
 早坂ひかりは今、自分を幸せな女の子だと思っていた。


つぼみたちの輝き 第22話
 「花火の光に照らされて」 終




キャラクター紹介

早坂ひかり
「……わたし…………まだ、大丈夫です」

12歳 135.2cm 30.3kg 67-48-68 桜ヶ丘中学校1年3組
ぴーぴー属性:水状便(茶色) 超頻繁排泄 腹音 食あたり(重度) 脱ぎかけ排泄 ちびり体質 便意再発 お尻押さえ我慢 思考加速

 極めてお腹が弱く、毎日ひどい下痢をしている中学1年生の女の子。
 おかっぱの黒髪に小柄な体つきで、外見は小学校中学年くらいに見える。常に激しい下痢に悩まされているため栄養状態が悪く、胸はぺたんこであばらが浮かんで見える。腰も細く折れそうな印象を与える儚げな少女。体力はないが運動神経は悪くなく、バレー部でも試合に出て活躍していた。
 おとなしく真面目な性格。お腹が弱く頻繁に漏らして周囲に迷惑をかけてしまう罪悪感もあって内気で人付き合いも苦手だったが、中学に入って信頼できる友達や先輩に恵まれたことにより少しずつ明るくなってきている。知的能力は非常に高く、計算や図形認識などの処理速度が圧倒的に速い。記憶力も良くコツコツと努力できる性格のため、試験の成績は良く1学期の期末試験では優等生として知られる弓塚潤奈と同点1位になった。
 お腹の弱さは日常生活が困難になるレベルで、毎日30回近くトイレに駆け込んで水状の下痢便を排泄している。授業や試験は常に下痢との戦いであるが、内気で恥ずかしがりな性格のためトイレに立つことができず、お尻を押さえながらぎりぎりまで我慢してしまうことが多い。いつも限界まで我慢しているため、ちびって下着を汚してしまったり、脱ぎかけでしゃがむ前に水下痢を噴射してしまい便器の後ろを汚してしまうことが頻繁に起こる。また、お腹がぎゅるぎゅると鳴る音がとても大きく、一度出し切ったと思っても何度も便意に襲われることがあるため、やっとトイレに間に合っても苦しい排泄を長時間続けなければならない。
 下痢で漏らしそうな時は体が危機だと認識しており、交感神経を刺激して神経伝達速度を上げることで便意の高まりに応じて思考速度が飛躍的に上昇する。さらに過去の経験を照らし合わせることによって様々なシミュレーションを頭の中で行い、漏らさないための最善の方法を選択することができる。しかしシミュレーションの大半は間に合わず漏らす結果を思い浮かべることになるため、強い精神力がなければ使いこなせない技術でもある。試験中に超速で問題を解き終えてトイレに駆け込むという使い方もできる。
 兄・早坂隆と二人暮らし。母はお腹が弱いひかりを助けてくれる最愛の存在だったが2年前に病死しており、兄がその思いを受け継ぎ助け合いながら生活している。父は国内外を忙しく飛び回っておりたまにしか帰ってこない。幼馴染である淡倉美典は姉のような存在でかわいがってもらっている。同級生の香月幸華、遠野美奈穂とは親友同士で、お腹の弱さも理解されており、彼女たちのお陰で楽しく学校生活を送れている。バレー部の先輩である白宮純子は綺麗で優秀な憧れの先輩で少しでも近づきたいと思っており、彼女のおもらし体質を知った後もその憧れは変わることはなくむしろ強まっている。
(出演作品:「修学旅行 ~新聞記事の向こうに~」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/zero002-1.html
つぼみたちの輝き 第1話「はじまりの決意」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/sakura01.html
つぼみたちの輝き 第21話「贖罪の白球」https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/sakura21.html

当日排泄回数
1回目 06:20:14-06:26:11 5m57s 起床前 早坂家トイレ(和式) 水状便 ちびり12+便器外121+440g
2回目 06:55:49-07:04:58 9m9s 起床後 早坂家トイレ(和式) 水状便 314g
3回目 07:41:44-07:43:44 2m0s 朝食前 早坂家トイレ(和式) 水状便 383g
4回目 08:20:14-08:26:11 5m57s 朝食後 早坂家トイレ(和式) 水状便 ちびり12+便器外121+440g
5回目 09:12:17-09:17:10 4m53s 勉強中 早坂家トイレ(和式) 水状便 ちびり32+便器外105+528g
6回目 09:52:24-09:58:11 5m47s 勉強中 早坂家トイレ(和式) 水状便 315g
7回目 10:31:10-10:34:53 3m43s 買い物中 スーパーマーケット客用トイレ(和式) 水状便 便器外108+465g
8回目 11:15:06-11:24:11 9m5s 帰宅中 公園トイレ(和式) 水状便 ちびり10+便器外88+258g
9回目 11:36:35-11:40:49 4m14s 帰宅後 早坂家トイレ(和式) 水状便 ちびり7+便器外73+411g
10回目 12:12:21-12:14:57 2m36s 調理中 早坂家トイレ(和式) 水状便 357g
11回目 13:33:22-13:38:14 4m52s 昼食後 早坂家トイレ(和式) 水状便 ちびり25+便器外152+432g
12回目 13:42:12-13:45:45 3m33s 昼食後 早坂家トイレ(和式) 水状便 212g
13回目 13:52:00-13:56:43 4m43s 昼食後 早坂家トイレ(和式) 水状便 151g
14回目 14:33:33-14:38:21 4m48s 着替え中 早坂家トイレ(和式) 水状便 ちびり21+312g
15回目 14:58:22-15:00:22 2m0s 着替え後 早坂家トイレ(和式) 水状便 156g
16回目 15:30:07-15:36:46 6m39s 外出前 早坂家トイレ(和式) 水状便 便器外12+518g
17回目 16:28:19-16:34:20 6m1s 外出中 桜ヶ丘駅トイレ(和式) 水状便 332g
18回目 16:51:43-16:55:36 3m53s 外出中 電車トイレ(和式) 水状便 便器外52+646g
19回目 17:31:11-17:35:35 4m24s 外出中 東小学校1Fトイレ(和式) 水状便 ちびり22+443g
20回目 17:40:04-17:46:50 6m46s 外出中 東小学校1Fトイレ(和式) 水状便 252g
21回目 18:30:23-18:33:42 3m19s 屋台巡り中 河川敷仮設トイレ(和式) 水状便 331g
22回目 19:30:28-19:38:13 7m45s 花火観覧中 河川敷仮設トイレ(和式) 水状便 ちびり38+526g
23回目 20:21:22-20:29:45 8m23s 花火観覧中 河川敷物陰(野外) 水状便野外排泄 ちびり10+脱ぎかけ35+635g
24回目 20:51:56-20:55:57 4m1s 帰宅中 けやき野駅トイレ(和式) 水状便 ちびり18+便器外120+305g
25回目 21:11:19-21:17:19 6m0s 帰宅中 桜ヶ丘駅トイレ(和式) 水状便 便器外52+213g
26回目 21:25:10-21:27:21 2m11s 帰宅中 空き地(野外) 水状便野外排泄 ちびり15+脱ぎかけ182+458g
27回目 21:44:39-21:48:15 3m36s 帰宅後 早坂家トイレ(和式) 水状便 ちびり9+便器外184+220g
28回目 22:30:34-22:35:46 5m12s 入浴中 早坂家トイレ(和式) 水状便 便器外32+403g
29回目 23:32:21-23:36:27 4m6s 就寝前 早坂家トイレ(和式) 水状便 324g
30回目 23:50:53-23:59:33 8m40s 就寝前 早坂家トイレ(和式) 水状便 ちびり10+487g


澄沢百合
「……なんで……おなか治らないの…………もうすぐ、学校も始まるのに……」

14歳 145.1cm 38.5kg 73-48-72 桜ヶ丘中学校2年2組
ぴーぴー属性: 液状便(黄土色) 超大量排泄 便意突発 食あたり(重度) 冷え冷え(軽度) 不運(水洗不可)
 野球部のマネージャーを務める中学2年生の女の子。
 短い水色の髪でぱっちりとした目元が可愛らしい顔立ち。身長は平均よりやや低く、胸の発育も控えめ。体は小さいものの身体能力は高く、男子と混ざって練習しても全く遜色のない動きができて打撃投手を務めることもある。
 明るく礼儀正しい性格。澄んだよく通る声ではきはきと話し、小柄な体で一生懸命動き回る姿は誰からも好感を持たれている。勉強も真面目に取り組んでおり中の上程度の成績を維持している。
 家族構成は両親と弟の4人。野球部のエースだった早坂隆に憧れているが、恥ずかしさと嫌われたらどうしようという不安から思いを伝えることができず、先輩後輩の間柄のままである。同級生の紀野里瑞奈、来島沙絵、舟崎史音とは1年生の時同じクラスでとても仲が良く、クラスが変わった今でも親交が続いている。
 小柄な体つきの割に排泄の量が人並み外れて多く、ゆるい便を大量に出してしまう。また、いきなり急激な便意に襲われることが多く、お腹が痛い、と思った時には我慢できないレベルの便意が押し寄せていることが多く、そのまま漏らしてしまうこともある。トイレの故障に見舞われることも多く、水が流れなくなっていて便器の中の大量の下痢便を残したまま逃げ出さなければならないことも時々ある。
 1学期末に行われた野球部の合宿で調理を担当したが、作った料理で食中毒を起こしてしまった。激しい下痢になって大量の下痢便を漏らしながら救急車で運ばれて入院し、病室のベッドの上でおむつが手放せない状態になっていた。退院してからも1ヶ月以上お腹の調子が悪いままになっており、1日10回近く液状から水状の便を大量に出してしまうようになっている。
(出演作品:つぼみたちの輝き 第3話「水色に包まれて……」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/sakura03.html
つぼみたちの輝き 第16話「真夏の朝の夢」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/sakura16.html

当日排泄回数
1回目 06:57:06-07:04:04 6m58s 起床後 澄沢家トイレ(洋式) 水状便 975g
2回目 08:50:23-08:58:29 8m6s 朝食後 澄沢家トイレ前廊下→トイレ(洋式) 水状便 おもらし325+696g
3回目 11:05:33-11:10:53 5m20s 勉強中 澄沢家トイレ(洋式) 水状便 914g
4回目 12:14:32-12:18:36 4m4s 昼食前 澄沢家トイレ(洋式) 水状便 942g
5回目 14:00:58-14:08:11 7m13s 受診待ち 桜ヶ丘医院外来女子トイレ(和式) 水状便 829g
6回目 15:18:02-15:27:42 9m40s 帰宅中 桜ヶ丘第二公園男女共用トイレ(和式) 水状便 おもらし251+便器外475+648g
7回目 16:28:54-16:37:42 8m48s 入浴中 澄沢家トイレ前廊下→トイレ(洋式) 水状便 おもらし133+便器外100+621g
8回目 17:59:10-18:02:45 3m35s 休息中 澄沢家トイレ(洋式) 水状便 976g
9回目 18:48:01-18:57:28 9m27s 休息中 澄沢家トイレ(洋式) 水状便 1158g
10回目 20:36:14-20:43:22 7m8s 夕食後 澄沢家トイレ(洋式) 水状便 446g
11回目 22:30:48-22:36:45 5m57s 就寝中 澄沢家トイレ(洋式) 水状便 1083g


白宮純子
「私……綺麗なんかじゃないわ…………だって……」

15歳 154.2cm 45.2kg 81-51-83 桜ヶ丘中学校3年2組
ぴーぴー属性:軟便(茶色) おもらし体質(重度) ダメージコントロール 水あたり(重度) 神経性下痢(軽度) 便質軟化 不運(紙切れ)

 中学3年生で、類稀な美しさを備えた長い黒髪のおしとやかな美少女。
 その容姿は清楚可憐を絵に描いたような美しさで、あどけなさを残しながら気品を備えた顔立ち、腰までの長さがあり風になびくさらさらの黒髪、大きくはないが美しい曲線を描く胸の膨らみ、たおやかな細い腰つきと、理想的な美少女と呼べる容貌である。
 名家のお嬢様でありながら高慢なところは全くなく、別け隔てなく優しい性格である。学業においては学年1位、運動でもバレー部の中心選手として部長を務め、生徒会では書記長として実務を取り仕切る才女であり、能力的にも全く非の打ち所のない完璧な存在である。
 しかし、彼女はそんな超人的な長所を帳消しにしてしまうほどの「おもらし体質」という欠点を抱えている。もともとは我慢強い体質であったが、小学生の頃に高熱を出してから肛門を閉じる力が極めて弱くなってしまい、便意をもよおすとほとんど我慢できずに漏らしてしまうという恥ずかしい秘密を抱えている。せめて人前では漏らさないように、漏らしても気づかれないようにと毎日涙ぐましい努力を重ねている。漏らしてしまった回数は100回を軽く越えており、その経験から漏らしそうになった瞬間に反射的にスカートや靴を避けて汚れるのを防いだり、下痢便でいっぱいのショーツから汚物をこぼさないように慎重に歩いたりして被害を最小化する技術を身につけてしまっている。
 もともとは胃腸が繊細でお腹を下しやすい体質で泥状の下痢便を1日に数回排泄していたが、おもらし体質になってからは下痢をすることがお漏らしに直結するため、登校前や外出前に予め下痢止めを飲んでおくことで下痢にならないように気をつけている。そのため普段は形のある程度残った軟便程度であり、手で抑えることでいくらか我慢することも可能である。ただ、一度お腹を下すと急激に便がゆるくなってしまう傾向があり、液状や水状の便になってしまうと一切我慢することができなくなる。普段衛生的な環境にいるためか不衛生な水を口にすると猛烈な下痢に襲われてしまい、小学生時代に海外に旅行に出かけた時などはひどい下痢に苦しんでいた。また、そこまで重症ではないが緊張するとお腹の調子を崩しやすく、行事の時などは人前に出る機会が多いこともあってお腹の具合をいつも心配している。お漏らしして駆け込んだトイレに紙がないことも多く、外出時は替えの下着、ティッシュやウェットティッシュ、タオル等の後始末セットを常に持ち歩いている。
 学校中の男子生徒の憧れであり、告白された回数やラブレターをもらった回数は数え切れないほどだが、本人は2年から同じクラスになった早坂隆に一途な思いを寄せている。ただ、箱入り娘で奥ゆかしい性格である上に恥ずかしいおもらし体質を知られたらどうしようという不安もあってなかなか踏み出すことができず、お互い想い合っているにもかかわらず関係は進展していない。女子にも人気が高いが、高嶺の花過ぎて親しくしてくれる人は少なく、1年生の時に同じクラスだった淡倉美典が唯一名前で呼び合う仲である。部活の後輩であり隆の妹であるひかりのことを可愛がっており、ひどい下痢に苦しみながらも必死に我慢する彼女を助けてあげたいと思っている。
(出演作品:つぼみたちの輝き 第4話「純白に秘めた想い」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/sakura04.html
つぼみたちの輝き 第19話「ひとつだけ、伝えたいこと」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/sakura19.html

当日排泄回数
1回目 07:36:37-07:44:59 8m22s 起床時 白宮家自室→2Fトイレ(洋式) 下痢便 おもらし355+152g
2回目 12:47:26-12:51:53 4m27s 昼食後 白宮家1Fトイレ(洋式) 軟便 ちびり33+便器外67+386g
3回目 19:39:31-19:48:19 8m48s 花火観覧中 花火大会会場→物陰(野外) 液状便野外排泄 おもらし485+225g
4回目 22:19:14-22:26:55 7m41s 入浴後 白宮家1Fトイレ(洋式) 軟便 おもらし126+332g


早坂 隆(はやさか たかし)
「ひかりを甲子園につれていくために、また頑張らなきゃな」
14歳 けやき野市立桜ヶ丘中学校3年2組 168.5cm 62.8kg
 ひかりの兄で、野球部のエースだった中学3年生。それほど恵まれた体格ではないが地道な練習で高い実力を身に着けた。裏表のない素直な性格。夏の大会が終わって部活を引退し、高校受験に向けて準備を始めている。幼い頃からお腹の弱いひかりの世話をして支えていたが、小学校時代には周囲からそのことをからかわれて一時期妹と距離を置いてしまっており、病に倒れた母にひかりのことを託されてからはその負い目を取り返すように大切にしている。同級生の美少女、白宮純子に思いを寄せているが、完璧過ぎる彼女に気後れしてしまい思いを伝えることができずにいる。
 
穂村 雄一(ほむら ゆういち)
「隆君、ひかりちゃん…………また、会おうね」
14歳 私立高峰中学校3年 156.2cm 48.3kg
 高峰中学校の野球部のエースで、隆の小学校時代のチームメイト。線の細い体つきだが天才的なセンスを持つ。爽やかな美少年であり他校の女子からファンレターをもらうことも多い。穏やかで優しい性格で、後からチームに入ってきた隆とも真っ先に仲良くなり、妹のことで悩んでいた彼の心を落ち着かせる助けとなっていた。



ゲストキャラクター

澄沢 瑠璃子(すみさわ るりこ)
「百合? ちょっと待って、すぐに出るから……!!」
36歳 主婦 148.5cm 43.1kg 77-50-80 青色髪セミロング
ぴーぴー属性:下痢便 超大量排泄 長時間排泄
 百合の母。結婚退職したがもともとは優秀な保険外交員であった。百合と同じくらいお腹がゆるく大量に排泄してしまう体質で、家のトイレで下痢している時に出し切るのに時間がかかって外で我慢していた百合が漏らしてしまうこともある。

・左から2番目のトイレから出てきた少女 
神崎 若葉(かんざき わかば)
「…………ごめん、ちょ、ちょっとだけ交代してっ!! すぐ戻るからっ!」
11歳 お茶の湯女子大学付属小学校5年 132.1cm 31.2kg 61-45-62 黒髪ショート 白リボン付きシャツ+緑色ミニスカート
ぴーぴー属性:水状便(茶色) 頻繁排泄 大量排泄 食べ過ぎ トイレ内おもらし
 けやき野市発祥の大企業、神崎化学工業の社長の一人娘。普段は本社のある東京で暮らしており、毎年花火大会に合わせて帰省している。お嬢様育ちではあるが活発な性格で、運動神経が抜群に高い。陸上競技で全国トップクラスの実力を持つだけでなく、校内のいろいろな部活やクラブに助っ人として参加している。健康そうな体からは想像できないほどお腹が弱く、一日に10回以上水下痢でトイレに駆け込んでおり、間に合わず漏らしてしまうことも多い。消化効率が悪いのでたくさん食べることになり、それでお腹を壊して悲惨な下痢になっていることもある。

・右から2番目のトイレから出てきた少女
徳山 御琴(とくやま みこと)
「わたくしと白宮さん……どちらが上か、必ず決着をつけてあげるわ」
15歳 けやき野市立桜ヶ丘中学校3年1組 164.3cm 48.4kg 86-58-87 銀髪ロング 黒地浴衣
ぴーぴー属性:液状便 爆音おなら 激臭おなら 腹圧強化 飛び散り排泄 水あたり(重度)
。桜ヶ丘中学校3年生で大人びた美貌を誇る女子生徒で、白宮純子をライバルと意識している。陸上部の短距離選手として全国レベルの実力を持つ。ガスが溜まりやすい体質でものすごい音とにおいのおならを何度も出してしまう。排泄時の勢いが強く液状便を飛び散らせてしまうことが多いため、汚れが広がりやすい和式トイレを避ける傾向がある。
(出演作品:つぼみたちの輝き 第12話「last resort」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/sakura12.html

・右端のトイレに入った少女
弓塚 潤奈(ゆみづか じゅんな)
「どうして……こんな大事なときばかり、お腹を壊してしまうの……」
12歳 けやき野市立桜ヶ丘中学校1年1組 156.3cm 49.1kg 81-50-81 青色髪ショート 紫色膝下浴衣
ぴーぴー属性:液状便 神経性下痢(重度) 冷え冷え(軽度) 腹痛悪化 便器汚し おもらし軽減
 桜ヶ丘中学校1年生で、学年一の優等生として知られる。青色の短い髪に眼鏡をかけた厳しい目つきの顔立ち。神経性の下痢に悩まされており行事や試験の時に激しい下痢に襲われることが多い。急速に成績を上げてきた早坂ひかりに追い抜かれまいとプレッシャーを感じている。
(出演作品:つぼみたちの輝き 第2話「Imperfection」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/sakura02.html
第14話「扉越しのめぐりあい」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/sakura14.html )

・潤奈の兄
弓塚 江介(ゆみづか こうすけ)
「ほら、下痢が治るように温かい紅茶でも……え、なんで知ってるかって? さっき便器の中がだいぶ汚れ……おい、鞄投げるなって!!」
14歳 けやき野市立桜ヶ丘中学校3年2組 162.1cm 55.4kg
 隆の友人で、1年生の優等生、弓塚潤奈の兄。真面目とは程遠い性格で、悪人ではないが変人と自他ともに認めている。放送委員会を私物化して校内外の様々な情報を収集している。妹をからかうのに余念がなく、お腹を下しやすいこともネタにしているが、神経性の下痢に悩む妹があまり気にしすぎないようにという気遣いの表れでもある。もっとも潤奈にはそんな気遣いは全く伝わっておらず毎回激怒されている。

・右から2番目のトイレに入った高校生の少女
野上 留美奈(のがみ るみな)
「冷たい……どうしよう、またお腹冷えちゃいそう……」
17歳 栃木県立桜ヶ丘高等学校2年 154.1cm 52.2kg 83-53-85 黒髪ショートボブ 黒Tシャツ+レイヤードスカート
ぴーぴー属性:下痢便 冷え冷え(重度) 爆音排泄 便器汚し 神経性下痢(軽度)
 桜ヶ丘高校の水泳部の2年生。実力は高いのだがすぐお腹を冷やしてしまい実力を出しきれないことが多い。排泄音がものすごく大きく飛び散った下痢便で便器の周りを汚してしまいやすく学校でも苦労している。
 
・左端のトイレで長時間水下痢を出していた少女
友村 美咲(ともむら みさき)
「…………あの………………ご、ごめん…なさ…………汚し……ちゃって……………」
14歳 白樺女学院中等部3年 136.1cm 29.7kg 67-48-68 淡紅色おかっぱ 水色浴衣
ぴーぴー属性:水状便(黄色) 頻繁排泄 神経性下痢(重度) 便意再発 脱ぎかけ排泄 お尻押さえ我慢
 隣町の女子校である白樺女学院中等部の3年生。おかっぱに切り揃えた淡紅色の髪が特徴。内気な性格で、なかなか聞き取れないほど声が小さい。ストレスやプレッシャーに弱くちょっとしたことで猛烈に下してしまう。一度出し終えても何度も便意をもよおしてしまうことが多い。

・左から2番目のトイレに入った物腰柔らかな和風お嬢様の少女
友村 美春(ともむら みはる)
「そ、そんなはしたないこと、私できません……!!」
12歳 白樺女学院中等部1年 151.2cm 48.3kg 81-50-82 黒髪ロング 紺色浴衣
ぴーぴー属性:下痢便(黄土色) 冷え冷え(軽度) 便意急増 おもらし軽減 トイレ行列中 黒髪ロング 紺色浴衣
 物腰柔らかな大和撫子といった女の子。美咲の妹であるが体型や性格のためかいつも姉に間違えられる。お腹を冷やして下痢をしてしまうことが多い。一度もよおすと急激に我慢できなくなってしまうが、漏らしてしまってもとっさに肛門を締めて被害を最小限に抑える事ができる。
(出演作品:「修学旅行 ~新聞記事の向こうに~」その5 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/zero002-5.html

・左から2番目のトイレに入った眼鏡っ子
舟崎 史音(ふなさき ふみね)
「……はい、貸出ですね……っ……だ、大丈夫ですっ……なんでも……あっ……」
13歳 けやき野市立桜ヶ丘中学校2年5組 148.7cm 38.3kg 70-44-72 栗色髪三つ編み 白ブラウス+紺色スカート
ぴーぴー属性:水状便(黄色) 冷え冷え(重度) 持続性下痢 おもらし体質(軽度) 渋り腹 水あたり(重度) 半袖ブラウス+紺スカート
 桜ヶ丘中学校2年生で、百合の仲良しグループの一人。眼鏡を掛けた文学少女で図書委員を務めている。普段から便質が水状なほどお腹が弱い上に、お腹を冷やすと壊滅的に下してしまう。漏らしてしまうことも多いが、家が貧しく着替えを十分に買うことができないため、何度も洗って再利用している。
(出演作品:つぼみたちの輝き 第8話「冷たい静寂の中で」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/sakura08.html

・右端のトイレに入った幼い女の子
星山 愛(ほしやま あい)
「ママまたおなかぴーぴーなの? あいちゃんママのあとでもいいよ?」
5歳 けやき野南保育園年長 108.6cm 22.0kg 53-42-54 青髪横結び フリルワンピース
ぴーぴー属性:軟便(黄土色) 長時間排泄
 保育園に通う女の子。おしゃべり好きで何でも話してしまう。母と一緒にトイレに入るとうんちの状態を実況したり、扉を開けてしまってて母を真っ赤にさせてしまうことが多い。排便に時間がかかり母を待たせてしまうことがある。

・右端のトイレに娘と一緒に入った母親
星山幸恵(ほしやま ゆきえ)
「愛ちゃんおしっこ出た? 早くママと替わって、お願い……」
28歳 やまぶき幼稚園教諭 158.8cm 44.9kg 78-54-77 青髪ロング ノースリーブワンピース
ぴーぴー属性:水状便(黄土色) 頻繁排泄 便器汚し ドア開けられ
 けやき野市郊外にある幼稚園の先生で、一児の母。子供の頃はお腹は弱くなかったが中学生になってから急激に下痢体質になり、毎日何度も下痢でトイレに駆け込み水状便を出している。娘がおしっこに行きたがる時は大概彼女も下痢で切迫した便意をもよおしており、娘が用を足し終わるまで必死に我慢して周囲を汚しながら水下痢を撒き散らしてしまうことが多い。

・おしっこ我慢していた双子
笠原 千咲(かさはら ちさき)
「まいちゃん早く出て! ちーちゃんまたしたくなっちゃった……!!」
11歳 けやき野市立桜ヶ丘小学校6年 143.3cm 35.5kg 赤毛片結び(右) ピンクTシャツ+キュロット
ぴーぴー属性:下痢便(茶色) 渋り腹 便意同調
笠原 舞花(かさはら まいか)
「待って、まいちゃんまだ入ったばっかりだから!! ずっと我慢してたんだもん、止まらないよっ!!」
11歳 けやき野市立桜ヶ丘小学校6年 143.4cm 35.3kg 赤毛片結び(左) ピンクTシャツ+キュロット
ぴーぴー属性:下痢便(黄色) 渋り腹 便意同調
 見た目も声もそっくりな双子の女の子。トイレに行くタイミングがいつも同じになってしまい一方が我慢することになる。二人とも下痢をするとお腹が渋ってなかなか出し切ることができず何度も入れ替わりながら排泄を済ませることになり、途中でどちらかあるいは二人とも我慢できずに漏らしてしまうことも少なくない。なぜか便の色が全く異なっている。

・左から2番目のトイレでおしっこのような音の水下痢をしていた子
古河 紗緒梨(こが さおり)
「…………ごめんなさい…………ずっと……トイレ…………我慢してて……ちゃんと言えなくてごめんなさい…………」
7歳 けやき野市立夕凪小学校月山分校2年生 113.1cm 20.3kg 61-44-61 黒髪おかっぱ ピンクミニ浴衣
ぴーぴー属性:水状便(黄土色) 頻繁排泄 腹圧強化 食あたり(重度) 便意再発 後ろ反り我慢
 人見知りで物静かな幼い女の子。お腹が非常に弱いが恥ずかしがりでトイレに立つことができずよく授業中に漏らしてしまっている。おしっこのような完全な水状の下痢便を勢いよく出してしまうため、水洗の和式トイレなどでは猛烈に飛び散って辺りを汚しまくってしまう。
(出演作品:「途中下車の記憶」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/loliscas/s02.html

・人知れず漏らして地面に下痢便をこぼしていた女性
楠原 真弓(くすはら まゆみ)
「…………………でちゃった…………っ……どうしよう……………どうしようっ…………」
22歳 上州大学医学部5年生 155.6cm 50.6kg 78-58-82 黒髪三つ編み 半袖ブラウス+ロングスカート
ぴーぴー属性:液状便(茶色) おもらし体質(軽度) 食あたり(重度)
 桜ヶ丘高校を首席で卒業し医学部に進んだ才媛で、心優しく患者に寄り添うことのできる優秀な医学生。恥ずかしがりでトイレに行きたいと訴えることができずそのまま漏らしてしまうこともあり、漏らした時は普段の優秀さとはかけ離れた姿で幼子のように涙を流してしまう。

・先輩に順番を譲った女の子
仲原 仁美(なかはら ひとみ)
「あのぉ、私まだ大丈夫だから……先に入っちゃっていいよぉ」
13歳 けやき野市立桜ヶ丘中学校1年4組 151.0cm 48.5kg 76-56-80 黒髪後ろ結び 白Tシャツデニムパンツ
ぴーぴー属性:下痢便(茶色) 長時間排泄 食あたり(重度) 腹痛悪化
 中学1年生。舌足らずなスローペースな喋り方が特徴。温和で優しい性格であり自分のことより他の人を助けることを優先する。ただ、一度お腹を下してしまうと身動きが取れないほどの腹痛に襲われ長時間トイレから出られなくなってしまう。
(出演作品:「修学旅行 ~新聞記事の向こうに~」その4 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/zero002-4.html

・お腹を押さえていた先輩の女の子
真中 織恵(まなか おりえ)
「…………あ、あの…………あっ、な、なんでも……ないです…………」
14歳 けやき野市立桜ヶ丘中学校3年2組 152.3cm 38.1kg 69-48-71 黒髪おかっぱ 白ブラウス+紺スカート
ぴーぴー属性:液状便(黄土色) 頻繁排泄 食あたり(軽度) 爆音排泄 長時間排泄 トイレ行列中
 隆・純子・叶絵のクラスメート。飾り気のない黒髪のおかっぱの髪型で、真面目でおとなしい性格。恥ずかしがりで知らない人や男子の前では声も出せないほど。テニス部に所属しており、特別に上手なわけではないが真面目に練習に取り組んでいて後輩からも慕われている。
 胃腸が弱く頻繁にお腹を壊してしまう体質。我慢しがちな分排泄時にはものすごく大きな音が出てしまい、トイレの中で真っ赤になっていることが多い。2年生の林間学校の時に慣れない野外調理のためか一人だけ食あたりを起こしてしまい、帰りのバス車内で嘔吐したり下痢で何度もトイレ休憩を取ってもらうなど恥ずかしい思い出になってしまった。
(出演作品:つぼみたちの輝き 第12話「last resort」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/sakura12.html

・おしっこを漏らして足踏みしながらトイレに駆け込んだ女の子
丹下 彩華(たんげ あやか)
「うぅ~、おしっこ漏れちゃうっ…………早く早く早くぅ…………」
10歳 けやき野市立東小学校4年 138.2cm 38.6kg 67-49-68 黒髪ショート 紺色オーバーオール
ぴーぴー属性:下痢便(黄色) おもらし軽減 頻尿 トイレ行列中
 街中の小学校に通う女の子。おしっこが近くよくトイレを我慢している。行列に並ぶことが多く足踏みしながら限界我慢することが多い。漏らすことも少なくないが完全に決壊することは少なく長時間耐え続けることができる。

・足踏み我慢していた子の友達
南 果歩(みなみ かほ)
「あやちゃん、大丈夫? 間に合った? …………?」
10歳 けやき野市立東小学校4年 141.4cm 40.2kg 70-51-73 黒髪ロング 黒Tシャツ+白ショートパンツ
ぴーぴー属性:液状便(茶色) 爆音排泄 神経性下痢(軽度)
 街中の小学校に通う女の子。トイレが近い友人の彩華のことをいつも気遣っている。緊張するとお腹を下してしまいものすごい音を立てて液状便を噴射してしまう。

・右から2番目のトイレに駆け込んだもののあと一歩で漏らしてしまった女性
小川 真琴(おがわ まこと)
「ごめんなさい…………………トイレ……すごく混んでて…………我慢、できなくて…………」
25歳 けやき野赤十字病院薬剤師 144.2cm 32.3kg 68-48-67 黒髪ショート 薄桃色ワンピース
ぴーぴー属性:液状便(黄土色) 頻繁排泄 腹圧強化 トイレ内おもらし
 けやき野市の中心部に位置する大病院に勤める薬剤師。小柄でやや幼い外見だが、非常に高い記憶力を持ち薬剤師としての知識も豊富で極めて優秀。ただ日常生活では抜けが多く、トイレに行くタイミングを逃して我慢できなくなり漏らしてしまうという子供のような失敗もある。

・ひかりが入ったトイレをノックしていた女の子
池ノ上 晴美(いけのうえ はるみ)
「志遠ちゃん、それ何てアニメの話?」
11歳 けやき野市立桜ヶ丘小学校5年 143.3cm 42.9kg 73-50-74 黒髪セミロング 白Tシャツ+フリルスカート
ぴーぴー属性:液状便(茶色) 神経性下痢(重度) 便意急増
 眼鏡を掛けたおとなしい少女。歌とお絵かきが得意。幼稚園時代からの親友、志遠のエキセントリックな行動にいつも振り回されている。緊張するとお腹を壊して急激に我慢できなくなってしまう体質。
(出演作品:「聖地に咲いた華」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/zero004.html

・ひかりの後に右端のトイレに駆け込んだ女の子
近衛坂 志遠(このえざか しおん)
「よくぞ聞いてくれました晴美ちゃん! さあこれを持って一緒に叫ぶのです、カードコレクター、レイズアーーップ!!」
11歳 けやき野市立桜ヶ丘小学校5年 146.2cm 44.7kg 78-52-77 紫髪ロング フリルワンピース
ぴーぴー属性:液状便(黄土色) 大量排泄 ちびり体質 消化不良(重度)
 フリルの付いたロリータファッションを好む女の子。重度のアニメ・マンガオタクであり親友の晴美を同じ道に引き込もうとしている。小学生にしてすでに国内最大の同人誌即売会であるコミックカーニバルに何度も参加している強者。胃腸が繊細で油物などを食べると猛烈にお腹を下してしまう。
(出演作品:「聖地に咲いた華」 https://meltyshower.sakura.ne.jp/lolizero/zero004.html

・雄一と一緒に歩いていたひかりとぶつかりそうになった子
初谷 律果(はつがい りつか)
「おなかいたい……トイレがまんできないよぉ!!」
10歳 けやき野市立夕凪小学校4年 10歳 124.7cm 29.1kg 59-46-62 (99%) 青緑髪ショート Tシャツ+キュロット
ぴーぴー属性:水状便(黄土色) 腹痛悪化 爆音おなら 神経性下痢(軽度) 転倒おもらし
 ひかりと同じ小学校で3学年下にあたる少女。母からは「りっちゃん」、友達には「りっか」と呼ばれる。お腹が弱くいつも水状の下痢をしている。ガスが溜まりやすく、お腹を押さえて水気混じりのおならを漏らしながらトイレに駆け込もうとして、転んでしまって漏らしてしまうのがいつものパターンで、ひかりも小学校時代に目撃したことがある。



あとがき
 大変長らくお待たせいたしました……という言葉では表現できないくらい止まってしまっていた「つぼみたちの輝き」ですが、このたびやっと最新話を書き上げることができました。
 
 21話を公開してから14年という長期休止でしたので、まずその理由をご説明させていただこうと思います。長くて鬱屈した話である上に初見の方などには関係ないお話なので読み飛ばしていただいて大丈夫です。

 一番の原因は、「自分の好み(水下痢)に比べて、キャラクターのお腹の弱さが足りなかった」ことです。
 つぼみたちの輝きは2003年当時円熟期を迎えていたギャルゲー・エロゲーの文法をスカトロ小説に転用するということをコンセプトとしていました。その文法とは、様々な属性のキャラクターを用意して幅広いユーザーにどれかが直撃するようにする、というものです。この「属性」を「排泄に関する特徴」として取り入れ、下痢体質のひかりちゃん、大量排泄体質の百合ちゃん、お漏らし体質の白宮さんなどの形にすることで、「排泄内容だけでどのキャラクターか判別できる」レベルに達し、このコンセプト自体は成功を収めたと思っています。ただ、その「様々な属性を用意する」ということを意識したために、下痢を中心としながらも液状・水状の下痢に特化するということは自重し、軟便や普通便、便秘に対する下剤などの属性も入れることにしました。当初設定はひかりちゃんもお腹の弱さ-100%ではなく-80%くらいに設定していたほどです。好みよりもアイデアの幅の広さを優先したわけです。
 また、作劇上の理由として、当時は自分でもぴーぴー属性や我慢スキルを整備できていなかったため、あまりお腹を弱くしすぎると(特に白宮さんの)おもらし率が高くなりすぎて社会生活の維持が困難になり連載の物語が破綻するという危惧もあったために、下痢のひどさを物語を制御できる程度に抑えるという方針になっていました。
 
 学部生で無尽蔵に時間があって勢いで書いていた最初の半年ほどのキャラ紹介編はそれでよかったのですが、2004年からは大学院生、2008年からは一応社会人となったことにより自分の中で創作に要するコストが増大したためか、1学期後半は無意識に書きやすいキャラに絞るような形になっていき、なんとなく書きにくいなあと感じながら少しずつ進めることになってしまっていた気がします。
 その理由が自分でわかったのは2010年代に入ってからで、ノクターンノベルスやPixiv等の小説投稿サイトの普及により、下痢作品の量的供給が(まだまだ足りないとはいえ)なされるようになり、文化的成熟によって属性の細分化が進んできたことで、その過程で自分の好みが、繰り返すひどい下痢による水状便であることがはっきりしてきたわけです。
 するととにかく水下痢を書きたいと思うとともに、つぼみのキャラの多くはそこまでお腹が弱くないため新しく水下痢体質の子が登場する作品の方が書きやすい、逆につぼみが書けないという状態になってしまいました。2014年ごろからは結婚してしばらく本当に休眠しており、2022年に復帰した後も、スピンオフとして「小さなつぼみの日常」を書いたあとはその時々のモチベーションの赴くまま新たな水下痢ちゃんの登場する別シリーズを進めていたという経緯です(もっとも別シリーズも村山ですさんの「トイレ列『下痢』」、麦茶さんの「雪灯りの道」、ウニ体さんの「雪色の音符」などのコラボ作品についてはそれぞれ渾身の作品を書いているつもりです)。

 ただ、もちろんつぼみシリーズを忘れたわけではなく、何とか今の自分が書きたいと思う形で復活させたいということは頭の片隅においていました。
 では、全員水下痢体質に設定し直してしまえばいいかというとやはりそうではなく、すでに1学期を公開しそのキャラクターや物語をたくさんの人に気に入ってもらっているわけですので、勝手に変えることは小説屋としてやりたくないと思っています。それは自分の生み出したキャラクターの人生と、彼女たちが生きてきた世界を否定することになってしまいます。物語の核心に関わることは絶対に、枝葉の部分でもよほどの理由がない限りすでに公開した内容を変えないようにしよう、ということは心に決めていました(他の人には色々なやり方があると思いますので単なるマイルールです)。ということで、私がつぼみを書き続けるのであれば、1学期の内容と整合するように「後付けでお腹を弱くする」必要があり、そのやり方を色々と考えていたわけです。

 さらに、これだけ止まってもう終わった作品と思われているものを再開するからには、結局また行き詰まりました、となるのは避けたく、きちんと物語の最後までを描きたいと考えていました。つぼみ初期構想では全75話くらい考えていましたが、基本的には季節もののイベントを一通り入れつつその中で排泄シーンを描いていくという形であり、各キャラクターの物語を描き切るという概念があまりありませんでした。限られた時間で描きたい排泄シーンをしっかり書きながら、各キャラの物語(排泄の悩み、人間関係、恋愛関係)をきちんと描いて決着をつけることに焦点を当てて2学期以降の予定を組み直すというのが大きな課題でした。

 ということで、つぼみを再開する上での課題は、「現在の自分の好みに合うようにお腹の弱さをインフレさせる」「1学期で書いた内容をなかったことにしない」「物語の結末までの筋道を考える」ということでした。
 一言で言えば、「若気の至りで広げた大風呂敷のたたみ方を考えるのに10年かかった」ということになるのかなと思います。

 このタイミングで22話を書いた理由としては、1年前からイラストを描き始めて新しく見てくださる方もいる中で、うちの原点となるつぼみが止まったままなのはもったいない、特に、キャラの話などを話題にしにくい状況を何とかしたいと思ったためで、まだ2学期の内容はすべて確定していないものの「1学期の描写と矛盾せずにお腹の弱さをレベルアップさせる」設定がなんとかまとまったので、ここらで一度その設定を使って特別編として書いてみようと思った次第です。せっかくなので三大ヒロイン揃い踏みかつ大好きな大規模行列計算も含めたお祭り作品として書きました。
 そこまでゆるくない便質が好きだった皆様には大変申し訳ありませんが、やるからには最高の下痢描写を提供させていただくつもりですので、ぜひお腹の弱さがパワーアップした彼女たちも気に入っていただければ幸いです。
 まだすべての設定や展開が確定するところまでは行っておらず、他のシリーズも書き進めたいので23話はまたしばらくお待ちいただくことになると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。


 さて、面倒な話は以上で終了とさせていただき、今回の見どころ解説です。
 今回書こうと思ったのは、第2期仕様にお腹の弱さがレベルアップした百合ちゃんと白宮さん、そしてそれを第1期仕様のスペック据え置きで迎え撃ち、圧倒的な実力と経験値を見せつけるひかりちゃん、というものです。
 今回、最初はそこまで意識していなかったのですが、途中からテーマとして取り入れたのがひかりちゃんの「強さ」です。設定上、ひかりちゃんはMelty Shower作品で世界一お腹の弱い女の子、ということにしていますので、その最強ぴーぴーキャラぶりを改めて満天下に示すためのアプローチとして、排泄内容としてひどい水下痢×3回の直接描写に加え、行列を観察して前に入った女の子のいろんな下痢排泄の様子を全て経験済みという経験値の高さアピール、さらにはお母さんが残した絶対に汚せない浴衣を着てのおもらし不可縛りプレイをクリアすることでこれだけのひどい下痢体質でもがんばって生活しているという精神力の強さも出してみました。いろんな意味でひかりちゃん凄い!と思っていただければ今回の制作意図は成功と思います。
 あとは人間関係の復習としてひかりちゃんと幸華ちゃん・美奈穂ちゃんの親友関係、隆君と白宮さんのもどかしい相思相愛関係を描き、最後に2学期へのイントロとして高峰中の少年、雄一くんとひかりちゃんの淡い交流を描きました。実は今回書いていて楽しかったのは排泄シーン以外のこういった人間関係のところで、彼女たちが排泄シーンを演じるだけの記号ではなく人格を持って生きていることを実感することができました。皆様の思い通りの展開ではないかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。

 では各シーンの解説というか好き勝手な感想をお送りします。
 
・Prologue
 実はつぼみ連載当初は走りながら考えている感じで先の先まで見越した伏線を張れなかったのですが、いろいろ展開や設定を考えたことでこういったちょっと雰囲気のある伏線を用意することができるようになりました。いつかこの場面はもう一度描くつもりです。
 
・Scene 1 早坂ひかりの日常
 久しぶりのつぼみ本編ということで、まずは冒頭のつかみとして定番メニューのひかりちゃん脱ぎかけ排泄を味わっていただく場面です。言わばお通しですね。個人的にこみパの千紗ちゃんの影響でキュロット好きなのですがひかりちゃんは汚してトイレから出られなくなるのが怖くて外で穿けないので部屋着として設定しました。

・Scene 2 澄沢百合の苦難
 超大量ぴーぴーフルコースという物量で勝負の百合ちゃんです。百合ちゃんのパワーアップイベントは「食中毒の後遺症」ということにしており、軟便→水状便とぴーぴースペック的に一番向上したのはこの子です。しかしこれだけスペック強化したにも関わらず、おそらく今回の排泄シーンの印象はひかりちゃんや白宮さんに遠く及ばないと思います。それにはちゃんと理由があり、彼女は「負けヒロイン」であることがアイデンティティだからです。
 これは(たぶん)「負けヒロインが多すぎる!」で明瞭に言語化された概念だと思います。作者がなぜか百合ちゃんの可愛いのに片思いで報われないところが異常に気に入っていたのですが、この属性が確立されたことで彼女が負けヒロインだから思い入れが強くなっていたとわかった気がします。単に白宮さんに勝てないだけでなく、妹的存在に落ち着こうとしてもより強敵のひかりちゃんと衝突するという、キャラ配置の段階ですでに詰んでいることも魅力だったと思います。青色髪ショートの髪型は負けヒロインの典型例とされており、2003年のデザインにも関わらず将来のトレンドを先取りしていたのかもしれません。
 負けヒロインは不幸になることが存在意義でもあり、今回の話の中でも不幸オーラがにじみ出るような展開にさせていただきました。今後は彼女の負けっぷりを描くのがテーマになりますが、しかしぴーぴー小説においては、それまでの積み重ねを無視してえっちシーン(おもらしイベント)が発生する可能性があり、彼女にも一発逆転のチャンスがあるのかもしれません。ぜひいろいろな展開を想像していただければと思います。
 ここのタイトルも当初は「後遺症」でしたが三大メインヒロイン揃い踏みらしさを強調するために変えてみました。一人だけ花火大会に行けなくて可哀想ですが、行ったらもっと可哀想なことになっていたと思います。

・Scene 3 大切な浴衣
 幕間展開として、簡単な舞台と状況の説明、ひかりちゃんが着ている浴衣の来歴、3年生の人間模様の復習、という内容で語らせていただきました。
 ひかりちゃんが亡き母に作ってもらった大切な浴衣を着て花火大会に行く、というのはずっと構想していた話で、「絶対おもらしできない」という強力な拘束条件をつけることができる魅力的な設定になりました。
 幸華ちゃん美奈穂ちゃんとのなかよし描写は今回一番楽しかった所で、1学期でも思っていましたが幸華ちゃんが非常に動かしやすく彼女を出すだけで自由自在に話を持っていくことができる貴重なキャラでした。感謝の印として今後は進行役だけでなくぴーぴー的な活躍も描いてあげたいです。
 美典ちゃんと叶絵ちゃんを直接出演させられなかったのは心残りですが特徴は描写できたのでいいかなと思います。2学期序盤ではかなり活躍機会が多いはずなので今回は充電中ということにしておきます。

・Scene 4 お祭り行列模様
 作者が大好きな大規模行列計算です。おとなしい女の子が好きなのであまり争奪戦っぽさは出さず、順番を守って漏らすべきところは漏らしてもらう展開になりました。花火大会なので混雑ピーク前としても20人くらいは欲しいなと思ったら案の定長くなりここだけで1作品くらいの分量になりましたが、非常に楽しく書けてお祭り作品らしさも出たので後悔はしていません。
 今回の描写手法は、「個室内の視覚的描写を全てメインヒロインの経験に基づく想像で代替する」ということで、これによって視点固定型三人称の形式を維持しつつ読者満足度を確保し、さらにあらゆる恥ずかしいシチュエーションを経験済みであるひかりちゃんの圧倒的な経験値をアピールする、というものでした。疲労湾さんのツイートで「個室外のメインキャラ視点でなく個室内のモブの排泄描写をするのがいい」という話がありましたのであえてその逆として、すべてメインヒロインを通した上で、見てきたかのように描写するというやり方にしてみました。
 お気に入りキャラは長時間水下痢の友村美咲ちゃん、短編でヒロインを張っていたおしっこ偽装しゃーしゃー水下痢の古河紗緒梨ちゃんと、実は3回目の登場となる隆君同級生モブの真中織恵ちゃんです。織恵ちゃんは作者お気に入りのモブキャラで、最初はトイレに行こうとするだけ、2回目は修学旅行帰りに下痢して出てきた後で排泄描写自体はありませんでしたが、今回は音と声だけながら下痢描写も書けておかっぱちゃん好きとしては満足しています。
 行列おしっこお漏らしのオーバーオールを着ていた丹下彩華ちゃんは作者が(今回の舞台とは別の)花火大会で目撃した実話に基づいており、行列のかなり後ろの段階でせわしなく足踏みしていてお尻が濡れてオーバーオールの色が変わっていた、という子をモデルにしました。かなりの範囲が濡れていましたが完全に漏らしきってはいなかったようでトイレに入る直前まで足踏み我慢を続けていました。かなり我慢強い子だったのではないかと思います。
 ラストに漏らしてもらった小川真琴さんは「時代背景が2000年なので中学生の子たちは携帯電話を持っていません」という説明のために恥ずかしいことを言わされた可哀想な人です。キャラクターとしては新設定ですが、名前を見ていただくと誰と関係があるかはわかるかもしれません。あと、修学旅行編で出演しながらつぼみ本編では1学年4人のヒロイン枠から漏れてしまった仁美ちゃんと美春ちゃんにも登場していただきました。これ以外にもコミックカーニバルにこの街から始発で出かけて参加していた晴美ちゃんと志遠ちゃんなど、同じ舞台を用いた既存作品で投入できるキャラクターはほとんど投入した豪華な行列になったと思います。おかげでぴーぴー率が高くてひかりちゃんはかなり危ないところでしたが……。

・Scene 5 あきらめない強さ
 前幕でひかりちゃんのぴーぴー的な強さを間接的に表現したので今度は直接的に絶望的な便意との戦いに打ち勝つことで精神的な強さを強調しました。(お兄ちゃん、お母さん……わたし…………まだ、我慢できる…………!)のくだりは頭の中で主題歌が流れ出しそうな感じでした。
 花火大会の仮設トイレでの下痢、アナウンスが聞こえる=中の音も丸聞こえ、外からノックされる中で一度拭いたのに便意再発してまた出してしまいさらに激しくノックされる、というのはとある花火大会のトイレ映像を再現しています。初出がどこかはわからないのですがのぞき本舗中村屋などで見たと思います。ひかりちゃんにやらせても違和感がないというかなり良質な下痢映像でした。
 ひかりちゃんは下す方向でのスペック強化はないですが、以前から考えていた「思考加速」をユニークスキルとして正式にPP属性化しました。もともとは隆君にパワプロ能力を設定しようとした時に「ピンチ○」をつけててひかりちゃんにも同じ能力をと思ったものです。機序としては社会的生命の危機に瀕することで交感神経が刺激されて思考が活性化するということで医学的にもそんなにおかしくないだろうと思います。ひかりちゃんは単純な我慢力強化は持たないのですが、これで高速な思考が可能になることで様々な選択肢を瞬間的に評価して最善の選択ができ、結果として長時間の我慢が可能になる、という位置づけにしています。その過程ではお漏らしする未来もたくさん見てしまうため当初はPPゼロシステムとかPPオーバークロックとか呼んでいましたが最終的には読んでわかりやすい属性名にしました。実は1学期の期末試験の時もこの思考加速を利用してありえない速さで試験問題を解いており、ギリギリの状態を維持できれば超人的な知的能力を発揮することもできます。

・Scene 6. 夜風の再会
 幕間その2。ひかりちゃんと雄一くんの出会い、いわゆるひとつのボーイミーツガールというものです。ぴーぴー設定に趣向を凝らす分、ラブコメとしてはわかりやすいほどにベタな展開にしようというつもりで書いていました。
 雄一くんは作者としては当初から考えていたキャラではありましたが、読者の皆様から見るとポッと出の男の子ですので、みんなの愛する妹であるところのひかりちゃんを横からかっさらっていく印象にならないように、その性格や行動、ひかりちゃんとの距離感についてはかなり悩みながら描写しました。ここでありがたかったのが「今は亡きお母さんの思い出」という話題を作れたことで、文句を言いにくい卑怯な手段かもしれませんが話の流れも自然になり、そういった印象も抑えられたかなあと思います。
 ひかりちゃんも彼のことが気になっていますがまだ気持ちははっきりしてなさそうですので、今後どのような流れで仲良くなり、あるいはどのような流れでお腹の弱さを知られることになるのか、温かく見守っていただければ幸いです。
 ここのタイトルは直前まで「夏の夜の再会」だったのですが、いまいち特別感が足りなかったので2日前に変えました。お兄ちゃんを通じた知り合いだったことがわかって見つめ合う場面で「痕」の「夜の風」をBGMに楓ちゃんの顔アップCGが入る場面が浮かんできたので、夜風をアクセントとして使い幻想的な雰囲気を目指してみました。

・Scene 7. 白宮純子の秘密
 登場シーンの美少女っぷりの描写をまるで排泄シーンの地の文を書くような勢いで書いていたのが印象に残っています。トイレ行列に並ぶことすらできない我慢力のなさをしっかりアピールし、物陰で下痢便全量おもらし、さらに液状便ノーウェイト噴射おかわりという内容で、今回はひかりちゃん主役回なのですが主役を食うレベルの人気が出そうな内容になり、さすが白宮さん、と改めて思っています。
 白宮さんのスペック強化は、後付け設定だということは自明なので恥も外聞もなく言ってしまいますが「軟便~普通便だったのは、下痢体質なのを無理やり薬で抑えていた」ということにしました。1学期の後半ですでに物足りなくなって下痢描写を入れていたので、その理由を後からこじつけたといってもいいかもしれません。今はまだフルパワーではありませんが、この調子で行くと下痢止めがさらに効きにくくなっていきそうですので、いつまで隆くんの前で漏らさずにいられるかを楽しみに見守っていただければと思います。
 新ぴーぴー属性「ダメージコントロール」は早川オコゼさんの連載小説「きみのおしりを汚したい」の登場人物、高橋順子ちゃんが披露した「お漏らし寸前に靴を脱ぎ捨ててスカートを跳ね上げて着衣の被害を最小化する」動作から属性化したものです。限界状態でとっさにこんな判断ができてしまうほどの経験値がなくては習得できない、持っているだけで可哀想になる非常に魅力的な属性になりました。順子ちゃんの壮絶な駆け込み方に比べて白宮さんの描写は単なる二番煎じで、下駄の捨て方もおとなしいし浴衣も大胆に跳ね上げたりはできなかったのでインパクトは薄いですが、液状便が出始めてから「下手に身動きするより漏らし切ってしまった方が被害が少ない」と判断するところが印象的かなと思います。「漏らし切る」は最初は地の文だけだったのですが、語感が気に入ったので白宮さんに心の声として言わせてしまいました。
 そういえば二人とも名前が「じゅんこ」ですね。おもらし体質の子にぴったりの名前としてご活用ください(全国のじゅんこさんごめんなさい)。
 ぴーぴー性能強化だけでは可哀想だったので隆くんとの恋愛関係は一歩進展、ということになりました。その分逃げ場はなくなるので、彼女にとってはさらなる試練が待ち受けることになりますが……。

・Scene 8. 明日、進むべき道
 2学期の方向性を少し示しておかなくてはと思って書きました。21話の次回予告では雄一くんが早坂家を訪れて高峰高校に勧誘する予定だったのですが、尺の都合と、ひかりちゃんとのふれあいを増やすために花火大会の中でそのイベントを入れることにしました。
 ぴーぴー小説的には隆くんが男子校の高峰高校に進むメリットは全く無いので即断即決で断るのは既定路線です。ひかりちゃんの「わたしを甲子園に連れてって」も回想でなくちゃんと書きたかったところですが、甲子園編を書く余力がなく、ぴーぴー描写とも恋愛描写とも関係ないのでこれまた尺の都合ということでさくっとナレーションで済ませてしまいました。
 進学校なのに隆君が合格できるかは2学期の頑張り次第ということで。

・Scene 9. 光の滝
 今回全体的にタイトルが決めにくかったのですがここは一発でした。
 一応名称は架空のものにしていますが、つぼみたちの輝きの舞台であるけやき野市は作者の出身地がモデルになっており、この花火大会やフィナーレのナイアガラも実際のものを題材にしています。私も例に漏れず女の子と見に行きたいと思いながらも、残念ながら中高生時代には女の子と一緒に行くような縁はなかったのですが(今思うと某キャラのモデルの子を誘えば来てくれたかも)、妻と婚約してから一度見に行ったので少年時代の夢は何とか叶えることができました。
 お祭り作品の最後の締めとして、ナイアガラの光の滝を背景にしゃがみ込んで滝のような水下痢を出すひかりちゃん、というビジュアル優先で書いたシーンです。ぢたま某の「聖なる行水」で花火を背景に立って神々しい雰囲気でおしっこをする場面があり、それの水下痢版として考えた構図です。いつか自分でファンアートを描くとしたらこの場面ですね。

・Epilogue
 今回、かなり不幸な雰囲気を出していた百合ちゃんとの対比でもありますが、ひかりちゃんが(おかっぱちゃんとしては)少し明るく積極的な感じになっています。つぼみたちの輝きは、ひかりちゃんがゼロからいろいろな絆を手に入れていくことをコンセプトとして書き進めていたので、今回は1学期の総括として、(お腹はぴーぴー平常運転ですが)兄と親友と憧れの先輩に囲まれて幸せに生きている、ということを明示しておこうとしてこの節を入れました。ひかりちゃんの2学期は試験での潤奈ちゃんとの真剣勝負や、雄一くんとの関係がメインになりますが、そこでさらなる幸せをつかめるのか、または絶望するほどの悲劇的なおもらしに至ってしまうのか……ご期待いただければ幸いです。

 ともあれ、これで何とかつぼみたちの輝きを「今後更新されない可能性が高いと思われます」から「連載中」という状態に戻すことができました。この機会にマシュマロを用意しましたので、感想やキャラへのメッセージ、質問などお寄せいただければ幸いです。

https://marshmallow-qa.com/28e1n46v2t0q7bl?t=WtzfZl&utm_medium=url_text&utm_source=promotion

 雪灯りの道でやっている「ゆかりと明子のおしえて!ぴーぴーラジオ」と似たような感じですが、小説コンテンツの一部として回答予定のあちらとは別に、カジュアルな形で随時受け答えさせていただければと思いますので、お気軽に書き込んでいただければと思います。
 あと、大変恐縮なお願いですが、サイト版で読んで気に入られた方はPixivのブックマークとかいいねを入れていただけるととても嬉しいです。昔はサイトのHIT数でしか見えなかったのですが、個別の作品や場面を気に入っていただけたことがわかるととてもモチベーションが上がります。好きな場面アンケートもぜひお願いいたします。

 最後に謝辞として、つぼみたちの輝きを愛して支えていただいた皆様にあらためて深く感謝申し上げます。特に挿絵やキャライメージ絵を書いていただいた⑦さんにはどれほど感謝してもし足りません。自分で絵を描くようになって思い知りましたが2003年の機材や資料であれだけの美しい絵や下痢描写を描かれていたことは驚嘆するほどで、その技術と熱意をつぼみたちの輝きに捧げていただいたことは私の人生をかけて感謝したいと思っております。前にやり取りしていたメールが不通になってしまったのですが、もし見ていらっしゃったらどんな形でもいいのでお声がけいただけると嬉しいです。
 それ以外にも、作者以上に物語やキャラクターを愛していただき、熱意に溢れた感想を聞かせていただいた麦茶さん、早川オコゼさん、ななじゅさん、ウニ体さん、Mapinさん、疲労湾さんにも特に感謝したく思います。尊敬するクリエイターの皆様にも愛された作品ということでなんとか書き続けたいというモチベーションを復活させることができました。それ以外にも思い入れを持って読んでいただいた多くの方々に深く感謝いたします。若い皆様がこの作品で性癖に目覚めたという話も聞くようになり、ぴーぴー文化の発展に貢献できたということは何よりも嬉しく思います。特に収益化を考えず無料で公開していたわけですが、○学生の頃に読んで目覚めましたという話をうかがうとそれが正しく報われたように思います。
 ぜひもっと若い皆様に読んでいただいて、下痢作品の輪がもっと広がればいいなと思っています。つぼみ1学期でさえも私の性癖に100%合ってはいなかったように、おそらくどれほど好きな作品であっても自分の求めるものと一致することはなく、その渇望は自ら理想の作品を作り、作り続けることでしか満たされないのだろうと思います。創作するようになるとクリエイターの方々と親しく絡めるようになるというメリットもありますので、ぜひ一人でも多くの方に創作の道に進んでもらいたいと思っています。素人の状態からでも大丈夫、というのは私もイラストで経験しましたので、ぜひ気軽に作品を作って公開してみてください。つぼみに刺激されて創作を始めました、と言っていただけるのが私の一番の幸せです。

 それではまた23話で、それから他の小説やイラストでもお会いしましょう。改めまして今後ともよろしくお願いいたします。


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